俺がハジメテな訳がないだろう
レイアーウと第二大陸を繋ぐ大陸間移動洞窟のある"タラミッカオセンド"は魔術を使わなければアグアタから歩いて数日はかかる。
教団はもうこの大陸で確認されているものの、ライフが偵察に使っていた場所が安全だと言えるのは今この瞬間だけ。
ならば、行くのは早い方がいい。
「シアのことを頼んだぞ、レイア」
「ああ、それは任せろ。そしてお前も俺様が授けた嫌われムーヴをうまく使って息子からの愛を振り切ってやるんだな」
「っせえ! んなことわかってるって、ハァ……行ってくる」
用意のいいレイアから食料と、ムカつくが俺がルイサに愛想をつかされる方法を授けられた。
確かに急がないとミウクが来てしまうかもしれねぇし、さっさと動くが吉だろう。
幸いにもこっちには魔術師ラタがいる、だから三人まとめてテレポートで……。
「この発情した猿と一緒なんて、絶対に嫌です」
「お前なんかに発情する程飢えてねぇ! 俺の初めては全部ロスに捧げるって決めてんだよ!」
「うわ、僕は童貞をロスさんで捨てたいんです発言キモ!」
「穢れてないんだよ、お前と違ってな」
「私だって穢れてません! 私の初めてはお師匠様に奪ってもらうので、それまでは綺麗な体を保つと決めて……ハッ!」
「私は処女です発言してるじゃん、変態魔術師」
「こっ……今度こそ許しませんからね!」
荷物をまとめている間、少し目を離したらこれだ。
ルイサよ、女のワガママに付き合い我慢するのも男の役割だぞ、だからそんな汚い言葉で反論するのはやめろ。
「おうおう、処女がなんか言ってやがるぜ」
やめろーッ!
息子よ、頼むからやめてくれ。
俺はこれからお前達をくっつけないといけないんだぞ。
それなのに、このままじゃ好感度がマイナスに振りきれている状態からのスタートになるでしょうが!
「傷一つない穢れなき体……ではありませんね」
ラタが腹部に視線を向けて、悔しそうな顔をしたのをルイサも見ていたらしく。
「……悪い、言い過ぎた」
流石のバカ息子も止まってくれた。
「…………」
「…………」
ダメだ、空気が死んでる。
さっきまでいつ手が出るかわからない一触即発状態だったが、今度は冷たくて凍えそうな空気。
温度差がありすぎる!
こっちが風邪ひきそうだ。
「ロスって……その、そういう経験あんのか?」
「あるに決まってんだろうが」
無かったらお前はどうやっても産まれてこないんだぞ?
ったく、少し考えたらわかること……。
「ロスが……俺のロスが……他の男と……」
この体じゃそういうことはしてないし、したくもない。
体が違えど、それはシアに対する裏切りでしかないからな。
つい普通に返してしまったが……うん、まあいいだろう。
「プークスクス、ざまあみろです! ロスさんの中には他の男の遺伝子が残って、他の男の体温と記憶があるんですよぉ? ルイサ君はどうやっても二番目のオ·ト·コ、ですっ!」
「うわァァァ!」
泣き崩れる息子。
それを嘲笑うラタ。
真っ白に燃え尽き、地面を叩き絶望するバカ息子の背中に足を乗せて高笑いを加速させるタリラの娘。
「やーい! ルイサ君がどんなにがんばってもロスさんにとっては"あ、これって前の男としたことだ"ってなるだけなんですよ!」
「嫌だ! 嘘だ、嘘だど言っでぐれぇ!」
「嘘ですよ、ルイサ君」
「本当か!? ロスは綺麗な体のままなんだよな!?」
「嘘って言うのも、嘘です」
バカ息子は置いといて……ラタの性格が少し見えてきたな。
自分に好意を向けられることを、そもそも拒絶している。
弱った人間で遊ぶのが好き。
笑い方がタリラに似ていて下品。
え、待て。
いい所がない。
考えろ、コイツはタリラの娘で弟子だ。
これはいい所にカウントするとして……他、他には……。
「ラタ! 時を巻き戻す魔術はないのか!? 俺のロスに手を出した男をぶっ殺してやる」
「そんな魔術はありません! そもそも、ロスさんはその時は知らない男の女なのでは?」
「んなっ!? なら記憶を消す! ロスの記憶を全部消して俺しか知らないように……」
「記憶を消す魔術はありますけど、ルイサ君なんかに教えてあげません!」
性格は確実によくないな。
見た目は美少女だけど、それだけ。
ネマにラタにタリラに……見た目がいい奴程中身がとにかく死んでいる傾向がある。
しかし時々、シアのように両方最高な女もいるし……この年になっても女はわからん。
「頼む! この通り、お願いします!」
「もっとほら頭を下げなさい! まだ額と床の間に隙間がありますよ! ほら、さっさとしなさい!」
「すいませんでした! お願いします!」
「うーん……どうしよっかなぁ」
ニヤニヤと笑顔を見せるラタは、ルイサの背中に座って足組みをする。
女に乗られるなんて男にとっては屈辱なはずなのに、息子は頭を下げたままで、抵抗しないどころか動かない。
このままだと、二人の関係が変な方向に進んでしまいそうだ。
あと流石に、息子が情けないし、こんな姿は冗談でも見ていたくない。
ラタめ、少しこらしめてやる。
「バルトロスから聞いた話ですけど、タリラ様とその師匠はかなり淫らな関係だったっていうのは本当なんですか?」
「……へ?」
「名前は思い出せませんが、タリラ様はいつも自分の師匠とお風呂に入ったとか、一緒に寝たとかそんな話ばかりしていたと聞いていたので……どうなんですか?」
「お師匠様とピリラ·ルリラの関係は……その、いやいや、それはデマですよ! デマ……です」
「でもタリラ様は確実に"師匠に近づく男は皆殺しにする"と言って回っていたらしいじゃないですか」
「あ……あああ! お師匠様がお師匠様のお師匠様と……嫌ァ!」
父親として息子の手伝いをしたつもりだったが、予想以上のダメージが入ったらしく、ラタは泣いてしまった。
や、やりすぎたか?
ちょっと大人げないやり方だったもんな……。
「ロスの中の男を消さないと……」
「お師匠様の記憶を……消さないといけません」
「はいはい! とにかく二人とも集まって、タラミッカオセンドに行くよ! ラタちゃんはテレポートをお願いね」
詠唱補助用の魔方陣の上に二人を誘導し、ラタに魔術補助用の杖を渡した。
彼女はため息をついてから、それを握ってクルクルと回す。
「丁度いいです……ルイサ君、同志のよしみで教えますが、第二大陸の神の魔術は知恵と記憶の魔術です」
「知恵? それがいったいなんだよ」
「神の魔術"ウェルハ"は知恵を付けさせる魔術ではなく、知恵と記憶を奪う魔術ですから、学ぶにはいいかもしれません」
「……ラタ、お前ってやつは」
待て待て待て待て。
いや、待って、本当に待て。
今目の前で俺の記憶を消す話が進んでる!?
「お前は最高の魔術師だよ、ラタ!」
「フフン! 私はレイア様に同志の頭脳として認められていますから当然です!」
「なら俺はお前を守る手足だ、これからもしっかり頼むぜ、頭脳様!」
「そこは信用しています! なのでまずは……チヅラ·スメラに急ぎましょう!」
な、な、なんつー動機で一致団結してんだ……。
さっきまでの死んだような顔から、ラタは笑顔に戻ってやがるし、ルイサもヤル気満々って感じだな。
まぁやる気を出すのはいいことだ。
それに……少し冷静になればコイツらがウェルハの魔術を手に入れることはできないってわかるんだから、焦る必要なんか何一つない。
なにせ。
「ではいきますよ! ハイ·テレポート·アクティブ!」
チヅラ·スメラの神、ウェルハはもうこの世にいないのだから。




