君の唇をいただきます
ラタの所に戻ってみると、彼女は目を閉じて静かに息をしていた。
言ってしまえば、彼女はこの魔王の影との戦いになんの関係もない。
勿論、ロスがいないと親父を探しているのという目的が達成されないと言えば関係あるかもしれないが、ここまで命を危険にさらして共に戦ってくれたんだ。
変態で、口を開くたびにいちいち人を攻撃したり、とにかく変態だった。
けれど、君が居なければロスの魂は取り返せなかった。
俺だけで挑んでいたらと思うと、彼女は俺の命の恩人と言ってもいいだろう。
「ありがとな、ラタ」
「隣に座るの止めて下さい、鼻息荒いし臭いし気持ち悪いです」
「俺はロス一筋だ、お前みたいな変態に変なことしねぇよ。自意識過剰の変態め」
「うるさいです……それで、ここにいるってことは終わったんですか?」
「ああ、終わったよ」
ラタに言うべきか悩んだが、俺は魔王から語られた真実とやらを言わなかった。
俺から説明しても彼女が納得してくれるとは思えなかったし、話す意味が無いと思ってしまったからだ。
勿論レイア様にも貴方は邪神なんですかなんて相談出来ないし……親父に会えたら聞いてみるか。
少なくとも、魔王をたおそうとしていた人になら話してみる価値はあるだろう。
「そんじゃ戻るか」
「こんな状態の私にテレポートを使えと言うのですか? 鬼畜要素まで持っているとは思いませんでした、ますます貴方のような変態に狙われているロスさんが可哀想になってきました」
「うるさい、これは愛だぞ愛」
「キモ……ですが、貴方は命を賭けてロスさんの魂を救いだし、魔王の影を倒したんです。例え彼女が嫌がったとしても、唇を奪う権利ぐらいはあると思いますよ。私が保証してあげます」
彼女は腹部を押さえながら、ウインクをして、少し息を整えるとテレポートを詠唱した。
戻った俺は一目散に走った。
手から感じるこの魂の熱が消えてしまわないように、そして早く君に目覚めて欲しくて、とにかく彼女の部屋に向かって走る。
レイア様や包帯でグルグル巻きになった博士とすれ違っても止まらず、ただ彼女の元へ走った。
「ノックぐらいしろ、ライフちゃんが着替えてたらどうするつもりだったんだ?」
同室のライフさんの言葉に対して頭を少し下げて謝罪をし、眠るロスの隣にたどり着いた。
静かな寝息は、まるで優しい音楽のように心地いい。
眠る君の姿は、美と言う概念をこの世に下ろしたような美しさがある。
だけど、やっぱり君は起きている方がいい。
小さな体で、みんなの為に戦う君。
親父のことで盛り上がる君。
俺に戦い方を教えてくれる君。
どれも素敵だったけど、やっぱり俺は……君の笑顔が一番好きなんだ。
「目を覚ましてくれ、ロス!」
手に握っていた魂がゆっくりと浮かび上がり、魔力を帯びたそれが彼女の体に落ちていく。
乾いた布に水を吸わせるように、何一つ音を立てずに二つが一つになって……。
「ん、あれ、ルイサ? ここは……戻れたのか? まさかこれも魔王の魔術かっ!?」
可憐な声を奏で、君が目覚めた。
「もう大丈夫だ、アイツは俺がなんとかしたよ」
「お前が……フフッ、そうか。アレは夢なんかじゃなくて現実だったってか」
「何を見てたんだよ」
起きてすぐ、両手に銃を握る彼女はベットに座ってから俺を見て。
「魔王の中からルイサを見ていましたよ、神の魔術とカタストロフの応用技を使いこなすなんて……流石俺の……じゃない、シアコトルとバルトロスの息子ですね!」
隣にいた俺の頭を撫でて、褒めてくれた。
小さくて、守りたくなる優しい手。
けれどそこにはいくつもの傷があって、彼女がただの美少女ではなく、人々のために戦う立派な戦士であることを主張する。
一般的な綺麗とは違うかもしれない。
絹のような肌こそ、多くの男が求めるものかもしれない。
だが、俺にとってその傷は、君を素敵にするアクセサリーでしかなかった。
「ああ、お前のために頑張ったんだぞ」
「むむ……それは複雑だけど……ちょっと、ルイサ? 近くないか?」
「お前が目を覚まさなくて、俺が遅かったからお前が被害を受けたって思って、とにかく必死だったんだ。よかった、またお前の声が聞けて嬉しいよ」
頬に触れてそこにある傷跡をなぞる。
君の全てが愛おしい。
ああ、ダメだ、我慢できない。
サラサラの白く綺麗な髪は、いつまでも触れていたくなる中毒性がある。
力強く抱き締めれば折れてしまいそうな細い体は、衣服に包まれ露出は殆ど無いに等しいのに、俺の心に炎を灯して前に進ませる魅力だらけ。
「ルイサ? 寂しかったのはわかるが、その抱き締められるのは流石に……ほら、ライフさんも見てるしバルトロスが今のお前を見たらきっとやりすぎだって」
「親父なんて知るか、俺は俺だ」
左腕で彼女の体を抱き締めて、右手は彼女の後頭部に回した。
「ルイサ!? 待て、流石にこれ以上は……!」
「それじゃ、いただきます」
「ルイッ……!」
もう逃がさない。
二度と君を傷付けさせたりしない。
俺が君を守るんだ。
これは君への約束にして、俺が君から貰うささやかなお礼。
そして、親父から君を奪うという宣言。
「……大胆だな、ルイサ君」
両腕で君を抱き締めて。
彼女の唇に俺の唇を重ねて、全身から君の体温や匂いを感じると、心から温かくなっていく。
柔らかい。
甘い。
君の唾液は、どうしてこんなにも美味しいんだろう。
もっと、もっと飲ませてくれ。
「んっ……」
ロスが身をよじるが、逃がさない。
君の口内のとろける甘さの唾液と、柔らかな舌を舌で触るのがやめられない。
もしかしたら、親父はとっくにロスとこういうキスをしているかもしれないけれど、俺が上書きする。
俺の誓いは、親父なんかに負けたりはしない。
「ちょっと……え、ルー君!?」
「ははっ! これはこれは、シアコトルよ先を越されたな!」
「わーお……」
「流石同志です! 私もお師匠様にあれぐらいできたら……でも力で勝てないし……でも私が見込んだだけはあります!」
母さん、レイア様、博士、そしてラタ。
みんなが俺を見ている。
ロスに誓うこの気持ちと、親父からの略奪と、ロスは俺の女だという決定的な場面を見守ってくれている。
みんなに俺の覚悟と、事実を覚えてもらおう。
「っ! ハッ……! 待て、ルイサ!」
「まだ終わってない、もう一回だけ」
「シアコトルが見てるんだって! シアコトルが」
「お前の目の前にいるのは母さんじゃない、俺だ」
一度離れた彼女をもう一度抱き直して、また君の唇と口内に俺を刻む。
君の記憶に、体に、俺という男を残す。
「シアコトルよ、その昔のような瞳をやめたらどうだ? お前の息子は一人前の男になって、愛する女とキスをしているだけだ。母としてそれは喜ぶべきだろう?」
「私も昔、今のロスちゃんみたいにキスされました。いい思い出ですけど……今はダメ、見ていられない!」
「いやいや毒殺女はレイア様の言うとおりルイサの成長を……」
「私のルー君を……昔のあの人の姿を完全に宿した私の息子……あの人がいなくなって私は全てをルー君に捧げてきたのに……嫌、嫌!」
抱き締めていたロスが俺の肩を叩く。
名残惜しいけど、今回はこんなもんでいいか。
それに、嫌がる彼女を無理矢理ってのは好きじゃない。
「終わった……ハハッ……息子に……それを妻に見られて……」
恥ずかしがる君の親父の真似すら、今は心から笑って見ていられる。
だって、俺は確実に、君の記憶に刻み込まれているんだから。




