15.ジェイコブの怒り
マルティーナが最近、とある男子生徒と仲睦まじく行動を共にしているらしい。
その噂を耳にしてから、ずっと苛々している。
エリザベスは大きな瞳に涙を潤ませ、「ジェイ様に相手にされないからって酷い女ですわ」と言った。
本当にそうだと思った。
そんなに嫌で、他の男に縋り付くくらいならば、婚約破棄を直ぐにして欲しいくらいだ。
何故、婚約破棄をしてくれない?
エリザベスと出逢い、許されないと思いながらも恋に落ちた。
マルティーナとの結婚からは逃れられないと分かっていたから、エリザベスは側妻として迎えよう。そう考えていた。
誰にも知られぬ様、密かに愛を育もう、と。
エリザベスに、他の女と恋仲になったと知れば矜恃の高い伯爵家は婚約破棄をする筈だと囁かれ、隠す事を辞めた。
俺とエリザベスの関係は面白いほどに学園に駆け巡った。そして、マルティーナがエリザベスを害していると言う噂も。
そんな状況になっても、マルティーナは俺に接触しては来なかった。
余計に腹が立った。
俺に興味のない振りをしておきながら、エリザベスには手を出すその性根の悪さに。
エリザベスは何度も「私が悪いのですから」と涙を零しながら苦痛に耐えていた。
俺が庇おうにも、マルティーナは俺が居ない時を狙っていた。
俺から出向かないとマルティーナとの会話もままならない。
後ろめたいから逃げ回っているに違いない。
ある日、マルティーナの姿を見た。
黒髪に赤目の背の高い男子生徒の手を引き、表情を生き生きとさせ、走って何処かへ向かっていた。
俺には、見せた事のない、楽しそうな表情。俺と対峙する時には無い、迸る生命力。抑え込めない、躍動感。
そして、気が付いてしまった。
俺が、それらを抑え込んでいたのだと。俺が望む婚約者は、マルティーナと別者だった。
だから、感情を押し殺し、人形みたいに無機質だったのだと。
貞淑であれ、控えめであれ。
男を立てる女であれ。
男の後ろを歩く、女であれ。
俺の心を必要以上に叩きのめしたのは、その反抗だったのだろうか。
ただ、言われっぱなしが嫌だっただけかも知れない。
それを知る機会は、俺自身の手で潰してしまった。
俺はマルティーナを抑制し続け、彼女は文句一つ言わない代わりに、俺の心を躊躇なく圧し折った。
もっと話すべきだった。もっと、彼女と向き合うべきだった。
俺の恨みは消えないし、マルティーナが歩み寄る事も無いだろう。
言葉にならない感情が胸に渦巻いた。
許すつもりなど全く無い。
そんな折、両親に呼ばれて居間に向かう。両親は渋い顔をしていた。
「ジェイコブ、お前が男爵家の令嬢と恋仲だと耳に挟んだ」
次もまだジェイコブ視点です




