表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/11

第6話 誠意

「私の、専属護衛(ボディーガード)になって!!」


 その唐突な提案に、栞は思わず素っ頓狂な声を漏らし、首を傾げた。


 一方、コヨミと同じソファに座っていた嬭苑(ジエン)は、火のついていない煙草を咥えたまま、顔にデカデカと『めんどくせー』と書いて固まっている。


「ちょ、ちょっと待って。専属護衛って?」


 急激な展開に目を回しつつも、なんとか思考を巡らせて問い返す栞。

 そんな彼女に対しコヨミはきっぱりと胸を張って答えた。


「だって二人とも、【侵星群(インヴェーダ)】に立ち向かえるほどの実力と勇敢さがあるでしょ? それに、ボディーガードってなんかカッコいいじゃん!」


(随分と、歌姫さんらしい単純な理由なこった)


 嬭苑は変わらず煙草を咥えた状態で、深々と足を組み直す。


(オレ)は反対だ」


 呆れを含んだ短い拒絶。

 それに、コヨミはぷくっと頬を膨らませて猛抗議する。


「どうしてっ! 私なら君たち二人をここで養ってあげられるし。それで今後も侵星群に襲われた時に護ってくれれば、お互いウィンウィンじゃん!」


 地団駄を踏み、なんとか説得しようとするコヨミ。まさか反対されると思っていなかったのか、必死に食い下がる。

 だが――。


「無理だ。少なくとも、己達じゃない。もっと適任なヤツを金で雇え」


「な・ん・で・よぉ~~!」


 バタバタとソファに倒れ込み、子供のように手足をバタつかせて駄々をこねるコヨミ。

 その姿を一瞥し、栞は嬭苑へと視線を向けた。


「コヨミの提案は、聞いた感じ悪くない条件だ。何がダメなんだ」


 すると嬭苑は、咥えていたタバコを指で挟み取り。一切の感情を削ぎ落とした、殺意すら孕む冷たい眼差しで栞を見据えた。


「己とテメェは、決して相容れない存在だってコトだ」


 その重く、冷徹な言葉に、栞は息を呑んだ。


 そうだ。成り行きで共闘し、すっかり感覚が麻痺していたが、自分たちは元々。互いの命を奪い合うために存在していたのだ。


 急に冷え込んだ空気に、駄々をこねていたコヨミも目をパチパチと瞬かせ、不安げに首を傾げた。


「しおりちゃんとジエンって……お友達とか、お仕事の仲間じゃないの?」


「ちげぇよ」


 嬭苑は手元のタバコを見つめたまま、地を這うような低い声で吐き捨てた。


「己は世界に反逆するマフィアのボスで、コイツは特殊部隊のリーダー。己達は、元の世界じゃ殺し合うためだけに出会った、対極の存在なんだよ」


「…………」


 あまりに血生臭い真実に、コヨミは何か言いたげに唇を震わせたが、結局言葉を紡ぐことはできなかった。


 重苦しい沈黙が降りる。


 しばらくして、嬭苑は壁のデジタル時計を一瞥すると、ドッコイショと体を揺らして立ち上がった。


 煙草をポケットに突っ込み、二人に背を向けてキッチンへと歩き出す。


「……腹が減ってはなんとやらだ。詳しい話は、飯食ってから明日以降にすりゃいい」


 ぶっきらぼうな背中が、キッチンへ向かうのを見届けた後。栞はふと、ずっと気になっていた疑問を晴らすべく、コヨミへと視線を移した。


「コヨミ。少しいいか?」


「え、うん……?」


 コヨミがコトリと首を傾げる。そのあまりに無防備で自然な仕草に、栞は一瞬だけ心臓が跳ねるのを感じたが、小さく深呼吸をして平静を取り繕った。


「さっき君が言っていた、()()()。それは……私や嬭苑を襲ったあの化物のことか?」


 栞の問いに、コヨミは何度も頷く。


「その侵星群というのは、一体何なんだ。目的は?」


「……私も、詳しいことはよくわからないんだけど」


 コヨミはギュッと膝の上で両手を握りしめ、言葉を選ぶように俯いた。


「次元を裂いて現れる、未知の生命体……みたいな感じ。でも、一つだけ確かなのは、人間に危害を加える……すごくヤバい存在ってこと……」


 キッチンから嬭苑が(勝手に)肉を焼く音が聞こえる中。コヨミの表情には、天真爛漫なアイドルらしからぬ、深い恐怖と怯えが影を落としていた。


「それと、ね…………」


 コヨミがゆっくりと顔を上げる。


 栞と視線が絡み合った。その瞳の奥には、孤独な夜を一人で歩き続けてきたような、暗い絶望が渦巻いていた。


 彼女は血の気の引いた唇を震わせ、誰にも言えなかった秘密を吐き出す。


「私、アイツらの『()』が聞こえるの」


「……声、だと?」


 予想外の言葉に、思わず聞き返す栞。


 数十秒の静寂が流れる。やがてコヨミは、自分自身を抱きしめるように両腕を交差させ、絞り出すように呟いた。


「『歌え』って……アイツら、ずっと私に言ってるの」


 その一言は、栞の胸の奥に、かつてないほどの重い疑問と――この脆く小さな少女を理不尽な運命から護り抜きたいという、無自覚な熱情を植え付けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ