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俺が惚れた少女は、何故か親父の面影を抱いている  作者: ケイト
一幕目 君が親父の愛人か、腹違いの妹だとしても

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君を守る力なのに



 「ルイサ!」


 目の前に、ロスがいる。

その宝石のような輝きを放つ瞳には、彼女の魅力をより一層深く、それでいて輝かしいものにするため、俺の心を射貫くために、"涙"という名の装飾が施されていて。


 彼女を見ていると男として彼女を守りたいという本能と、この人を俺だけの女にしたいという独占欲や、暗い欲望が込み上げてくる。


「ロス、可愛いよ」


「私のこと……守ってくれて、ありがとうございます」


 そんな彼女が、俺の胸の中に飛び込んできた。

彼女の体温と、柔らかな肌の感触が今、俺の腕の中にある。


 今この瞬間、ロスは俺だけの物だ。

親父なんかに邪魔はさせない。

君がたとえ親父の愛人だとしても、隠し子だとしても。

ロスは、俺の女だ。


「俺の女を守るのは、男として当然だろ」


「私……ルイサ君の女になれてよかったです! でも、もっとルイサ君に支配してもらいたいです……」


「それって……」


 ロスがそっと目を閉じている。

これは……そういうことだよな?

き、キスして欲しいって意味だよな!?

俺から無理矢理するとかじゃなく、不意打ちでもない。彼女自身が俺を求めてくれているんだ。


「大好きだよ、ロス」


 彼女の唇を奪えば……完全に、俺の女に……。



 「さっさと起きろ、バルトロスの息子よ」


「うげっ!?」


「シアコトル! お前もお前だ。何故抱きしめられて、危うくキスされそうになっておきながら……振り払わんのだ。お前なら容易かっただろう」


「そうですけど……若い頃のバルトロスみたいで……それに久しぶりにこんなに甘えてくれたので……」


 聞き覚えのある声。

そして、俺の腕の中には……俺をじーっと見つめる母さんがいた。

目の前にいたはずのロスの姿はなく、感じていた肌の柔らかさや体温は、全て母さんのもので……。


 え、夢だったの?

つーか、レイア様が止めてくれなきゃ……俺、母さんにキスして……。


「起きたか、ルイサ」


「止めてくれてありがとうございました! まじで最強の黒歴史生み出すところでした!」


 これまでにない速さで母さんを抱き締める腕を解き、肩を押して距離を取る。

本ッッッ当に危なかった!

いくら事故だとしても、実の母親にキスしたなんて特大級の事故がおこってしまったら、俺の心は崩壊して、爆発して消えてしまっていただろう。


「もうちょっとでルー君とキスできたのに……レイア様もいじわるですね」


「シアコトル、息子の心に二度と消えない傷を刻むのが趣味ならともかく……ハァ、それはそうとルイサはあまり騒ぐなよ? 傷口が開くぞ」


 レイア様の言葉と共に、腹部に走った激痛が俺を現実へと引き戻す。

そうだ、俺は死にかけていたんだ。

 

 目の前には呆れ顔のレイア様と、少し頬を赤らめて名残惜しそうに俺を見る母さん。

最悪な目覚めのはずなのに、不思議と安心感が胸を満たしていく。

 

 だって、生きているから。

俺はまだ、アイツらと同じ世界に立っているんだ。

そして母さんがここにいるってことは……ロスやライフさんも帰ってきている!

俺のメッセージは無事に届いたんだ!


「無事で良かったよ、母さん」


「いきなり空から青色の光が飛んできてそれが白銀に当たったのには驚いたわよ、でもロスちゃんが"アレはルイサのカタストロフだ"って言うからお母さんはもっと驚いちゃったわ」


 あれだけの距離があったのに、俺の撃ったカタストロフが届いていた。

普通なら絶対に当たらない、不可能と言ってもいいだろう。

だが、レイア様の魔術を混ぜるだけで、その不可能すら可能にしてしまったんだ。

必中の魔術……すげぇな、これさえあればここから魔王本体を攻撃して倒せるんじゃないか?

常に自分は安全地帯にいて、そこから攻撃すれば……え、これって、無敵じゃん。


「お父さんでさえ、街から正確に当てるなんてことは出来なかったのに……聞いたわよルー君。貴方がレイア様に認められたこと、そして……神の魔術を習得したこともね」


 受かれている俺の横に座った母さんは、笑顔を見せている。

きっと、尊敬するレイア様に息子が認められて嬉しいんだろう。

目はキラキラと輝いていて、俺の手は強く握られていて、めちゃくちゃ痛い。


「レイアの魔術を習得できるのは本当に一握りなのよ! 私だって使えないし……それに、お父さんよりもルー君の方が使える回数も多いって話じゃない!?」


「そうだけど……母さん、手痛い! 折れる! 傷ついた貴女の可愛い息子の手が折れます!」


「顔も悪くないし、レイア様に認められているし、赤鬼も倒して私達の援護までする……お父さんがルー君ぐらいの年の頃はこんなこと出来なかったのに……あの人の若い頃どころか、それよりいい男になってるわ」


「手離して! あ、なんか今メキッて音した! これ絶対骨にヒビとか入ってるって!」


「ご、ごめんなさい!」


 ようやく解放された……あ、手がまだ痛い。

少し動かすだけでも痛いんですけど。

なんで悪魔に腹部を貫かれた後で、母に手をやられないといけないんだろうか。

俺は頑張ったのに……トホホ。


「その手じゃご飯も食べにくいわよね、私が食べさせてあげるからね! 頑張って作ってくるから、そこで待っててね!」


 誰のせいでこうなってるかわかってんのか!!

俺の心の叫びはもちろん届かず、母さんはとびっきりの笑顔でスキップをしながら部屋から出ていった。

しかし、この部屋はずいぶんと綺麗だ。

あの襲撃の後でも、こんな場所が残っていたなんて……。

窓から見える街並みは、ボロボロなのに。


「こんなにも綺麗な部屋をありがとうございます、レイア様」


「俺様を救ったのだからな、これぐらいはさせてくれ。それにしても……シアコトルのヤツめ、自分の息子になんて顔を見せてんだ? 人間は親子でそういう関係は……ダメだったよな」


 ……?


「えっと、どういう意味でしょうか」


「気にしなくていい、俺様からシアコトルには言って聞かせるさ。さてと、お前にいい話と悪い話がある、どっちから聞くか決めていいぞ」


 いい話と悪い話か。

それなら、いい話から聞かせてもらいたいね。

悪い話から聞かされると、いい話がそれを越えなかった時にめちゃくちゃ嫌な気持ちになるし。


「いい話からお願いします」


 レイア様は「よかろう」と言ってから、咳払いをした。

そして部屋に飾られた……黒装束に包まれた、赤色のマフラーをなびかせている男性の絵をなでてから。


「お前には俺様の魔術を扱う才能がある。街から正確にあの白いバカを攻撃するなんて離れ業は、本来できるものじゃないんだぞ? 俺様の魔術はあくまで狙った攻撃が必ず当たるだけであって、"狙ってないのに当たる"ってのは……本来の力を超えている」


 俺が使うレイア様の魔術が……本来の力を超えている。

その言葉だけで、俺のテンションは最高に高まっていた。

この力は、俺の武器になる。

親父を越える力になる。

そんな絵空事が、今この瞬間現実になっているんだ。


「才能があるってことですよね!?」


「ああ、やはり俺様の目に狂いは無かったな! ガハハ!」


 レイア様も喜んでくれている。

母さんだって、喜んでいる。

そうだ、ロスに教えてやろう!

この力を扱うって点じゃ、俺はお前が心酔するバルトロスを超えているんだって、言ってやるんだ。


「あの、ロスはどこですか!?」


「それが悪い話だ」


 空気が一気に冷たくなった。

レイア様は笑っていたのに、真面目な表情になっていて、俺もふざけることができないぐらいに……空気が冷たいどころじゃない。

重くて、体の動きを制限してくるし、声を出すのも躊躇われる。

そんな、絶対零度の空気の中で、俺は勇気を振り絞って悪い話の続きを聞いた。


「ロスは、白いバカとの戦闘中に意識を失ってな、どんな治療を施しても目を覚まさないんだ。奇抜な姿の……ライフとか言ったか、あの女も同じだが……隠れていたシアコトル以外は……ハッキリ言おう、助ける方法がわからない」


 ロスと……あのライフさんが?

なんで……俺は、間に合わなかったのか?

愛する人を守る為に力を得たのに、それを見せることができないのか?


「どうすれば……どうすればロスを助けられるんですか!? 痛っ……!」


「まずは休め、今お前にできることはない」


 腹部に巻かれた白色の包帯に、赤色が滲む。

けれど、この痛みよりも……俺は心が痛かった。

俺がもっと強かったなら、もっと早く赤鬼を倒せていたら。


 俺が魔王なんかに負けない力を持っていたのなら、ロスを傷付けずにすんだのに。


 そんな後悔が脳内を駆け回り、視界が白くなっていった。

さらに眠りつづけて二日後、俺は意識のないロスを再開したんだ。

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