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俺が惚れた少女は、何故か親父の面影を抱いている  作者: ケイト
一幕目 君が親父の愛人か、腹違いの妹だとしても

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正義が振るう邪神の魔術




 数日前に来たテココス湖の畔の上空に俺とラタは現れた。

空を飛ぶ魔術なんて覚えていないのに、俺は湖とそれを取り囲む森林を見下ろせる場所に浮いている。

空を飛ぶ魔術は魔術師の基礎って聞いたことがあるが、俺はこの魔術がめちゃくちゃ苦手で、魔術師になるのを諦めたんだったっけ、懐かしい。


「随分と広いですね、私は右側を見ますから同志君は左側をお願いします」


「この距離を全部見るとか俺にはできねぇんだけど……仕方ない、魔術、"遠方を見通す暗殺者の(ホークアイ)"! それとこれか、"魔力を追う蛇(マジかライズ·スネーク)"!」


 指の先から放たれた魔術が蛇を呼び出して、それが俺の首に巻き付く。

コイツは、強力な魔力を持つ存在を探知すれば体が冷たくなって教えてくれる便利な母さんの魔術の一つ。

だけど俺がまだ未熟なせいでかなり範囲が狭い。

けれど、空から見下ろすってこの状況なら、俺が見逃した場合に教えてくれるってだけでも十分だろう。


「蛇を呼び出す魔術ですか? 変わった魔術ですね」


「母さんが得意だったから教えてもらっただけだよ、俺も珍しいとは思ってる」


 空を飛びながら魔王の影を探す。

奴の大きさや見た目は覚えているが、木々よりも大きい訳じゃないから枝や葉っぱの影に隠れられているとめちゃくちゃ厄介だ。


「蛇の魔術師……どんな人なのでしょうか。とにかく今は急ぎましょう、少しでも弱っているところを叩きたいですし……あ、でも丁寧にお願いしますね」


「お前もな、魔術師なら銃士の俺より早く見つけねぇと恥ずかしいぞ」


「年下の女の子にプレッシャーをかけるタイプの人なんですね、後でロスさんに報告しておきます」


「それ卑怯だろ!」


「ふふん、使える物は全て使う、これが魔術師の賢さですよ!」


 ずる賢さが魔術師の象徴ってか?

他の魔術師が聞いたら激怒しそうなことをコイツは平気で……いやまたムカつく顔で言ってやがる。


 数分が経って、かなりの距離を移動した。

だが、魔王の影はまるで見つからない。

蛇もずっと変化なし、俺の目には変わった物も写らない。

それは隣で飛ぶ彼女も同じなようで、さっきからずっと「ムムム……」と唸るばかりだ。


「早く見つけてくれ、魔術師」


「っさいですね、その口を塞ぎましょうか?」


「はっ、俺の口を塞げるのはロスの唇だけなんだよ、お前なんかに塞がれてたまるか」


「私が貴方のような冴えない雑魚銃士にキスするわけないじゃないですか! 言っておきますけどそういう目で見ないで下さいね、あと俺の口をお前の唇で塞いでみろって発言もキッチリ報告しますから」


「情報が改変されてるんですけど!?」


 って、ふざけてる場合じゃない。

息を整えて、もう一度集中して……。


「あの、この大陸にもVano·Dite教団の教会ってありますか?」


「ゔぁの……でぃーて? なにそれ、新しい宗教か?」


「その反応的に知らない……いやそもそもない? まさか常識がない?」


「お前はアレか、人を定期的に攻撃しないと死ぬ呪いにでもかかってんのか?」


「まだ手は伸びてないのでしょうか……」


 聞けよ!

んな真面目な顔して意味不明な話をしやがって、俺はこう見えても流行には詳しいんだぞ。

親父のことで近寄ってくるクラスメイトに俺自身を見てもらおうと試行錯誤してたんだからな!

……まぁ、俺がどんな話をしてもみんな親父の話を聞きたがって誰も俺を見ちゃくれなかったが。


「それでは変態さんにもう一つ聞きます」


「聞く態度じゃねぇだろ、お前そもそも何歳だ? 絶対に俺の方が年上だと思うんですけど?」


「多分15とかです」


「多分て何? まさか自分の年齢も覚えて……」


「両親が悪魔に殺されてお師匠様に拾ってもらってからの記憶しかないので、私も自分についてそこまで詳しくないんです」


 いや……あのさ。

この流れでそんな真面目な話する?

軽口叩いただけなのに、俺がめちゃくちゃ軽率に人の心にずかずかと入り込んで触れてはいけない物でお手玉してるみたいになってるじゃん。

その作ってるみたいな笑顔をやめろ!

だからと言ってちょっと辛そうな顔を見せるな!


「……悪かった」


「では聞きますが"黄金のラエル"。この名前に聞き覚えはありますか?」

 

 黄金のラエル?

歴史上の偉人とかじゃないよな?

記憶の隅々まで探り、読んでいた教科書の内容も振り返ってみるけれど、そもそも黄金なんて呼ばれる人は存在していなかった。

多分だけど、黄金ってのは親父の"壊滅"みたいな通り名なんだろう。


「俺が知ってる通り名は壊滅のバルトロスと方舟の主クオーツだけだ、そのラエルとか言う人は知らん」


「うーん……知識無し、常識無し、実力無し。無い無い三拍子のダメ男だけど独占欲と下心と執着心は人よりもある、こんな人に狙われているロスさんが可哀想になってきましたよ」


 ……待てよ、こんなくだらない雑談をしている場合じゃない。

そもそも、俺は影を探さなくてもいいじゃん!


「なら俺にも実力はあるって所を見せてやるよ」


 右手で金の銃を握り、瞳を閉じて集中する。

あの時も同じように、魔王の影を想像しろ。

記憶の中からより鮮明なヤツを思い出して、ソレに当たるようにイメージするんだ。


「ハッタリではないことを祈ってます」


 魔力を集中して銃に集めろ。

可能ならこの一撃で終らせたい。

呼吸を落ち着けて、まっすぐ銃を構えて。

一撃で倒すんだったら、威力を増したいな。

親父みたいな射撃はまだ出来ないけど……確実に同じ所に二回当てられるなら、部分攻撃って面だけなら親父を越えられる気がする。


「全ての原初たる事象は我が手中にある」


 二発撃ち込め。


「始まりにして結論、全ての終着点にして出発点の力を見るがいい」


 これが、ロスを救う力だ。


「レイア·ジ·カタストロフ!」


 指が勝手に二回トリガーを引いていた。

唱えたことのない詠唱をしていたが、魔力の流れがとてもスムーズになっていて、魔術師が詠唱する理由が少しわかると同時に、銃から青色のカタストロフが二発放たれた。


 放たれた二つの青い光跡は、俺の意志とは関係なく空中で鋭角に軌道を変え、遥か下方の深い森の中――木々の影に隠れた"何か"に向かって、一直線に吸い込まれていく。


「これがレイアの……原初の神の魔術……!」


「あの光の先に影がいるはずだ! 行くぞ!」


 空間が削られる凄まじい爆音。

そしてこの森を全て照らすような閃光。

撃った俺でも驚く程、俺のカタストロフが強化されている。


「なんですか!? 聞こえないです!」


「行くぞ! あの光の先だ!」


 耳元でガラスを叩き割ったような音は、隣にいるラタに言葉が届かない程になっていた。

このカタストロフは、俺がこれまで撃ってきたソレとはわけが違う。

コレに耐えられる訳がない。

肉体とその空間を削り取り傷口から毒を送り込む、それが必中で二発あって、この威力だぞ。

ガードも出来ないんだから、確実に殺せているはずだ!


「凄い威力ですね、しかも途中で軌道があり得ない方向に曲がっていったし……フフン、やればできるみたいですね」


 ラタと俺は影のいるであろう場所に降りて、そこでヤツを見た。

左腕は原型のない程損傷し、両足を失い、兜にはヒビが入っている。

しかし、まだ生きていた。

俺のカタストロフが左腕に命中していたのか、鈍い青色に光ってはいる。

その腕を、残る右腕で握った剣で自ら切り落としてから。

フワリと浮いて、兜の間から見える赤い光が俺達を睨みつけていた。


「穢れた枝の子よ、無駄な抵抗はせずそこでじっとしていろ、そうすれば楽に殺してやる。安心しろ、お前達の魂をあの邪神どもに再利用させたりはしない」


「知らないことをごちゃごちゃ言いやがって! 抵抗せずに死ねってか? 俺はお前が奪った俺の女の魂を取り返しに来てんだ、黙って死んでやれるかっての!」


「俺が奪った女の魂? あれは男だろう、いや、世界が違えば性別も違うのか?」


 右腕しかない。

だけど、ここまで傷ついて初めて俺と同格……いや、まだ相手の方が強い。


『ルー君、まずは相手を観察しなさい、どんな敵にも必ず弱点はあるわ』


『予想外なんて、実戦じゃ予想内だ』


 ライフさんと母さんの言葉が脳裏に現れて警告する。

コイツは普通にやっても勝てないと。

そして、それでも勝つ方法はあると。


「シューティングスター!」


 ラタが作り出した幾重もの光が魔王に向かって飛んでいくが、それはいつの間に持ち替えたのか白銀の盾ですべてが防がれていく。


「そのまま続けろ!」


 赤鬼を倒した時はガードをすり抜けて当たる際に威力がさらに増していた。

なら、盾を持っている今!


「レイア·ジ·カタストロフ!」


 魔力がガリっと削れていく。

だがそれとほぼ同時に、魔王の体が後方に吹き飛んだ。

手応え……アリ!


 盾を無視して、その奥にある体を削り取った感覚だ。

吹き飛んだ魔王の影は、低空で制圧をかけ、空中で静止した。


「……ふむ。防護をすり抜け、因果を捻じ曲げて着弾させる力。なるほど、お前、あの"壊滅"の関係者か? だから魂を取り返しに来たのか、なるほど」


「それは俺の親父だ、まさかそっち側でもうちのクソ親父が有名だとは思わなかったな」


 魔王が殺気と共に剣を俺に向けた。

ラタがそれに気づいたのかすぐに防御魔術を展開し、俺とヤツの間に数枚の壁が出来上がる。


「有名だとも、なにせ……確かこうだったか、レイア·ダガーレイン!」


 けれど、俺の前に出来た壁に意味はなかった。

空には無数の短剣が浮かび、その鋭く、光を反射する刃が俺を狙っていて。

何より……。


「俺がお前達の邪神の力を得るキッカケとなった男だからな、この魂には感謝しているよ」


 レイアの魔術を、魔王が使ったからだ。


 


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