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俺が惚れた少女は、何故か親父の面影を抱いている  作者: ケイト
一幕目 君が親父の愛人か、腹違いの妹だとしても

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君の唇を奪うため



 「むむむ……ルイサ君、いえ同志さん」


「その呼び方やめてくんない?」


「でも愛する人の爪の先から髪の毛一本まで自分の物にしたいでしょ?」


「それは……そうだけど」


 自分でもおかしいとは思う。

だけど、この気持ちは止められない。

ロスという少女の全てを、俺は手に入れたい。

だけど、それは彼女を自己満足のために利用しているような気もするし、男として愛する女を手に入れた一種の称号のような扱いな気もする。

果たして、これでいいんだろうか。


「でしたら同志ですね! 話を戻しますが、この女の子は本当に強かったんですか?」


 ラタは眠るロスの前で手をかざしている。

彼女とロスの間には見たことのない青色の魔術が浮かびあがっているが、それからは一切の攻撃性能を感じない。

呼び方はめちゃくちゃ気に入らないが、彼女は俺を悪く思ってはいないみたいだ。


「本当だ、なんでそう思うんだよ。さてはアレか、こんな可愛くて小さい女の子が強いわけがないってか? 言っとくが俺のロスはかなり強いぞ」


「うわ……男が自分より小さな女の子に可愛いって言って独占欲丸出しにしてるの想像より……キツ」


 傷が治ったらコイツは一回ボコボコにしてやるからな、覚悟しろよこの変態魔術師!


「この女の子……ずいぶんと持ってる魔力の質がおかしいんですよね、言葉にするのは難しいんですけど……」


「そうか?」


 ロスの手を握り、集中する。

彼女の体に流れる魔力を見てみるが、そこにラタの言うおかしな魔力の質はない。

そこらへんにいる、ロスと同い年の女の子と同じような魔力だ。


「眠る女の子の手を……指を絡めて……流石ですね」


「あーもー! 話が進まねぇだろうが、とにかく俺が見ても魔力が減ってるってことしかわかんねぇよ」


 ラタの奴、目を細めて一本俺から距離を取り、両手で杖を握ってニヤニヤしてやがる。

俺が見てもわからないと答えると、少し首を傾げて。


「んー、お師匠様ならこの違和感を言葉にできるのでしょうか。でもとにかく変なんです」


 説明できない異変があると言われても、どうすればいいのかわからないだろうが。

やれやれ、やはりコイツはまだガキだ。

いくら実力があろうとも、言葉に、もしくは形にできなきゃなんの意味もないだろう。


「その話はもういい、とにかく今わかってんのはロスの意識と魔力を魔王の影に奪われているってことだ」


「魔王じゃなくて、魔王の影ですか?」


「ああ、ロスが言うには本体よりも弱いらしい」


「それは初耳ですね、詳しく教えて貰えますか?」


 さっきまでウザイセリフを連呼するだけだったのに、俺が彼女の知らないことを言った瞬間から、ニヤケた顔が消えた。

この切り替えの速さに少しの恐怖を覚えつつ、ロスから教わったことを彼女に伝えていく。


「その影は回復とかするのでしょうか」


「回復は……どうなんだろ、俺は戦ってねぇからそこはなんとも……あっ!」


 ラタの言いたいことがわかった。

もし、あの影が傷ついたままいるのなら時間をかけてもいい。

だが、治癒するならどうだ?

早く倒さないといけなくなる。

ロスや母さん、ライフさんの頑張りで追い返した努力が消えてしまうのと同じじゃないか。


「話を聞く限り、おそらくその影は傷ついています。じゃなきゃここに攻めてくるはずですし、この街の一般人が生きているのが何よりの証拠でしょう」


 言っていることは間違ってない。

俺もボロボロだが、アイツも同じくボロボロなんだ。


「同志君は、神の魔術は使えますか?」


 神の魔術って、レイア様の魔術か?


「レイア様の魔術、必中になる神の魔術なら使えるけど」


「ふふん、私は三つ使えますよ! 私の勝ちですね!」


「まてまてまて! え、神の魔術ってそんなにあんの?」


「そりゃありますよ、神様一人につき一つはあります」


 そうなると……第六大陸まであるわけだから、六つあるってことか。

俺はたまたまレイア様に認められてこの力を手に入れたけど、この女は三つも持っている。

羨ましいとか、そんな気持ちはない。

だけど、コイツが三人の神様から認められているという事実が……バカにしてたけど、コイツは英雄タリラ様の弟子だったな。


「さて、数はどうでもいいですが、使えるのならまだ可能性はありますね」


「可能性って……お前、まさか」


「私達で、その魔王の影を倒すんです」


 そんな英雄の弟子は、とても真面目な顔で、ふざけた提案をしてきた。

レイア様はこの女を知恵を補う存在だと言っていたけれど、俺達で勝てるのだろうか。

わかってる、今やらなきゃダメなのはわかってる。

それでも、俺が強者として認めている二人が勝てなかった相手に挑むのは……。


「勝てる……のか?」


「……私はね、次の魔王討伐のメンバーに選ばれなかったんです。第六大陸から一緒に来た気持ち悪い鎌の女は私を弱いと言って取り合わないし、お師匠様には足手まといと言われ、親友……いえ、友達にも止められています」


 俺は勝てるかどうかを心配している。

だが、ラタはそれだけじゃなかった。


「私はもう子供じゃありません、今や一人前の回収師ですし、お師匠様と同じ"ルリラ"の家族の一人なんです! だから、私は自分の力を証明したいんです」


「ルリラの家族って……?」


「お師匠様に認めてもらいたい、これ以上失望させたら……私はきっと、唯一の繋がりであるこの名前すら失ってしまうかもしれないんです」


 手が震えている。

目に見えるほど震えているその手は、握る杖からカタカタと乾いた音を立てていた。

見開かれた瞳の奥には、真っ黒な執着と、それ以上に深い恐怖がべっとりと張り付いている。


 ふざけているとは思えない声のトーン。

彼女が背負っているものの重さが、肌を刺すように伝わってきた。


「それじゃ、支度するか」


 彼女は本気だ。

俺が行かないと言っても、母さんやレイア様に相談してからだと提案しても、彼女は一人で影の元へ向かってしまうだろう。

なら、今俺も行くべきだ。


 それに……やっぱりロスは、俺の手で救いたい。


「そう言ってくれると思いましたよ。えーっと、"フルポテンシャル"!」


 体が鮮やかな緑色の光に包まれた。

問い質す暇もなく、体の動きが劇的にスムーズになり、腹の傷の痛みが急速に引いていく。

彼女の支援魔術だろうか、実力の一端を見せつけられた。


「私は、魔王の影を倒して、お師匠様に認めてもらいたい」


「俺は、魔王の影からロスを救い出して――俺が自分の女を絶対に守る男だと、ロスに証明してやる」


 彼女を動かすのは、巨大な欲望と孤独への恐怖。


 俺を動かすのは、傲慢で誠実な、心からの愛。


 原動力はあまりにもかけ離れているけれど、どうやら彼女とは本当の意味で"同志"になれそうな気がした。


「では、行きましょうか」


「ああ、行くか」


 ロス、もう少しだけ待っててくれ。俺がお前を必ず助けてやる。

でも助けたら、何かご褒美をくれると嬉しい。デートとか……いや、いっそのこと……。


「……真面目な場面なのに、随分とニヤニヤしていますね」


「ん? まぁアレだ、ロスを助けたらどんなご褒美を貰おうかなって思ってたんだけど……ほら、俺って命を懸けてるわけじゃん?」


 足元に複雑な魔術式が展開していく。


 テレポート。

それも、神の魔術を使える彼女が編み出す極上の転移術だ。


「それはまぁ、そうですね」


「だったら、そうだな……ロスの唇が欲しいな。それぐらい貰ってもバチは当たらないはずだろ?」


「それなら、今しちゃえばいいじゃないですか。寝てるんですし、絶好のチャンスですよ?」


「……いや、そんな真似はしたくねぇ。けど――少しだけ、前払いしてもらうか」


 俺はそっと、ロスの手を握った。

小さくて、それでいて戦士としての傷跡が残るその手。

逃げずに戦い続けてきた彼女の証。

俺の、大好きな手。


「行ってきます」


 その手の甲に誓いのキスを落とし、俺は覚悟を決めた。

俺が死ぬのは御免だ。

でも、ロスが目覚めない世界で生き続けるのは、もっと御免だ。


「同志君……」


「行くぞラタ。俺達でぶっ倒してやろうぜ!」


「寝てる女の子の手にキスって……やっぱりキモ……」


「ちょっ! 今いい感じの空気だっただろ、ぶち壊すなよ!」


 ラタが再び目を細めて俺をゴミを見るような目で見つめた瞬間、足元が爆発的な光に包まれた。


「――ルー君っ!!」


 遠ざかる意識の端っこで、母さんの焦ったような叫び声が聞こえたような気がした。


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