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俺が惚れた少女は、何故か親父の面影を抱いている  作者: ケイト
二幕目 嫌だッ! 息子の子供なんて孕みたくないッ!

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ルリラ




 この数の墓と、刻まれた名前の違和感がひっかかる。

"カツラギ·ケーウン"。

"ユイモト·ユイナ"。

"ムウマ·C·ルールー·4"。

苔に覆われ、一部は破損しているし俺には読めない文字もある。

だが、ここに刻まれている名前は第二大陸の人間の名前じゃないことを考えれば……。


「大丈夫だぞロス! 怖くなったら俺を抱き締めていいからな、さぁこい!」


「ロスさん、これって……」


「詳しくは知らないけど、転生者選定の跡地だと思う」


「お師匠様から聞いてはいましたが……どれだけのハズレがここで処分されたのでしょうか」


 だがそうすると、ウェルハの裁きってのがわからない。

クォーツの話では心優しく、人々を救う信念に燃える神らしい彼女が本当に裁きを下すのだろうか。

選定はウェルハが止めさせたとも聞いているし、なおさら……。


「転生者選定……あ! 俺知ってるぞ、教科書で見たからな!」


 そんな胸を張って言うことじゃないぞ、常識だバカ息子。

ラタを見ろ、少し可哀想な人を見るような目でひきつり笑いしてんじゃねぇか。

息子よ、確かに男が弱みを女に見せるってのは信頼の証としてアリなやり方だ。

だがそれはある程度関係性が固まってからなんだ!


「頭も弱いんですね……」


「なっ、バカにすんなよ!? こう見えても勉強は出来るんだぞ?」


「勉強なんて出来て当たり前ですよね?」


「コイツ……それに俺は銃士でお前は魔術師だ! お前は知識をつけて当たり前だが、俺は知識よりも経験が重視されてんだよ」


「はいはいそうですか……学校で学んだ言い訳が今活かせてえらいですね」


 ラタを守れと言ったばっかりだし、ルイサはラタを守ると言ったばっかりのはずだ。

なのに今バカ息子はラタと取っ組み合いの喧嘩をしてやがる。

死人が眠る場所で騒がしくするなっての。

とりあえずここに居ても意味はないし……。


「この墓って……」


 進んでいると、黒色の墓石が視界に入った。

それは他とは違い、綺麗に手入れがされている。

人がいるってことは確定だろうが、問題はそこじゃない。

そこに刻まれた名前だ。

どうなってやがる、ここは転生者の墓なんだろ?


「マリラ·ルリラ……ラタ、知ってる?」


「いえ……お師匠様でも、お師匠様のお師匠様でもありませんし、遠い先祖でしょうか?」


「母親から何も聞いてないの?」


「母親ですか? うーん、言われてたとしても覚えてないというか……」


 タリラのことだから、言っていない可能性もある。

だが、この墓から溢れ出る魔力はタリラと全く同じだ。

そもそも墓から魔力なんてどんなカラクリが……。


 俺が墓石に触れた瞬間、世界が変わった。

空は暗く、冷たい風が吹いている。

鼻を刺すような酷い腐臭に一歩足を後退させると、カラカラと乾いた物がぶつかる音がした。


「骨? ここはどこだ……ルイサ! ラタ! どこにいる!」


 この骨は間違いなく、人の骨だ。

墓石に何か魔術でもかけられていたのか?

しかしもしそうなら、ネマから貰ったこの銃が罠だと教えてくれるはずだから……違う、今考えるべきは理由じゃないだろ。

ここが何処で、ルイサとラタが無事か否か、それだけだ。


「ルイサ! ラタ!」


 骨の大地を進むが、どこまで進んでも骨しかない。

だが俺の進む方角からは、この嫌な匂いがするんだ、骨からこんな匂いは絶対にないのだから、何かがあるだろう。


 匂いも耐え難いが、この肌に張り付くような魔力から感じる底なしの怒りと恨み。

人の暗い一面がこれでもかと伝わってきやがる。

魔力で全身を覆ってこの不快感を消そうとしてみても、この魔力の持ち主が俺より強いらしく、俺の魔力がのみこまれていく。


『許さない』


「ッ!? 誰だ!」


『私のママだったのに』


 とっさに銃を構えて骨の山にカタストロフを撃ち込んでみるが、空間を削り取る射撃のはずのカタストロフはただの銃撃のようになっていて、骨の一部を砕くだけに終わった。

俺の魔力に干渉している?

それとも、俺がカタストロフを使ったと誤認しているだけで、使えていない?

きっちりと魔力は消費されているが、これもそう思わせているだけ?


 戦場で長い時間を過ごし、取り返しのつかないミスをして左遷されたこともある。

そんな俺でもいきなり別空間に飛ばされるなんて初めてだ。

幻覚ならこの銃でなんとかできるんだが……反応ナシか。


『私のママ』


 声と匂いは同じ場所から来ている。

どこまで続くか分からない状況で魔力を消費するのは危険だが、進む危険と同時に急がずとどまる危険も同じくあるだろう。

だったら、俺は進むことを選ぶ!

使えるかわからねぇが、やってみるか。


「走るか。チカテレンテレコーティス! それと……フレットフート!」


 走っても疲れにくくなる魔術と、早く走ることができるようになる魔術を使った。

元々の体なら気にしないレベルの魔力消費なのに、この体では確実に魔力が減っているという実感があって、弱くなった事実が嫌でも襲ってくる。


「俺自身にかける魔術は消えない……だがこの場所を攻撃しようとするとダメなのか?」


 ルイサとラタも探さないといけない。

だが、かなりの魔力を使う探知の魔術に回す魔力が書き消されるかもしれない。

……クソが!


『可哀想だから少しの間譲ってあげただけなの』


『だって私と……は……だから、ママを想う気持ちは一緒だもん』


『優しくした、お姉ちゃんが……かな?』


 声の主を見つけられるなら、俺のレイアの魔術で確実に仕留められる。

ルイサみたいに狙わずにイメージだけでレイアの魔術を発動できるならこんなに俺自身が移動しなくてもいいんだが、息子は親を越えるのが世の常。

アイツは天才的なシアの魔術の才能をもって、俺の射撃センスも受け継いでいる。

そんな天才に、俺が勝てるわけがない。


「息子に嫉妬する時がくるとはな……フフッ」


 けれど、この嫉妬は俺をちっとも嫌な気持ちにさせない。

とても誇らしい、最高の気分だ。


 浮わついた心を一度殺し、どこまでも続く暗い空の下、屍の上を走り続ける。

まったく見える景色は変わらない。

けれど、匂いはさらに強く、そして声もはっきりと聞こえるようになってきた。


『ねぇ、貴女は……の友達?』


 そして、俺に話しかけくる。


『少し記憶を見せてもらったけど、あの子魔王なんかに負けたんだ』


 記憶を覗いている?

どんな魔術だ、聞いたことがない。

転生者の魔術ならありえそうだが……。


『一番最初に弱音を吐いて、ママの力も不完全にしか使えない。情けない……なんて情けないの』


「お前……いったい誰だ」


『もう少し走れば、きっとわかるわ』


 嫌な予感がする。

コイツの言っていること全てが、ヤツのことを指しているとわかってしまう。

酔った時に自分の師匠をママと呼んでいた。

魔王討伐の時に一番最初に弱音を吐いた。

そんな奴は……。


「こんにちは、いやこんばんわ? それともおはようかしら。私は初めましてだけど、貴女からすれば久しぶり?」


 死体の山の頂上に、ソイツは座っていた。

酷い死体の匂いを放つ、まだ骨になっていない山。

それはどれも同じ顔をして、全てが断末魔をあげて死んでいったのだろう、歪んでいる。

俺はその顔を知っていたし、その山に座る彼女も知っている。


「……タリラ·ルリラか」


「それは私に言ってるの? それともコレに言ってるの?」


 タリラと同じ顔をしたヤツは、死体の一つから首を切り取って両手で持ち上げる。


「こんなクズと一緒にしないで、ほら、少し違うでしょ?」


「俺には一緒に見えるぞ、タリラ」


 タリラの頭が半透明な赤色の正方形に入っていく。

そして、耳に残る嫌な音が響く。


「妹がお世話になってます」


「タリラの……姉だと? アイツに姉がいるとは聞いてねぇぞ」


「でもここにいるわ、貴女……いえ、貴方にはあの子が迷惑をかけたみたいね。あんなのがルリラを名乗っていてごめんなさい」


「……お前は誰だ」


「私はママの力を受け継いだ完成品、マリラ·ルリラよ。壊滅の……ああ、私が知ってしまったらマズいんだっけ?」


「何の話……ああ、そういうことか」


 体から魔力がゆっくりと消えていく。

手足が……ひどく重くなってやがる。

ただでさえ重いこの銃を構えているのも難しい。

この体が、まるで他人の物のように、うまく動かせない。


「はじめまして、壊滅のバルトロスさん」


 消えるのか?

こんな所で、俺は消える?

まだシアがギアマトゥルと戦ってどうなったか知らないのに?

ルイサとラタを引っ付けてないのに?

息子はこれからも成長する、その姿を見てないのに?

ダメだ、ここで俺は消えられない。

まだやるべきことがある。


「大丈夫、私が助けてあげる」


「……触るな」


 声を出すのも一苦労だ。

それに少し喋ろうと思ってから実際に言葉になるのが遅れている。


「貴男の魂は私が守ってあげる、だって私は……タリラなんかよりも優秀で、不良品じゃないから」


 見たことがない赤色の魔術。

それが俺を包んでいく。


「やめろ」


 片手の銃を手放して、両手で黒色の銃を構えるが、トリガーが引けない。

弾を作る魔力が無い?

それとも、それを引くだけの力すらないのか?

わからない、もう、思考もまとまらない。


「ただ、少しだけその体を貸して欲しいの」


 ルイサ……シア……。


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