コイントス
ふざけるな。
俺の体が目の前にあるんだぞ、ここで終わる訳にはいかない。
俺の……いやこの体の手足よ、頼むから動いてくれ。
まるで夢の中で体を動かしているかのように、足はうまく動いてくれない。
腕も金属で固められているかのように動かない。
「先輩?」
俺の魂がマリラに飲み込まれつつある。
早く、早くしねぇと俺は戻れなくなる。
俺が消えてしまう前に……。
「頼む、やってくれ」
「先輩!? ちょ、先輩ってば!」
ーーーーーーーーーー
『それで、タリラは何故こんな無茶な討伐隊に参加したんだ?』
『何故? そりゃ、この世界一の魔術師が居ないと負けるだろうからな、無駄死には可哀想だったんだよ』
『ナマイキなガキだな……お前師匠の方が強いんじゃねぇのかよ』
『師匠が出る必要はない、私一人で十分だ』
『お前一人だったらここに来るまでに何回死んでるだろうなぁ? 魔王の砦近くのこの場所だって、セクションが悪魔を片付けたからこそ安全なわけで、へばってたお前だけなら』
『うるさいぞ、オッサン』
『お、オッサン……おいセクション! お前からも言ってやれ!』
『タリラはちょっと抜けてるぐらいが可愛いのよ、いつも自信過剰で、無い胸を張って……はぁ、本当にタリラは可愛いわね』
『ふふん、バルトロスよ無駄だぞ。セクションは私の味方だからな』
『自分の師匠をママって呼んで甘えて、ママの為に魔王を倒すって意気込んでるタリラも素敵で大好きだわ』
『おいセクション! それを言うな!』
『でもピリラさんばっかり見てるタリラは……好きじゃないわ』
『うるさい! 私が勇者にならなかった以上、ママは私を見捨てるかもしれないんだ。倒して力を証明しないと……後がないんだよ』
『ママに見捨てられたくない……ねぇ、俺の息子がこんなマザコンにならねぇことを祈りたいね。俺の妻は本当に美人でスタイルも良くて、男の理想が詰まったような素敵な』
『はいはい、私もセクションもあの無駄な肉を胸に蓄えた女の話はもう聞き飽きてんだから止めろ、気持ち悪い』
『タリラは男になんて興味持たなくていいからね、アンタはアンタのままでいいのよ』
『んなことわかってるての、私は師匠一筋だ』
『……やっぱり、そのままは嫌ね』
『どっちなんだよセクション!』
『みなさん! 少し向こうを見てきましたけど、やっぱり今は行かない方がいいかもですね。ライフさんやムウマさんが道を作ってますけど、かなり苦戦してます』
『偵察ご苦労だったな、クォーツ。騒がしくてすまん』
『俺は戦闘力はほぼ皆無ですからね、こういう方法てましか貢献できませんもん。それより前から思ってましたけど、タリラ様とセクション様ってその、ゆ、百合百合な関係だったりします?』
『百合百合? なんだそれは、セクションは知ってるか?』
『えーっとね、その、百合百合って言うのはね……最強のコンビって意味よ。タリラと……アタシみたいな』
『成る程な……流石転生者の言葉に詳しいな』
『へ? いや、全然そんな意味じゃ……ヒイッ! セクション様剣を構えるのを止めてください!』
『クォーツ、さっきの質問にこのタリラ様が答えてやろう。私とセクションは最高の百合百合だ!』
『タリラ……私もそう思ってるわ』
『歪んでますよね……バルトロス様』
『いや、俺達は何を見せられてんだ? てか、一体百合百合って何だ?』
『触れない方がいいっすよ……はい』
『ではバルトロスにこのタリラからの質問だ、心して答えるがいい』
『あん?』
『お前はかつて壊滅の二つ名をもらう程の働きをしたのは知っている。だが、第一大陸でお前はバルトロス左遷大佐と呼ばれていたな、左遷大佐とはなんだ? 英雄と呼ばれたお前が左遷される程のことをーー』
ーーーーーーーーーー
酷く、懐かしい夢を見ていた。
魔王に挑む前の最後の休憩で、いつも通りのくだらない会話をしていたあの頃の夢だ。
バカみたいな話をしていないと、魔王の砦の近くにいるストレスや人の死臭、そしてプレッシャーに押し潰されるかもしれないとレイアが心配していたが、俺達にはいつもくだらない話があった。
クォーツがセクションの着替えを覗いてみじん切りにされそうになった時の話。
タリラが酔ってセクションをピリラだと勘違いしてキスを迫った時の話。
セクションが剣を何回も折って、剣士として動けなくなった時の話。
そして、俺が左遷された時の話まで、話題が尽きることはなかった。
楽しくも、嫌な記憶だ。
とにかく喉が乾いたな、体はまだ動かないが……とりあえず動くようになったら水でも……。
「体の具合はどうですか、先輩」
「お姉さんも頑張っちゃったゾ☆」
ネマもいるのか。
ああ、大丈夫だぞ。
「大丈夫だ、少し痛むが……セクションも痛みは生きている証だと言ってただろ? だから問題ない」
……今の声はなんだ。
酷く聞き覚えのある声。
いや、聞き覚えとかそんな話じゃない。
だってその声は、その声は俺のーー。
「おかえりなさい、バルトロス様!」
「お姉さんが頑張って治したんだから、痛みに文句言ってたらぶっ飛ばしてたゾ☆」
「ネマ、クォーツ……ありがとう。あとぶっ飛ばすのは止めてくれよ? 今の俺じゃルイサにすら勝てないんだからな」
ああ、そうか。
「だーかーらー、そんなことしませーん! あ、後でシアコトル様にチクっておこっかな、旦那さんにいじめてくれってお願いされたって……」
「やめろ! シアの機嫌を損ねたら俺は確実に殺されるんだぞ!? それよりも、早くシアを抱きたい……あとルイサを教育しないとな。アイツは俺を支配して手元に置くやり方こそ愛だと思ってやがるが、それは愛じゃないって教えてやらねぇと」
「先輩が息子に惚れられてたのを見た時は本ッ当に頭が真っ白になりましたからね、あと息子さんに男のメンヘラは気持ち悪いだけだってビシッと言ってやってください」
俺は、コイントスに負けたんだ。




