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俺が惚れた少女は、何故か親父の面影を抱いている  作者: ケイト
二幕目 嫌だッ! 息子の子供なんて孕みたくないッ!

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自慢の妻にして、俺の女




 かつて第一大陸の経済と物の中心部と呼ばれたこの街、神都アグアタも三十年前から比べると何もかもが寂れてしまっている。

人が寝泊まりするにはいいかもしれないが、住むには辛いであろう粗末な小屋のような家が並び、近頃は窃盗や強盗、殺人が蔓延っていて、普通なら女の子一人で歩くような街じゃない。

だから俺が……この体で歩いていると嫌に見られて仕方ない。


「第一大陸に残された二つの街のうち、こっちはレイアがいるから少しはマシだと思ってたが、やっぱり治安がよくねぇな」


 この街では何でも商品になる。

ルイサは行っていないだろうが、買おうとすれば薬物や女の奴隷……とにかくなんだって買えるんだ。

俺の息子とはいえ男だ、自分の好きにできる女が買えると聞けば一度は必ず興味を持つだろう。

そんな所をシアに見られたらもう……例え俺がバルトロスの体であったとしても助け船を出してやることはできん。


「今回はシアが一緒らしいからあんな所には行かねぇだろうが……あっちだな」


 息子の魔力を探知して、それを頼りに人混みの中を進んでいく。

バルトロスの体なら、人々が道を譲ってくれていたからこんな混み具合は初めてだ。

すいませんすいませんと言いながら人を掻き分けて……あ!

あの不潔な男め、去り際に尻触りやがったな!


「中身が四十過ぎのオッサンだぞ、ったく……」


 さっさとルイサを探してシアと変なことを……家族として"良くないコト"をしていたら全力で止めねぇと!


 俺が魔術師なら空を飛んでルイサを見つけるか、精度のいいテレポートで隣に現れるかが出来るんだが……あいにく俺はどちらも苦手だ。

そういう細かいことは全部タリラに押し付けていたのがここで響いてくるとは……クソッ、老人を働かせるなとか適当なこと言ってないで練習すべきだったか?


「ルイサの奴はシアに似て器用だから魔術もある程度こなしてるが、普通は出来ねぇんだぞ」


 ……そう思うとアレだ、うちの息子は凄いな。

俺と同じ空間を削り取る射撃、"カタストロフ"を使いこなすし、そこにシア譲りの毒まで混ぜ混んでやがる。

緻密な魔力コントロールに破壊力を持ち、基本的な魔術も使いこなす。

フフッ、これは俺を追い越す日も近いかもな。


 しかしうちの息子は優良物件だ。

親目線で見ても顔も悪くないし、何より強い。

"悪魔"っていう命を脅かす存在が跋扈するこの世の中じゃ、強いってだけで女から好かれる要素になるだろう。

俺が女ならそこら辺の男よりもルイサを選ぶが……。


「女の体で言うとマジになりそうだから冗談でも言うのをやめておこう」


 しばらく探して、ルイサとシアを見つけた。

この荒廃し、何故この街にあるのかわからない装飾品店を覗いている。

いや、それはいい。

魔力を帯びた宝石には不思議な力があるし、戦闘で役立つ物もあるだろう。

だが問題はシア、俺の妻だ。


「この赤色の宝石付きのネックレスとか、ロスに似合うんじゃないかな」


「ねぇ、ルー君。お母さんにはどれが似合うかしら?」


「母さんはそうだな……この紫色のやつとかどうだ? 付けてみなよ」


「ウフフ……それじゃ、付けてくれるかしら」


 妻が真っ赤なドレスを着ている。

流石俺の選んだ女だ、俺と同い年とは思えない程美しい。

出会って、ルイサを産んで、ますます綺麗になっている。

あの衣装だって、まだ付き合っていた頃のデートでよく見ていたが何度見ても飽きなくて『見すぎですよ、バルトロス様のえっち』と怒られたっけ……懐かしい。

って、思い出に耽ってる場合じゃない!


「ほら、やっぱり似合ってる。すいません、この紫色のやつとこの赤のネックレスもらえますか?」


「ルー君いいの? これ結構高いけど……」


「心配すんなって、金は大切な物に使えって親父も言ってたし。だから母さんに使ってやりたいんだよ」


「ありがと、ルー君!」


「ちょ、抱きつくなっての!」


 シアが俺とデートしていた時の衣装で、息子に抱きついている。

しかも息子はさりげなくシアを大切だと言って、プレゼントまで送ってやがる。

いや、冷静になれバルトロス。

家族が大切なのは普通だ、当たり前。

息子が親にプレゼントするのだって、無くはないだろう。

これは普通の……。


「ルー君大好き!」


「現金な母さんだなぁ……ま、喜んでくれて嬉しいよ」


 あの顔は普通じゃない!

アレは明らかに女の顔だ。

俺が指輪を送った時にしていた顔!

ヤバイヤバイ、え、俺は妻を息子に寝取られんの?

世の中のどんな逸話にもない冗談みたいな現実が……マズい!


「ルイサ! それにシアコトルさん!」


 声をかけると、ルイサはシアから離れて両手を後ろに隠した。

シアは……俺を睨んでいる。

おいおい、俺の妻がこんな目をする時って……人を暗殺する時ぐらいだぞ?


「ロス! 体はもう大丈夫か?」


「もう自由に動くけど……ってそうじゃなくて! レイア様から聞きましたよ、ルイサとシアコトルがデートしてるって! あのですね、二人は親子ですしシアコトルさんはバルトロスの女でしょ、こんなの浮気ですよ浮気!」


 息子の心配は一旦おいておこう。

まずはシアだ、この馬鹿げた浮気を止めてやる!


「親子で買い物をしているだけよ、二人で出かけるのが久々だからまるでデートねと言っただけなのにレイア様はそう受け取ったのね」


「それが親子の距離ですか!? その綺麗なドレス! 息子からプレゼントをもらって女の顔をして……貴女は母親なんですよ!」


 シアは腕を組ながらため息をついている。

俺がバルトロスの体だったらこんなことにはならないのに……クソッ!


「子供からプレゼントを貰って喜ばない親がどこにいますか? それに、かつて夫がしてくれたように装飾品を送って貰えて、喜ばない女がどこにいますか?」


「それは……で、でも完全にさっきの顔は母というより女の顔で」


「実の息子にあの人の影を重ねることがあるのは否定しないわ、でも懐かしいだけでそれ以上の感情はないし……ロスちゃんはわかってないわ」


 風切り音がした瞬間、シアが俺の背後に立っていた。

それに気付いて振り返ろうとした時には俺の首元に短いナイフが当てられていて、そこには紫色の液体が塗られている。

これは間違いなく毒だろう。


「私はバルトロスの妻よ、あの人を捨てて浮気をすると思ってるの?」


「…………ッ!」


「確かにあの人は六年間姿を見せてないし、最近まで生きているか死んでいるかもわからなかったわ。それでも私はあの人を愛してるのよ」


 シアは……やっぱり、最高の女だ。

顔も体も、そして中身も。

全てが完璧な、俺の自慢の女にして妻。

俺がコイツに惚れた理由の一つに、この揺るがない自分の信念があったっけ。


「アハハ……そうでした、忘れてましたよ」


「何笑ってるの? 私のあの人への愛がそんなにおかしいの?」


「そうじゃありません! ただ、バルトロスは貴女の真っ直ぐで揺るがないその中身に惚れていましたから、それを思い出していただけなんです」


「あの人……そんな事までロスちゃんに話してたの?」


 ナイフが消え、シアの方を振り返る。

色々と疑わしい所はあったが……はやり、流石俺の妻だ。

俺を裏切るなんてことを、彼女は絶対にしない。


「はい! 俺の自慢の妻で、帰ったら早くルイサに妹か弟を作ってやるんだと息込んでました」


「そ、そこまで言ってたの!? この歳で子供をもう一人なんて……ねぇルー君、どうかしら?」


「いや……あのさ、そういう話聞くのって息子にとってかなりキツイんだけど……それより、ロス!」


 赤くなった顔を両手で隠そうとするシアを眺めていたいのに、割って入ってきたルイサに肩を捕まれてしまった。

俺がバルトロスの体ならこんな簡単に連続で背後を取られたりしないのに……トホホ。


「やっぱり似合ってるよ、ロス」


「似合ってる? って、いつの間に!?」


 バカな、俺が気付かない間にネックレスがつけられてやがる。

コイツどこまで成長して……って、顔近い!


「でもやっぱりダメだな……こんな宝石なんかじゃダメだ」


「だ、ダメっていったい……」


「こんな宝石より……」


 またルイサに抱き締められた!

振りほどこうにも腕力じゃ勝てないし、こんな人がいる中で魔力を使ってどうにかするっても無理。

ヒッ……ま、またキスされるのか!?

もう嫌だぞ、前みたいに唇を奪われて……舌を無理矢理絡められるのはもうゴメンだ!


「とにかく離れてっ!」


「君の笑顔の方が素敵だよ」


 耳元で囁くのをやめろーッ!

全身がゾワゾワする。

タリラがよく言っていたが、全身に虫酸と悪寒が走って止まらない!

体が……震えてやがる。

こんなに震えたのは魔王と対面した時以来じゃないか? 


「ルー君そこまで」


「ちょ、母さん!」


「人前でキメセリフを言うのはいいし、サプライズも悪くないわ。でもね、驚かせるのと恥をかかせるのは別物なの、ルー君が良くてもロスちゃんが恥ずかしい思いをするならそれは嫌がらせになっちゃうわ」


 震える体からルイサが離れていく。

シアよナイスだ……あのままじゃある意味で死ぬ所だったぜ。


「違っ……俺はそんなつもりじゃなくて! ロス、違うんだ!」


「あはは……ふぅ……」


「お前が顔を真っ赤にしてるから喜んでくれてると思って……その、勝手に盛り上がっちゃって……」


 顔が……真っ赤?

へ?

俺の顔が、真っ赤!?

いやいや、俺は親父でお前は息子だぞ。

そんなわけが……。


「ねぇロスちゃん」


「ぴゃい!?」


 冷たい声がした。

耳元で、殺意のこもった深い声。

その主たるシアは俺を軽蔑するような、良くない物を見るような目で俺を見ている。

な、なんだこの目は。

動けない!


「貴女が夫の愛人か隠し子か知らないけど……私の息子の気まぐれで真っ赤になるのはやめてくれるかしら? 貴女みたいな女狐に夫だけでなく息子まで取られたくないの」


「母さん! 俺はロスを愛してんだから、邪魔すんじゃ」


「ルイサ、黙りなさい」


「ヒッ!」


 ルイサよ、シアの怒っている時の声は怖いだろう。

しかし怯え方が俺そっくりだなコイツ。

変な所ばっかり似てやがる。


「さてと、色恋の話はもうおしまい! それでロスちゃん、アグアタに来た目的の物か人は見つかったの?」


「えっと、もうここには居ないみたいで……バルトロスの体を持って第二大陸に行っちゃったってレイア様から聞いたんです」


「待ってくれ、親父の体はこの大陸の危険な場所にあるって言ってたけどさ、どうなってんだ?」


 そうか、ルイサにこの話はしてなかったっけ?

いやシアにもしてなかったか。


「バルトロスの体はボロボロで、治してくれてる人がいるんです」


「治すとなると……魔王討伐に行ったメンバーかしら?」


「半分あたってますが半分違います! 今バルトロスの体を管理しているのは転生者クォーツの仲間のネマ·ブライアという魔術師です!」


 





 

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