めんどくさい!
「俺のこと……嫌いだろ?」
「だから嫌いとか好きとか、そういう話じゃないんだって! ほら、さっさと支度して第二大陸に行くよ」
「俺が行かなくてもいいだろ、ラタは強いしロスも強いんだから、俺が必要じゃない」
「えーっとね、私はルイサに来て欲しいの!」
「……でも、俺にはロスを愛する資格はないんだ」
どうしよう。
うちの息子、めちゃくちゃ面倒な性格になってやがる。
シアの奴が俺の居ない六年間、どんな育て方をしていたのかはしらないが、男らしさがまるでない。
「今はってだけだから! ほら、私はルイサを嫌ってないよ」
「なら……好きか?」
「う、うん……(家族として)好きだよ」
「……言わせてるよな、ごめん」
め、めんどくせえぇぇぇ!
なんだよコイツ、俺は嘘言ってないんだぞ。
「俺が必要って訳じゃないし、レイア様が手負いは邪魔だって言ってんだろ? そんな俺がロスについて行っても足手まといになっちまうよ」
「ああもう! ルイサが必要なの!」
「……何で?」
ベッドの上で丸くなった息子が、少しだけ顔を見せている。
悲しそうで辛そうな顔だが、まったくもって男らしくない。
俺だってシアに『お前みたいな男に愛される程落ちぶれてない』って殴られながら言われ、めちゃくちゃに振られたことがあった。
だが俺は諦めなかった、とにかく彼女に振り向いてほしくて悪いところを見直して頑張ったんだ。
「バルトロスが目覚めた時に息子に会いたいと思うからです」
「ほら、ロスが俺を必要としてるわけじゃない。それに……親父には会いたいけどよ、お前と親父がイチャイチャしてる所なんて見たくねぇ」
ナヨナヨするなこの馬鹿息子が!
そもそも俺が俺とイチャイチャってなんだよ、俺は何を想像すりゃいいんだ?
お前は親父がこんな少女に惚れていると本気で思ってんのか!?
あー、元の体だったら一発殴ってんのに!
「それに親子だとしたら、親父に会うのは俺じゃなくてロスでもいい……あはは、やっぱり俺いらねぇじゃん」
どうする?
ここで愛していると言えば息子とラタをくっ付けるって作戦に影響が出てしまう。
さっき好きと言ったがあの反応じゃ、あんまり期待できねぇか?
でも……だったらどうすればいいんだよ。
あ、まて、閃いた!
この状況を変えつつ、次の一手を打つ最高の言葉がある!
「でも、ラタさんは私と一緒に来ますよ? いいの?」
「それがなんだ、俺には関係ない」
「ルイサのせいでラタさんの体には多分一生消えない傷が残るの、なのに責任を取らないどころか彼女を守ろうともしないの?」
ふふん、どうだ。
名付けて、"女の子の体に傷をつけたから責任を取らないといけない自覚を持たせる作戦"!
……ちょっと長いな。
「傷が残る……」
効いている、この作戦は確実に効いている!
いいぞ、このまま罪悪感で心をいっぱいにすれば優しいコイツは確実に動くだろう。
そしてそれこそ、息子がラタのために動いたという実績の第一歩になる。
ラタからは、俺じゃなくて自分のために動いてくれたって見えるだろうし。
息子からは、俺以外の女に踏み出したと実感させられる。
「年頃の女の子の体に傷が入るのは、その娘の将来にも響くのはもちろん、体よりも心に大きなダメージが入るんだよ? 醜い傷跡がある女の子なんて、普通の男なら……」
「俺は傷を醜いとは思わない」
……へ?
「傷は誰かのために戦ったって証拠だ、それを笑う奴こそ男じゃない。それに、ロスも傷だらけだけどさ、俺はお前を醜いなんて思ったことがない」
そういうことじゃないんだって!
もう仕方ない。
やりたくないけれど、ここは正論でいこう。
「ラタさんにとっては傷は失敗の証でしかなくて、恥ずべきものなの!」
「ラタの傷は見てねぇけど、絶対に醜いわけじゃない」
「でもそれはね、傷を負わせる原因になったルイサが言っちゃいけないんだよ」
「それは……」
「私を守るって言ってたけど、ルイサはすぐ隣にいたラタさんどころか自分の身すら守れてない! 貴方の価値観でラタさんの傷の価値を図るのはやめて」
ルイサの瞳から光が失われていく。
ラタの体には、もうルイサを守ったという証拠が刻まれてしまった。
そしてそれは、ルイサの弱さの証明にもなっている。
弱い男が女の体についた傷を褒めるなんて論外だし、その重要性について理解していないのもあり得ない。
「俺が弱かったから……」
「私のことを好きって言ってくれるのは……複雑だけど、もうルイサは私のことなんかよりラタさんを守らないといけないの!」
女の傷に無責任ってのは、男らしくない。
俺だけじゃなくて、シアだって同じことを言うに決まってる。
息子が落ち込むのを見るのは辛いし、正論で殴るのも好きじゃない。
けれど、これは父としての教育なんだ。
お前が今後苦労しないように、俺が死んだ後もタリラに守ってもらうように。
「こんな弱い男を私が選ぶことはないよ! 少なくとも、ラタさんを……女の子一人ぐらい守りきるような力を付けなきゃダメ!」
「……わかった」
「うん! なら早く準備をしてよね、あんまりここでゆっくりしている時間はないよ」
息子がやっとベッドから出てきた。
さてと、これでようやく移動ができる。
「俺がラタを守れるぐらい強くなったら……俺にもお前を愛する資格があるってことだよな?」
そうはならないだろ!
ここまでの話聞いてた?
責任取ってラタの隣にいればいいのに、俺に戻ってくんのをやめろ!
「そのためにも……まずどんな傷なのか見ておかねぇと」
「……ルイサ?」
魔術で作った収納スペースに服や乾燥肉、必要な物を投げ入れて素早く準備を終えたルイサは、そういい残して部屋から出ていった。
あの真面目な顔と、あのセリフ。
嫌な予感がする。
これ、絶対に追わないといけない気がする。
「まちやがれこのバカ!」
急いで俺も部屋を飛び出したが、どうやら間に合わなかったみたいだ。
「人の服をめくらないで下さいこのケダモノ!」
「俺はお前の傷を確認しなきゃいけないんだっての! 後から他の傷を守れなかった証拠だと言われても困るし、お前の他の傷も見なきゃいけねぇ!」
「そんなことを言って私の体が見たいだけでしょうがーッ!」
「誰がお前みたいなペッタンコの子供体型の体なんて見たいんだよ! そんな気持ちは微塵もねぇ!」
「さっさと部屋から出ていけ! じゃないと女の子にしてやります!」
「上等だ! お前が元気になったら一回ボコボコにしてやろうと思ってたんだ!」
ラタの部屋の中から、嫌な音がする。
爆発したり、ルイサの魔術が使われていたり。
止めないとヤバイ、ヤバすぎる。
けれど、なんだろう、この懐かしい感覚……。
『浮気したなバルトロス!』
『あれは俺の部下だっての! 一緒にお昼食べてただけだって!』
『私という妻がいながら、他の女と会話をしながら愛妻弁当を食べたの!? 浮気よ浮気!』
危険で騒がしく、けれど幸せだったあの頃のような空気だ。
うんうん、ケンカは大切だ。
いつかお互いに我慢できないレベルまで背負い込んで離婚にならないためにも適度に……。
って、違う!
俺の時はもう結婚してたが、ルイサとラタはまだ他人!
しかも傷付けないように守れって言ったせいで、今の傷の具合を確認しに行きやがった!
「覚悟しろ、俺はお前の傷跡さえ確認できればっ!?」
息子の背後を取って、俺は銃でおもいっきり頭を殴った。
「し、失礼しましたっ!」
なんとかルイサを回収したけど……ラタからの印象は最悪だろうな。
背後の少しだけ空いたラタの部屋から彼女が見えて。
「覚悟してくださいね」
手には、大きなハサミを持っていた。




