18.クロウリーと魔法演習
中々ご都合主義です。
その日は、いつも通りだった。
朝から予習に精を出していたマルティーナの横に座り、私もまた予習をしていた。
午前の授業も終わり、昼食を食べに食堂に向かった。
マルティーナは普段から余り食べないが、その日はいつも以上に食べなかった。
パンを一欠片だけ口に入れ、終わった。
「食べないのか?」
「食欲が無くて」
よく見ると顔色が悪い。
目の下のクマは隠し切れておらず、血の気が引いて白い。
唇もカサついて今にも切れそうだ。
「顔色が悪い。保健室へ行こう」
「大丈夫ですから」
マルティーナは頑なに首を縦に振らない。午後の授業もありますから、と休むつもりはまるで無い。
午後には魔法の授業がある。無理をしないよう見張るくらいしか私には出来ない。
何がなんでも、この時休ませておけば良かったと、私は後悔する事になる。
魔法の授業は学年合同で行われる。
広い演習場に集まり、各々魔法を発動させ、時にはぶつけ合ったりもする。
私はマルティーナを見張る為に傍にいた。
ふと、近くにエリザベスとマルティーナの婚約者がいる事に気が付いた。マルティーナから、婚約者の名前はジェイコブだと聞いていた。
ジェイコブは私に対して何か言いたげな表情を向けていたが、マルティーナの顔をチラリと見て顔色が悪いのに気が付いたらしい。口を開こうとして、ジェイコブはエリザベスを思い出した様に口を噤む。
エリザベスはそんなジェイコブの様子を見て、まるで親の仇でも見る様な鋭い目付きでマルティーナを睨み付ける。
マルティーナは何かを考えているのかぼんやりと宙を見つめていた。
顔色は変わらず悪く、心なしかふらふらしている。
「今日は決闘だ!鐘が鳴るまで立っていた者に評価を与える!」
笛の音が鳴る。余りにも雑過ぎる説明だが、至る所で魔法のぶつけ合いが始まった。
エリザベスは脇目も振らず、マルティーナへと向かう。
マルティーナはエリザベスを迎え撃つ。
エリザベスは小さな魔法を何個も畳み掛ける様に発動させていく。
マルティーナは魔法をぶつけ、相殺していく。
「やりますわね、マルティーナ様…!」
「貴女、こそ」
マルティーナの手助けをするべきか悩んでいると周りから魔法が飛んできたのでその対処にあたる。
助ける暇などない。だが、妖精の加護を受けたお陰か今迄の威力や発動時間などまるで違う。
すると、ジェイコブが目の前にやって来た。
ジェイコブは地面から木を生やした。周りの空間から遮断し、二人きりになる。ジェイコブは追撃せず、両手を軽く上げ、何もしないと意思表示した。
「申し訳ない、マルティーナに手紙を渡して欲しい」
「手紙?自分で渡せばいいだろう。君はマルティーナ嬢の婚約者だと聞いた」
「…エリザベスには秘密にしたい。それに、貴方からだと警戒しない筈」
差し出された手紙を受け取るが、思わず渋い顔をしてしまう。
「時間がないんだ。家に手紙を送ればいいと思うだろうが、きっとマルティーナの兄達に見つかれば捨てられるだろう」
確か、マルティーナの二つ年上の兄は同じ貴族学園に所属している。
ジェイコブの噂も耳にしている筈。
仲睦まじい様子を見た事がある。あの兄ならば、確かにジェイコブから手紙が来ていると知ればマルティーナの手から奪ってでも捨てるかもしれない。
それよりも。
「マルティーナ嬢の兄はまだ何もしてないんだ?知ってたら婚約者解消させそうだけど」
「マルティーナが止めているのかも知れない。仕返しする準備をしているのだとは思うが。だが、一度話をしたい」
マルティーナと向き合わないといけない。
そう言ったジェイコブは憑物がとれたかの様にすっきりとした顔をしていた。
ジェイコブの事は知らない。マルティーナの事も深くは知らない。
だから、二人の関係性も知らない。
彼はマルティーナに対し何か勘違いをしていて、その真実を知りたいだけかも知れない。
手紙はマルティーナに渡すと約束し、生えた木を風の刃を作りなぎ倒す。
巻き込まれてジェイコブも飛んで行った。後で謝る事にしよう。
周りにはちらほら倒れている生徒がいた。慌ただしく動き回って治癒魔法をかける先生の姿も。
マルティーナはエリザベスだけでなく何人かの生徒に囲まれて魔法の攻撃を受けていた。
火の玉や水の玉、雷がマルティーナを襲おうとした瞬間、マルティーナを中心にエネルギーが放出された。
エリザベス達は飛ばされていき、マルティーナだけが立っていた。
そして、色素の薄い青の瞳を見開き、ごぷりと口から血を吐いてマルティーナは倒れた。
そもそも貴族令嬢令息たちが魔法ぶつけ合うってどうなんだとは自分でも書きながら思ってました。




