息子と妻のデートを阻止せよ
息子の成長はとても嬉しいし、親として誇らしい。
しかも俺の息子はあの魔王をぶっ倒したんだから、これ以上に誇らしいことはないだろう。
流石は俺とシアの子だ、魔王の影……劣化版の分身体とはいえアレを倒せる人間は本当に一握りなのに。
あの小さかったルイサがこんなに立派になって……ダメだ、泣いてしまいそう。
「体の具合はどうだ? 先に言っておくが魔力共に魂まで持っていかれた者なんて俺様は見たことがなかったからな、具合が悪いならもう諦めろ」
「レイア……様」
俺達の大陸の神様が金色の杖でカツカツ音を立ててやってきた。
具合を聞きながら諦めろって言うなら、もうそれは心配していないじゃねぇか。
相変わらず嫌みな奴だ、神を名乗っているくせに神秘も気品もありゃしねぇ。
「お前の妻や息子、他の仲間は街の警戒や復興作業にあたっている。今ここには俺様とお前しかいないんだ、いつもどおりでいいぞ?」
「……やっぱり、こういう所は神様なんだよな」
「どこを取っても俺様は神だ、相変わらず失礼な奴だなバルトロス……いや、今はロスちゃんと呼んだ方がいいか? フフッ、フフフ」
「笑ってんじゃねぇ! 俺だって好きでこんな体になってるわけじゃねぇんだよ!」
「声まで可愛くなって、ウェルハやイコールみたいに可愛い神を目指すならそのままでいいんじゃないか? フフッ、あのバルトロスがこんなに……アーッハッハッハ!」
コイツッ!
腹を抱えて床に転がりながら笑ってやがるが、こっちはちっとも面白ない状況なんだぞ。
やっぱり俺の辛さを何も知ろうとしない、人と分かり合うつもりのないダメ神だ。
「いやー、すまんすまんフフッ……さてと」
杖で少しだけ強く床を叩き、黒色の眼帯が金色の装飾でギラギラと輝いている。
そんな彼の白色の長く、男らしくない長い髪が来るはずのない俺の隣にあった。
仮にも神が、俺に頭を下げている。
コイツとはルイサが産まれる前からの長い付き合いだが、こんな光景は一度たりとも見たことがない。
「すまなかった」
「お、おう……ちなみに、何に対しての謝罪だ?」
「お前達に魔王討伐を背負わせてしまったこと、それに……その体のことだ」
「…………」
「ネマ·ブライアから話は聞いている。お前のオリジナルの体はもはや使い物にならない程ボロボロで、仮にオリジナルの体に戻れたとしてもお前はもう二度と……」
「俺はまだ死んだわけじゃない、それにこの体があったからこそ六年間会えてなかった妻や息子に会えたんだ。何も悪いことばっかりじゃねぇよ」
そうだ、悪いことばっかりじゃない。
何もかもが最悪に向かって転がり落ちて、二度と元の場所に戻れないかもしれないけれど、そこにはきっとより良い何かがあるはずだ。
仮に無かったとしても、俺は今ある手札で生きていくしかない。
「それに息子は成長してるし、シアも健康で美しいまま……魔王には勝てなかったが俺の一番守りたい家族が無事なんだから……お前が守っててくれたんだろ? ありがとな」
レイアはしばらく頭を上げなかった。
その間、俺はどうしたらいいか分からなくてただコイツを見ていることしか出来ずに、長い長い時間が流れたような気がする。
神相手に変な話だが、例えるなら長年の親友から真面目な謝罪をされているような気分だ、気持ちは伝わるが居心地が悪い。
「それよりさ、これからの話をしてくれるか? 俺達が負けたからって、魔王を倒すのを諦めた訳じゃねぇだろうし、それを諦めちまったら人類が終わっちまう」
「魔王は殺しても蘇る以上、その魂を消す必要があるだろう。だが俺様にそんな力は無いし権能も与えられていない、それが出来るのは魔王の巨大な魂と同格の者が自らの魂の消滅と引き換えに魂を消す魔術ぐらいだが……」
断言できるが、そんな奴はいない。
魔王と同格の人間なんているわけがない。
つまり今、俺達人類が魔王を倒す方法がないんだ。
レイアが頭を下げる理由は俺の体の話だけじゃなくて、魔王を倒す方法が分からないから……だろう。
「なにはともあれ、俺はまず自分の体に戻れるようにしねぇとな……戻るためにネマを探してんだけどさ、何処にいるか知ってるか? 一応俺の体を治すとは言ってくれてはいたんだが……」
「ネマはクォーツと共にチヅラ·スメラに戻っている。お前の体を治すのにレイアーウは適さないらしいぞ」
第二大陸に行ってんのか、成る程どうりでアイツの魔力が感知できないわけだ。
それじゃあ俺も行かねぇとな、いつまでもこの体って訳にはいかない。
「それじゃ、俺も第二大陸に行くとしますかね」
「一人で行くのか?」
「そりゃそうだろ、だってルイサやシアを連れて行く訳にはいかないさ」
妻はまだいい。
だがルイサはどうだ?
あの思春期真っ只中の十七歳は俺のこの体に惚れていて、無理矢理キスまでしてきやがった。
そんな男に向かって、実はこの体の中身は親父でした、すまん!
なんて言ったら確実に女性不信になって、心に深い傷が残る。
それに……。
「いや、シアは連れていくつもりだ。今街の何処にいるかわかるか?」
「おそらく市場辺りだろう、シアコトルの奴がルイサとデートだと喜んで化粧をしていたからな、瓦礫と廃墟にあの格好で行く訳が……」
「デート!? あのな、シアはルイサの母! ルイサはシアと俺の息子!」
「俺様も親子でそういう関係はダメだと記憶していたから注意はしたんだが……シアコトルの言う通り、母を娶る息子という神話があるのも事実でな、あまり強く指摘は出来なくて」
こんのバカ野郎!
何が悲しくて妻が他の男とデートしに行くって話を聞かなきゃいかんのだ!
そしてその相手が息子だと!?
つまり俺は息子に妻を取られたってこと!?
こ、こうしちゃいられない。
こんなベットでゆっくりしている間にも間違いが起こっているかもしれない!
「だいたいルイサの奴もハッキリと嫌だと言えばいい! そもそもアイツは俺のこの体が好きと言いながら他の女とデートをするなんて、なんて情けないんだ」
許せん、俺が男とは何かってことを指導してやる。
これは俺がアイツに取って大切な時期を留守にした罰だ。
間違った男らしさと、男とはなんたるかを学んでいるに決まっている。
俺が隣に居たのなら、こんなことにはならなかったのに……。
「レイア! お前もっと謝れ、お前が魔王を倒してこいとか言うから息子が歪んだじゃねぇか!」
「だから謝っているだろうが! あとそのルイサの歪みかたにまで責任持てるかこのバカ!」
「うるせぇ! お前やっぱり神失格!」
着替えて、銃も一応持って……早く二人の所に行かないと!
最悪の場合は……嫌だけど、想像するだけで吐き気がするけれど。
ルイサがこの体に惚れていることを逆手に取って誘惑を……。
「実の息子を体で誘惑する父って、俺も親として失格だな」
頭によぎった正論をねじ伏せて、探知したルイサの魔力を頼りに二人の所に走った。




