13.マルティーナの提案
食堂で共に昼食を摂ってから、私とクロウリーはどんどん仲良くなった。
辺境伯だと知った時は驚いたものの、鍛えられた身体の理由が分かった。
辺境伯は国境を守る砦。
自ら前線に出る事も有るだろう。だからこそしっかりと鍛えているに違いない。
一度は手合わせしてみたいものだ。
クロウリーも勤勉で、努力を惜しまなかった。
一緒に予習をしたり、図書室で勉強をするのはとても楽しく、有意義な時間だった。
難しい問題も共にうんうん唸り、答えを導き出す時間は、ジェイコブとは出来ない。
お陰で随分と先まで勉強してしまった。
授業を受ける時に答え合わせが出来るのでそれもまた楽しみである。
相変わらず、エリザベスからの妨害は凄まじい。
図書室にクロウリーと向かうとエリザベスの差し向けた生徒達が邪魔をしてくる。
曰く。
「婚約者がいながら他の男と密会なんて」
「婚約者に恥ずかしいと思わないの?」
それ、ジェイコブとエリザベスに言えば?
こっちは一緒に勉強しているだけで、睦言を交わしたりしてません。
「勉強の邪魔なんで退いてください」
言葉が通じない相手の様だ。
退こうという素振りさえ見せない。
私とクロウリーを無視してわいわいしゃべりだす令嬢、令息を前に、私は表情を凍らせた。
ついでに空気も凍らせた。
急激に下がった気温に身体を震わせた生徒たちは私に向き直り、顔色を悪くした。
私はただ、微笑んでいるだけである。
「勉強の邪魔ですの。用がないなら何処かへ消えてくださいまし」
「本当冷血だな!クロウリー様もこんな女とつるんでいたら評判が悪くなりますよ!」
「それを決めるのは私だ。去れ」
さらに気温が下がる。
クロウリーも空気を凍らせたらしい。
ついに真っ青になった生徒達は泣き言を言いながら走り去った。
それにしても、クロウリーは見事な魔法使いだ。
妖精の加護無しに素晴らしい。
もし妖精の加護を受けたら途轍も無い魔法使いになるのでは無いだろうか。
「ありがとうございます、クロウリー様」
「こちらこそ。本当に君は逞しいな」
「いえ、時にクロウリー様。妖精は信じますか?」
クロウリーを見上げると、不思議そうな表情を浮かべていた。
そして、頓珍漢な事を言う。
「実はマルティーナ嬢が妖精とかか?」
「私をなんだと思ってるんです」
真顔で冗談を言う男だと思ってなかった。
面食らったが、まぁいい。本題に入ることにする。
「妖精は存在すると思いますか?」
「昔はいたが、今は…どうなんだろうな」
「いるって言ったらどうします?」
「会ってみたい。会えるのか?」
クロウリーは真紅の瞳をキラキラと輝かせている。
普通の魔法使いなら、一度は憧れるだろう。妖精の加護を受けると、魔力量が増えたり、難しい魔法でも手助けをしてもらえたり、何かと便利になる。
妖精さえ見えれば加護は受ける事が出来る。
ワールヴォル家がそうだったから。
ジェイコブには妖精なんて居ないと頭ごなしに否定されたので、そもそも妖精に会う事さえ叶わなかった。
魔法を自在に使いこなせる様になりたいと思いながらも、そのチャンスをドブに捨てている。
それに引き換え、クロウリーは中々の好感触だ。ヴィオ兄さんとアル兄さんも昔、妖精の話をした時、こんな感じだった。
少しでも信じているのならば、話は早い。
心から信じさせればいいのだ。
「妖精はいます。ワールヴォル家は妖精の加護を受けてるんです!」
「確かに、ワールヴォル家の騎士は魔法も素晴らしいと聞く」
「私は妖精とクロウリー様を引き合わせる事が出来ます」
だから、信じて。
私の熱意が伝わったのか、じわじわとクロウリーは破顔した。
お互い満面の笑みを浮かべ、無言で固い握手を交わした。
「さぁ、行きましょう!善は急げと言います!」
「あぁ、行こう!」
ずっと廊下で話し込んでいたが、幸いにも近くに誰もおらず、妖精の話を聞く者は居なかった。
その代わり、遠目で私とクロウリーを観察していた人たちは突然握手をする私達を訝しんだ事だろう。
そして、子供みたいに走って何処かへと向かうのも見えた事だろう。
でも気にしていられない。
早く妖精達とクロウリーを会わせたい。ただ、それだけ。
そしてあわよくば。
(手合わせとか、したい)
若いってイイナー




