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俺が惚れた少女は、何故か親父の面影を抱いている  作者: ケイト
一幕目 君が親父の愛人か、腹違いの妹だとしても

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神の魔術




 神の魔術、"レイア"。

それを使えばどのような攻撃であったとしても、必ず狙った場所に当たる。

この世界そのものに干渉し、攻撃どころか外れる運命にある攻撃もどきでさえ、武器となる。

……頭の中に、そんな魔術の説明が流れてくる。


 これまで覚えたどんな魔術よりも複雑で、長い魔術式。

これを覚えようとすれば、一年はかかるかもしれない。

だけど、まるで腕を動かすかのように、呼吸するように。

この魔術が自由に使えるって、感覚がそう言っている気がする。


「お前はそうだな、九回だ」


「九回? それって」


「一日に使える俺様の魔術の回数だ。人間にしてはかなり多いぞ? バルトロスでさえ五回が限界だったんだが……魔力量が桁外れに多いな」


 俺って……魔力の量が多いのか?

母さんと同じぐらいだと思っていたし、結構魔力消費が辛くてカツカツで、苦しんでいた記憶しかないんだけど?

自分の魔力を見るために両手を見ていた俺を不思議に思ったのか、レイア様は笑いながら頭を叩いて教えてくれた。


「お前にはシアコトル譲りの魔力量と毒を生み出す才能があるし、バルトロス譲りの勇気と才能がある。このレイアが保証してやろう、お前は必ずバルトロスを越えるとな!」


 俺は平凡だと思っていた。

親父に追い付くなんて、どれだけ先の話になるかわからなかったし……もしかしたら不可能かもしれないって、心のどこかで思っていた。


 だが、レイア様が俺を認めてくれた。

俺のことを、親父を越えると言ってくれたんだ。


 勝手に手が震える。

自分でも、いまどんな感情なのかうまく説明できない。

だけど、これまでの人生のなかで……最高に気分がいい!

魔術を一つ覚えただけなのに、何でも出来そうな気がする。

あの赤鬼だって、今なら倒せそうな気がする。


「ありがとうございます、レイア様!」


「さてと、これからお前の意識を体に戻すが……お前は重傷を負っている、深く傷付き、体は冷たくなりつつあるだろう。だがそこは俺様にはどうにもできん、だから」


 俺の額に、レイア様の指が当たる。

視界がゆっくりと暗くなっていく。

手足の感覚が徐々に重く、息苦しくなって、心臓のか弱い鼓動は俺がまだ生きているぞと、大量の痛みと共に告げている。


「死にたくなきゃさっさと倒して、街で治療を受けるんだな」


 「うぬは……どうやら、攻撃するのが苦手らしいな。だからと言って防御が得意でもなさそうだが……その程度の力で、よく今まで生きていられたな」


「戦闘要員じゃなかったからね……"転生魔術:機殺万飛キサツバンヒ"!」


「何も起きぬ魔術か? それとも失敗か?」


「やっぱり"機械人形"なんかじゃないよね、そりゃそうか……。あはは、何もかも私の世界と違いすぎて、嫌になるよ……」


「もはやこれまでだな。足は潰し、その奇妙な左腕も切断した。そしてうぬの魔術は我に効かぬ。その男を守るせいで、さっきの若い男も、うぬもここで死ぬのだ!」


 体の痛みを感じる。

瞼は重く、体はそれ以上に重い。

このまま眠れば楽になれるだろう。

先程までは痛みに耐えることばかり考えていたが、もはや体から感じるのは寒さと、底知れない疲労感だけだ。


 だけど、ここで倒れていたら意味がない。


 レイア様から力を授かり、ここに戻ってきた意味がないんだ!


「ヒギッ!」


「右腕を捨てて喉を守るか。……長く苦しむだけだぞ」


 さあ、行くぞ。

これはロスを守るための練習だ。

博士を、そしてレイア様を守る……。

いま俺にできる、唯一のことをしろ!


「人間ってのはねッ……しぶといのさ。たとえ"機械人形"に負けても、封印されても、私達は何度でも立ち上がる!」


「では立ち上がれぬよう、その首をハネておこう」


 ――この"赤鬼"を殺す。


「人間を舐めすぎだよ。ね、ルイサ君」


「……ばかな。殺したはずだ!」


 殺した?

俺はこの通り瀕死だが、生憎とまだ死んじゃいない。

ライフさんから言われた通り、薄くでも""防御魔術""を展開していたおかげだろうか。


 両手に、重厚な金と銀の銃を握りしめる。

 震える足を無理やり動かし、視界の中心に"赤鬼"を据えた。

……鎧の隙間に、小さな傷があるのを見つけた。


 博士が付けたものだろうか。

なんにせよ、あそこなら……あそこに叩き込むことさえできたなら、コイツを殺せる!


「生きてんだよ、バカ鬼が……。"レイア・カタストロフ"!」


 自分の中の魔力が、根こそぎガリッと削れていく。

これまで学んできたどんな魔術でも、ここまで消耗するものは無かった。

だが、それだけの莫大な力が、俺の""カタストロフ""には込められている!


「神の魔術"レイア"!? ルイサ君が、何で……!」


「その射撃か! だが、そのようなもの我の鎧で弾き飛ばしてくれるわ!」


 "赤鬼"が胸の前で腕を交差させる。

頑強な手甲でガードするつもりか。

レイア様が言うには、確実に攻撃が当たる魔術。

……だが、防がれてしまえば意味は……。


 ――俺の心配は、杞憂だった。

手甲に当たり、弾けて消えるはずの俺の"カタストロフ"は、止まらなかった。


 まるでそこに防御する腕など存在しないかのように、腕をすり抜けていくのが見えた。

それだけではない。

"カタストロフ"に込められた魔力が、理屈を超えたレベルで増幅している。


「馬鹿な……ッ!?」


 強化された"カタストロフ"は、俺が狙った傷口に一点の狂いもなく直撃した。

空間が削り取られる特有の衝撃音と、生身が削れる肉の音が一体となって響き渡る。

普段の俺の"カタストロフ"なら、あそこまでの威力は無かった。

毒を流し込むための傷を付けるのが精一杯だったはずなのに。


「マジかよ……」


「うぬから、このような力は……感じなかった……」


 "赤鬼"の体が青褪めていく。

傷口から溢れ出した青い光が、一瞬で全身に回った。

俺の毒よりも遥かに速い。

目の前の悪魔が青い粒子となって崩れ去るまで、時間はかからなかった。


 ……なんにせよ、俺はこの悪魔を殺しきったんだ。

やった。やり遂げたんだ。


「ルイサ君……。体がボロボロなのはわかるんだけどさ、街までお願いしてもいいかな……」


「ま、任せろ……」


 傷口を押さえながら、"テレポート"を連続発動させる。


 途中、木にめり込みそうになりながらも、意識を繋ぎ止めるために奥歯を噛み締め……なんとか街の中まで辿り着いた。


 あとは……これをロス達に伝えるだけだ。

どうやって……伝えようかな。

そうだ、空に光を放てば、気付いてもらえるかもしれない。


「ルイサ様!? それにレイア様に……。 お前達、すぐに回復魔術が扱える者を呼べ!」


 空に銃口を向ける。

もう弾丸を放つ魔力なんて残っていない。

けれど、親父がやっていたように。音と光だけの、強烈な信号弾をイメージして。


「ルイサ様! ルイサ様!」


 指を動かすのも辛い。

だけど、俺がたどり着いたって知らせないと、ロス達がいつまでも魔王と戦い続けることになるんだ。

だから、これは俺がロスを守る初めての実戦。

少しでも早く、助けるんだ!


「レイア·カタストロフ!」


 空に向かってカタストロフを放った。

届くかどうか分からないけれど、白銀の悪魔たる魔王に当たることをイメージして。

別に魔王に当たらなくてもいい。

だけど、このメッセージが届きますように。


「ルイサ様を必ず救え! この方はレイア様の魔術を……」


 ああ、ダメだ。

もう……意識が……。



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