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俺が惚れた少女は、何故か親父の面影を抱いている  作者: ケイト
一幕目 君が親父の愛人か、腹違いの妹だとしても

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正義の味方




 「盾起動!」


 射撃の瞬間に魔王が剣を投げ捨て叫んだ。

だが、この距離なら盾を呼び出しても構える時間は与えない。

鎧と同じく白銀の、煌びやかな宝石が埋め込まれた見事な盾が一瞬だけ視界の端に入ったが、その時には既に俺のロス·カタストロフは奴の体を捉えていた。


 一部の弾は鎧に弾かれて消えてしまっていたが、鎧が存在した空間を削り取る事に成功していて、その下にある奴の皮膚に別の弾が直撃して、中身が詰まった果実が弾けるような音と共に奴の肉を削っていく。


「くたばれ!」


「スキル! 刃状波!」


「やらせません! テレポート!」


 コイツ、どんだけ化け物なんだよ!

盾を出して守ろうとしてたくせに、カタストロフを受けて体を削られているのに攻撃してきやがった。

スキルとか言ってたが、その次に魔術名のような物を詠唱していたし……まだ見せてない奥の手があるってか!?


「ラタ、助かったよ」


「いえ……少し遅かったみたいです」


「何を言って……」


 ラタによって森の中、大きな木の後ろにテレポートしてきた。

座り込む彼女の杖は真っ二つになり、上半身を守る服も腹のあたりから腰までの布がなく、ロスと違って傷一つない綺麗な腹から血が流れ出した。


「ラタ!」


「私のことはいいです、これぐらいなら自分で治せます」


「これぐらいって言うけどよ、これは……」


 出血が酷い。

腹は綺麗に、鋭利なもので切り裂かれたかのように開かれてやがる。


「私よりも自分を心配して下さい」


「俺は別に大丈夫だ」


 俺はかすり傷一つない。

ラタが、俺を庇うように飛んだからだ。


「そうじゃありません! 魔王はまだ生きていますし、このまま殺しては同志君の目的は達成されません! ロスさんの魂を回収するのに、魂ごと葬るなんて出来ないでしょう」


 コイツ……自分がボロボロになってんのに俺の心配してんのかよ。

残った杖を捨て、自分の服から何かを探す彼女は"これぐらい慣れてます"といわんばかりの表情をして……あ、顔が真っ青になった。


「あの……スクロールが全部半分になってるんですけど、これって使えると思いますか?」


「ふざけてる場合か! そんなの使い物になんねぇよ」


「だとしたら私……傷を塞ぐ魔術なんて知らないので、かなりヤバイ状況なんですけど」


 魔王の状態も気になる。

そもそもの話、魂を取り戻すなんてどうやるのかもわからない。

やり方を知っているであろうラタが、このままじゃ死んでしまう。


「とりあえず血を止めるからじっとしてろ」


「すいませんがお願いします」


 血液を固める毒をラタに吸わせればとりあえず血を失い過ぎて死ぬことはないだろう。

この状態のラタにさっきと同じくテレポートを連発させるのは不可能だ。

動き回ればいくら出血を止めているとしても、彼女の命に関わる。


「次があるかどうかわかんねぇけど、もし一緒に戦う時があれば回復魔術が使える人と、前衛が必要だな」


「こんなにも弱った私の肌をなめ回すように見て、もう少しで胸が見えるのにって熱い視線を送る貴方と一緒に戦うなんて、二度とごめんです」


 見てねぇよ!

てかお前胸ねぇじゃん!

その辺のまな板と変わらないし、膨らみが欠片もないじゃん!


「そんだけ言えるならまだ大丈夫だな……なあ、魂の回収方法を教えてくれるか? ここからは俺一人でやるよ」


「魂はお師匠様が言うには肉眼では見えず、魔力で感じとることは出来る存在らしいです。ですから、まずは魔王の体を切り裂く必要があります」


「それでその体の中に手を入れて探せってことか?」


 ラタが頷くのを見て、俺の中で一つの作戦が浮かんだ。

いやもうこれは作戦と言っていいのかわからないレベルの賭けだし、作戦どおりに進んだとしても上手くいくかわからない。

だが、もはや俺にはこれしかなかった。


「よし、行ってくる」


「動けるようになったら私も行きますが……気休めだけさせて下さい……"ダイナ·プロテクト"」


 全身を黄色い光に覆われる。

だが、特に体が軽いとかはない。


「何をしたんだ」


「実体のある攻撃から身を守る魔術です。かなり強力な魔術ですから、アイツの持つ剣の直撃でも耐えられます」


「そんな便利な魔術があるなら最初から使えよ、そうすりゃお前もそんなに傷を負わなくてもよかったじゃねぇか」


「奥の手ってやつですよ、あとこれが守れるのは一回だけですから慎重に動いて下さいね」


 そう言ってから、彼女は目を閉じた。

少しでも傷を癒すためか、それとも魔力を整えるためか。

どちらでもいい、俺は自分のやるべきことをやるだけだ。


 毒はかなりの量を撃ち込んだ。


 そして、奴に毒は効く。


 ロスの魂を持ちながら、俺と同じレイアの魔術を使う。


 アイツはボロボロで、ここまでにかなりの体力と魔力を使っている。

 

 そして、レイアの魔術には一日に使える回数に上限がある。

仮に親父の力を使えるのなら、そして親父と同じなら。

レイア様が言っていたレイアの魔術の使用上限まで、あと三回。

俺は最低でもあと五回は使えるんだ。

魔力は結構使ってしまったし、今の状態で本当に五回も使えるかどうかわかんねぇけど、やるしかない。


 どっちが先にくたばるか、魔力と魔術の持久戦といこうじゃねぇか!

だけどハンデはもらうぞ、俺は一般人でお前は魔王。

毒が全身に回るのまで耐えても、俺の勝ちだ。


「卑怯とか言うなよ、お前は俺の女を奪おうとしたんだからな」


 狙うはあの残った右腕だ。

あれさえ無くせば剣の脅威は無くなる。

よし、行くぞ!


「レイア·ロス·カタストロフ!」


 まず一発撃って、弾が進む先を見てテレポートで距離を詰めてから、お前の体を引き裂いてやる。

剣で戦うのは得意じゃねぇけど、母さんから切り方は学んでんだ。

俺の、俺だけの女を返してもらうぞ。

早く帰って、ロスの唇を楽しまなきゃいけないんでな!



 光を追って進むと、胴体の鎧すら無くなった魔王がいた。

右腕は……ボロボロになってる!?

俺のカタストロフが直撃しているのか?

何故だ、コイツもレイアの魔術を使えば迎撃できただろ?

胸の傷と毒でそこまで頭が回らなかった……いや、楽観視するな。

目の前の事実だけを見ろ、油断するな。


「接続が途切れる……この毒か、厄介だな」


 魔力を感知してもアイツの状態はボロボロで、確実に毒が体を蝕んでいるのがわかる。

一応背後にも警戒して、ライフさんの言っていたように目と魔力でアイツを追い続けるんだ。


「それにこの魂……装備者に抗うとは……」


 攻撃してくる気配がない。

とりあえず身を隠して時間を稼ごう。

毒が回れば勝ちなんだ、ここで待っていればいい。


「そこにいるのだろう? 見えているぞ」


 魔力は消している。

息も音がしないようにしているし、母さんに教わった心臓の鼓動の音すら消す魔術を使っている。

なのに、見つかったってか?

姿を消せる訳じゃないが、気付かれる訳も……。


「パッシブスキルで見えているんだ、いくら隠れても俺の力からは逃れられんぞ」


 パッシブスキルなんて魔術は知らない。

ハッタリだ、耳を貸すな。

わかってるのに、背中に嫌な汗が流れて止まらない。

本当に音が漏れていないのか心配になるほど、心臓が早く動いて音を立てている。

血の匂いで木々の落ち着く香りが消えてしまっているのが、ここまで落ち着かないとは思わなかった。


「ならそこでいい、話がしたい」


 話だと?

魔王と話すことなんて、俺にはないぞ。


「運命から逃れることは不可能じゃない、世界がそうあろうとする力を越える力さえあれば、滅びの運命から逃れることはできるだろう」


「だがその運命を変えず、背負ったまま人の世界にやってきて俺達にもソレをばらまくのは何故だ? 自らの幸せのためならば、大多数の生命が散ったとしても構わない。そんな正義が、君達の正義なのか?」


 優しい声、まるで子供に語りかける大人のような話し方だ。

まったくもって言っていることはわからないが、さっきまで感じていた殺意や悪意がまるない。

本当に俺と会話したいだけか?

よく見ると、魔王の剣は少し離れた所に刺さっていて、盾や残った鎧もそこに置かれている。

兜だけは被ったままだが、その瞳の部分にある光は赤く鋭いものから、時折点滅する青色の光に変わっていた。


「運命がどうとか知らないけど、他の人を巻き込むのが正義だとは思わない」


 答えるべきじゃないのに、俺は魔王の問いに答えていた。


「そうか、君はそう思うか」


「けどお前は俺の愛する女の魂を奪ったんだ、それだけで戦う理由にはなる」


「愛する女のためか、フフフ、それはどちらの世界でも変わらないな。男はいつだって女にいい姿を見せようとする、バカな生き物だ」


「それには同意するよ、魔王」


「魔王と呼ばれるのは心外だが、まぁいい、君は他の人間よりも話がわかるみたいだ。だから、話しておこう、聞いてくれるならこの魂は返すことを約束する。どのみちこの毒で身動きできんが、戦闘がしたいなら付き合うが、どうだ?」


 俺が黙って首を縦に振ると、魔王は空を見上げて話を始めた。


 



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