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俺が惚れた少女は、何故か親父の面影を抱いている  作者: ケイト
二幕目 嫌だッ! 息子の子供なんて孕みたくないッ!

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息子の子供なんて孕みたくない




 絶望は、煌びやかな白銀の鎧に包まれていた。

一つ一つが異なる力を持つ魔力を帯びた宝石が、奴の持つ盾や兜、鎧に散りばめられている。

それの輝きは俺達を絶望の縁に立たせるのに十分だった。


 赤いマントは俺の銃撃を受け流す。


 白銀の盾は剣聖と呼ばれた仲間の剣撃を的確に防御する。


 鎧は大魔術師と呼ばれた仲間の魔術でも防ぎきる。


 そして兜に守られた赤い瞳は、時間を止めて移動できる転生者の動きを完全に捉えていた。


「お前ら、まだ立てるよな」


 心は逃げろと言っている。

あんな化け物に勝てるわけがないと叫んでいる。

何度走馬灯を見たかわからないが、同じ内容を見るのはごめんだ、見飽きたし帰りたくなってくるだろうが。


「痛っ!」


 無意識に心が揺れたのか、一歩だけ足が後ろに下がった。

魔力で無理矢理動かしている足が、痛みで俺の心を留めている。


 ダメだ、戦闘に集中しろ。

恐怖に飲まれてんじゃねぇ、三十の折り返しのいい年したおっさんが怖い怖いって言ってビビってんのを息子や妻に見せられねぇだろ!


「シア……ルイサ……待ってろ、俺は絶対にコイツを、魔王を倒して帰るからな!」


 家族が待っているんだ。

息子のルイサは十一歳でもうすぐ反抗期が来るんだから、帰ったらたくさん教えて、遊んでやらないとな。

母さんは怒るかもしれないが、そろそろ女の子の口説き方やモテる方法も教えてやろう。


 そして俺の世界で一番美しい妻であるシアコトルだって、一人でルイサを育てて仕事をして俺を待っている。

帰ったら欲しがっていたアクセサリーを買ってあげて機嫌を取って……ルイサに兄弟を作ってやるのもいいかな。


 幸せは俺の後ろにある。

この魔王を倒さないと、その幸せがいつ崩壊するかわからないんだ。

だから、ここで倒す。

俺がこの手で確実に倒してみせる!


「無理だ……こんな奴に勝てるわけがない」


 いつも自信過剰な大魔術師が、ポツリと呟いた。

心の緩みか、気の緩みか知らない。

だけど、魔術師タリラは口を押さえてから首を振り、杖を構えなおした。

だがその一言で、空気は死んでいく。

間違いなく、それは言ってはいけない言葉だった。


 セクションの左腕はあり得ない方向に曲がり、剣聖と呼ばれた彼女の剣は折れている。

右腕が生きているとしても、剣で戦う彼女がどうやって戦うんだ?


「大丈夫よタリラ、アンタはアタシが守るわ……」


 瞳は生きているが、アイツ……タリラの盾になるつもりか?


「んだよアイツ! この力をウェルハちゃんから貰った時に誰にも見破られないって聞いてたのに騙しやがって、後であのロリ神にスク水着せてやる!」


「第二大陸の神にはもう実体は無いんじゃなかったか?」


「後で方舟に乗り込んでそこで……あれ、バルトロスさんが何で知ってるんです?」


「お前が教えてくれたんだろうが、クォーツ」


「そうでしたっけ? とにかく、ロリの胸や肌を楽しむにはピチピチの水着が一番ですから、絶対に着せてやりますよ!」


 そんな空気をぶち壊そうと、クォーツは口を開いて気持ち悪いことを言いながら笑っている。

普段ならタリラからキモいと言われて、セクションに追い回されるのがオチだが……二人は沈黙し、彼の心遣いも虚しく空気は死んだままだ。


「……真面目な話ですけど、アイツはあと何回殺せばいいんですか? 俺の目と頭がバカになってなければ四回は殺しましたよね!?」


「何回でもいい、立ち上がらなくなるまで倒すだけだ」


「それって……いや、何でもないです! その通りですよね!」


 転生者としてこの世界にやってきた彼は、元々は兵士でもない一般人だったらしい。

そんな彼はその身に余る罪と責任を背負わされ、関係ない世界の為に戦わされている。

今日何度時を止める魔術を使ったんだ?

お前の魔力は明らかに減っているし、もうあの魔術は数回も使えないんじゃないのか?


 ボロボロのナイフを構えているクォーツ。

杖を握る手が震えているタリラ。

そして剣を失ったセクション。

この三人と俺で、あと何回魔王を殺せる?

そしてあと何回殺せばこの戦いは……。


「……タリラ、セクションを連れて逃げろ」


 希望は、残酷な現実に飲み込まれた。

俺は最年長として彼らを導き、守らないといけない。

今倒す必用はない、一度戻って体制を整えよう。

魔王と戦った俺達の知識や経験がここで無くなるのは避けるべきだ。


 そんな言葉だけが頭を支配していく。

ここから逃げることを正当化するために、踏ん張って倒さないといけないのに、今の俺の目には愛する妻と息子の姿が写ってやがる。

死にたくない、生きて、また二人を抱き締めたい。

だけど、だけど……ここでカッコ悪いまま終わったら、二人に合わせる顔がねぇ!


「クォーツ! 最後に一回時を止めて二人を外に運べ!」


「ちょいちょいまって下さいよ、バルトロスさんはどうするんですか!?」


「あ? そんなの見て分からねぇかよ、老兵は殿をやるって相場が決まってんだ、後は若い奴らに託させてもらう」


「強がるのはやめてください……絶対助けに来ますから!」


 死にたくないのに、なんでこんなことを言ってしまうんだろう。

この強がりで見栄っ張りな性格が最悪なタイミングで現れてやがる。


「行け! クォーツ!」


 神から貰った金と銀の銃を構えて、最後の強がりを言うと、次の瞬間には三人の姿が消えていた。

クォーツが時を止めて移動したんだろう。

魔王の目がこの砦の入り口を捉えているのがその証拠だ。


「あの時を止める力は厄介だな、攻めにも守りにも、そして逃走にも役立つ。本人は大した力は持たないとはいえ、これでお前を殺しやすくなった」


「俺達に四回も殺されてる奴が、俺一人になったからって勝てると思ってんのかよ。お前の目の前にいるのは人類最強、壊滅の二つ名を持つこのバルトロス様だぞ」


「勝てるさ、俺の目に映る運命がお前の敗北を教えてくれている」


「魔王様が運命とか言い出すなんて、お前の部下が知ったら幻滅しそうだなッ! ツラペース·テトラ·カタストロフ!」


 二挺の銃から放たれる黒色の魔力の弾丸。

当たった物を爆発させる、コイツを一度殺した技だ。

一発撃つのにかなりの魔力を使うこの魔術弾を一度に四発叩き込む。

俺の射撃特有の空気を引き裂く轟音と黒色の軌跡は魔王に吸い込まれていくが、奴はただ真っ直ぐに突っ込んできやがった。


「スキル·二重の刃」


 これまで回避するか防御をしていた奴がなにもせずに、ただ突っ込んできたことに驚き、一瞬だけ反応が遅れてしまった。


「バックブースト!」


 後方に飛んだが、遅かった。

氷をいきなり押し付けられたのかと思ってしまうような感覚に襲われて、後方に飛んでいる最中に体の一部がついてこないのを見てしまった。

片足が、そこに残されている。

つまり今、俺の足は……。


「四つのプレゼントに感謝して俺もお前に返してやる。スキル·四飛剣!」


「プロテクション!」


 銀の銃で防御魔術を使うも、バリバリと音を立てて青色の防御壁が崩れていく。

半透明な壁の向こうでは、魔王が剣を構えて振り下ろそうとする。


 自分の血で鉄臭い。

痛みはありがたいことに消えたが、視界が白黒になって、チカチカしてきた。

セクションの奴が言ってたっけ……"痛みに感謝しろ、だってそれは生きてる証だから"だったか?


 痛みを感じない今、俺は死に向かって進んでいる。

クソが、こんなことなら……シアに言われたとおり性格を直しておくんだった。


「じゃあな、壊滅」


 メキッて、骨が折れる嫌な音がした。

それと同時にブチブチと筋肉がちぎれていく音もする。

体内で発生したその不快音は全身に響く。

死を告げるその音楽の演奏会が終わったら……本当に俺は……。


「行くぞウェルハちゃん!」 


 クォーツに助けられなきゃ、俺は死んでいた。

だが俺は生きている。

魔王に敗北し、死ぬ直前まで追い込まれても生きて帰ってきた。

もちろんクォーツと、体を治してくれる彼の仲間"ネマ·ブライア"には感謝しているし、本当の意味での命の恩人だ。


 俺の体が使い物にならないのはわかる。

それでも治そうとしてくれているのもありがたい。

だが、こんな……少女の体に俺を閉じ込める必用があったのか!?

お前らのせいで大変なことになっているんだぞ。


「ロス、大好きだ」


「私からバルトロスを奪って、次は息子? ルー君を誑かして……私の、私だけの可愛い息子なのに!」


 実の息子に愛を囁かれ、妻には泥棒猫扱いされる。

こんな少女の体にされたせいで、俺は……魔王戦よりも酷い地獄に放り込まれたんだ。

 

「お前を絶対に俺の女にするよ、そしてゆくゆくは……って、まだ早いよな! でも母さんも孫を見れば……」


「ヒッ!」


 太く、傷だらけだった腕と指は細くて本来の腕力の半分も出せない。

息子に抱き寄せられても、抵抗ができない!

鍛えた腹筋と胸筋は消え、少しの膨らみを持つ胸と柔らかな少女らしい腹になっている。

このままじゃ……このままじゃ最悪なことになる。


 嫌だッ! 息子の子供なんて孕みたくないッ!

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