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俺が惚れた少女は、何故か親父の面影を抱いている  作者: ケイト
一幕目 君が親父の愛人か、腹違いの妹だとしても

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最高の友 ラタ·ルリラ




 ロスを助ける方法がない。

意識を失って、目覚めない彼女に対して、俺がしてやれることはない。

君を守る力を、君がいない世界で手に入れても意味がないっていうのに……。


「ルー君、少しは食べないと治らないわ」


「……ロスも食べてないんだ、俺だけ食べるわけにはいかないだろ」


「それにね、まだ体が完全に治った訳じゃないのよ? だからベットに戻って休みましょ?」


 俺の目の前には、ベッドが二台並んでいる。

奥には目を覆うように包帯が巻かれて、両手と肩に傷を治すための回復魔術が込められたお守りが置かれていて。

そこで眠るライフさんは、静かに眠っていた。

死んではいない。

だけど、死んでいないだけだ。


 彼女は英雄の域に達していた。

誰が見ても、彼女は親父と比べても劣らない強者だったはずだ。

短い間だったが、近くで彼女を見ていた俺にはそれがよくわかっている。

そんな彼女が……ここまでやられるなんて……。


「ロス……起きてくれよ……」


 生きる希望と言っても過言ではない、そんな人が休む隣には……俺の愛した女性がいる。

彼女には目立った傷はほとんどない、肌や顔に切り傷や打ち身の跡は残っているものの、それらは彼女の魅力を決して損なうものなんかじゃない。

人のため、レイア様を助けるための戦いに身を投じた証であり、俺から見れば彼女を綺麗にする勲章であり、化粧でしかないんだ。


「ほら、起きないとキスするぞ? ロスも女の子だからな、眠るお姫様を王子様がキスで起こすって話は知ってるだろ? だから……」


 なあ、いつもみたいに嫌がってくれよ。

お姫様を守れない王子様とか、可愛い顔で俺に文句を言ってくれよ。

……俺の話じゃなくていい、親父の話でもいいから、もう一度起きて、声を聞かせてくれ。


「ロス! なんで……」


 外傷は浅く、これらが原因とは考えられない。

母さんが見ても、ロスの体内に毒が回った痕跡はない。

レイア様や、医者が見ても彼女の体に異常は見られない。

何故、ロスが目覚めないのか。

その原因が一切わからない。


「ルー君……」


「俺は大丈夫、母さんは他の人に食事を配ってやってくれ」


「……体、あんまり冷やさないでね」


 カツカツと、足音が遠くなっていく。

どうすればいいんだよ。

誰か、俺に教えてくれ。

ロスを助けるためなら、俺はなんだってする。

白銀の……魔王が理由なら、俺が魔王を殺してやる。

そうだ、きっとそうにちがいない。


「魔王が原因なのか?」


 今の俺に勝てるだろうか。

ロスやライフさんでも勝てなかったあの魔王の影に、どう戦えば勝てるんだ?


「親父なら、どうしたんだろ」


 銃を取り出して眺めてみる。

もちろん銃から親父のアドバイスが聞けるわけじゃないし、そもそも親父を探しに行くって話でこの旅は始まったのに、親父の居場所を知るロスが意識不明じゃどうしようもない。


 金と銀の銃には、いくつもの傷がある。

この一つ一つが親父が戦ってきた証だ。

俺は……いくつ傷を刻んできた?

ロスや母さんに守られて、この銃は俺の手に渡ってからずっと親父の勲章しか刻まれていないじゃねぇか。

……親父、どうすりゃいい。

あんたの愛人か、もう一人の子供か知らねえけど、この女性はあんたにとっても大切な人だったんだろう?

だったら、教えてくれ。

俺に……何か、ヒントを……。


「必ず助けるからな、ロス」


 祈っても何も解決はしない。

誰かが俺に助言をくれることはない。

記憶の中の親父は言葉を話さず、未来は暗く閉ざされている。


「俺はお前の男だ、だからお前を必ず助けてやる」


 彼女の頬に触れて、体温と共に勇気を貰う。

こんな時でも口だけで、ロスに頼ってしまう自分に嫌気が差すが……。


「これって……レイア様! レイア様ッ!」


 ロスに触れて、勇気以外にも一つだけヒントが手に入った。

頬に触れた指先が、いつもなら火傷しそうなほど感じていた彼女の魔力の熱を、今は半分も感じ取れない。

彼女の体にある魔力が半分になっている。

そして、これまで感じた彼女の強い……まるで親父のような力がまるまる失われている気がする。


 腹部が痛む。

清潔な白色の包帯が汚れていく。

だけど、俺は足を動かし続けている。

弱っていて、魔力が減っているだけかもしれない。

それでももしかしたら、これが何かに繋がれば……!


「お前か、騒ぐと傷口が開くと言っただろう! 折角貴重な包帯を分けてやったのに」


「レイア様ッ! ロスの魔力が半分になってるってのは、何か理由があるんですか!?」


「魔力が半分に? ふむ、人間は眠るか意識を失っている間は魔力を回復させるはずなのだが」


「母さん達が戻ってきてから数日です! でも、ロスの体には魔力が半分しかないんです!」


 レイア様が驚いている。

俺の隣を早足で通り抜けて行くのを追いかけると、目を閉じてロスの額に手を置いていた。


「なる程な、シアコトルも戦いで魔力を消費しただけだろうと認識したんだろう。だがこれは普通に分かるものではない、母を責めるなよ?」


「そんなことしませんよ、それで、なにかわかりましたか?」


「ああ、コイツを救うのは簡単な話だが、今回は最高に難しいぞ」


 簡単な話なのに、難しい?


「コイツの魔力は抜き取られている、そしてどういう訳か、"魔力と共に意識まで"持っていかれているんだ。まるで魔力に意識があってソレがこの体を動かしていたのに、ソレが抜かれてここにあるのが空っぽな体になったみたいな状態だ」


 ……ん?

えーっと、つまり?


「わかるか?」


「わかりません!」


「ハァ、つまりだ。ここにいるロスは空っぽで、彼女の意識と魔力は魔王に持っていかれたってことだ」


 意識と魔力が持っていかれた!?

そんな魔術師は聞いたことがない。

レイア様も驚いているみたいだから、神様の魔術でも難しいことなのか?

魔力を奪う魔術……伝説でも聞いたことがない。


「それで、どうすればいいですか?」


「簡単だ、魔王から奪い返せばいい」


「それは……」


「ああ、方法とちがってそれは簡単じゃない、最悪だ」


 俺の前には、ロスを救う方法がある。

だがそれは、ロスが勝てなかった相手を倒して奪われたものを奪い返す。

そんな、不可能という絶望を越えた先にしかない。

普段ならここで足が止まっていただろう。

だけど、不思議と暗い気持ちにはならない。

助けられるんだって、喜びとやる気だけが心を満たしていく。


「それじゃあ、倒さないといけませんね」


「簡単じゃないぞ、俺様でも勝てなかったんだ」


「でも俺はまだ魔王と戦ってませんから、負けてませんし、レイア様やライフさん、ロスが戦った後ですから弱っているかもしれません」


 無謀かもしれない。

けれど、ここで動かなかったら俺は一生後悔するだろう。

そんな状態で生きていられるのか?

そもそも、絶望して生きて、それは果たして生きていると言えるのか?

そんなの、嫌だ!

死ぬつもりはない。

だけど、惚れた女の為に命をかける。

その時が、今なんだ、今来たんだ。


「俺が魔王を倒します! 俺が、ロスを救います!」


「やはり、お前を選んで正解だったな」


 レイア様は少しだけ笑ってから、すぐに真面目な表情になって、俺の目をまっすぐ見た。


「お前の覚悟と勇気、そして執念……どれを取っても一流だ。しかし頭が少し足りないな」


「褒められてると思っておきます」


「褒めているさ、お前もそう思うだろ?」


 「はい、頭が足りないのは他人にカバーさせればいいですが、勇気と覚悟と執念は一朝一夕でどうにかなるものじゃありませんから」


 背後から響いたのは、凛とした、それでいてどこか浮世離れした少女の声だった。


 振り返れば、そこにはロスと同じくらいの背丈の少女が立っていた。

長く、流れるような紫色の髪。

顔立ちはまだ幼さを残しているが、纏う雰囲気は酸いも甘いも噛み分けた大人のそれだ。


 右手に握った巨大な杖がカツカツと床を叩き、機能美に溢れたブーツが意志の強さを物語っている。


「こんにちは、バルトロス様の息子さん」


 彼女は、俺と同じ大陸の人間ではない。

一目でわかる。

その装備、その立ち居振る舞い。

ロスのような傷跡こそないが、彼女の周囲には完成された魔術師の香りが漂っていた。


「貴女は……?」


「私は、タリラ·ルリラ様の一番弟子にして運命のパートナーにして結婚相手。伴侶であり、いずれお師匠様の子供を孕み、お師匠様を孕ませる――つよつよクール系美少女魔術師の、ラタ·ルリラです!」


 …………なんだ、コイツ。

黙っていれば、あるいは最初の一行だけなら、歴史に名を残す大魔術師のようだったのに。


「あ、回収師でもありますよ? 今は……相方がいないので休業中ですけど」


 口を開いた瞬間、これまでに会った誰よりヤバい奴という認識が俺の脳内でアラートを鳴らした。


 

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