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俺が惚れた少女は、何故か親父の面影を抱いている  作者: ケイト
一幕目 君が親父の愛人か、腹違いの妹だとしても

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必中たるレイアの魔術


 母さんから仕込まれた、最高にして最強の毒を作った。

ロスから学んだ"カタストロフ"は、確実に発動していた。

その二つを混ぜこんで、少しでも当たれば死に至るはずの一撃を撃ち込んだつもりだった。

なのに……。


「ルイサ君!」


 腹部に一瞬、冷たい井戸水をかけられたような冷たさが走る。

だけどそれはすぐに終わり、冷たさは急激な熱に変わっていく。

この感覚が最初、何を表すのかわからなかった。

博士は目を見開き、目の前"赤鬼"は倒れていない。

鎧を弾き飛ばすことには成功しているけれど、その下にある肌には届いておらず、傷口がないってことは毒は回っていないだろう。


 だったら、もう一撃やればいい。

そう思って腕を動かそうとするが――動かない。


「どうなって……」


 動かない体の原因を確かめるために、下を見た。

腕を見るつもりだったけれど、そこには"赤鬼"の剣が、俺の腹部に深々と突き刺さっているのが見えていて、赤色の液体がそこからボタボタと漏れ出している。


 ――刺されている。

そう認識した瞬間から、人生で味わったことのない激痛が全身を駆け巡った。

倒れて転がって、痛いと叫びたい。

だが、突き刺した剣を握る"赤鬼"のせいで、それすら叶わない。


 足の力が少し抜けると、腹部に突き刺さった剣がまるで三本目の足のように上半身の重さを支えて、その代金だといわんばかりに内臓を抉るような痛みを残す。


「うぬのその力、未だ未熟。されど、ここで殺しておくべきだろう」


 三本目の足が乱暴に引き抜かれ、その傷口めがけて"赤鬼"の無慈悲な前蹴りが入る。

頭が地面に叩きつけられたのか、強い衝撃で意識が飛びそうになるも、またしても激痛が俺の意識をこの世界に引き戻す。


「あ……ガッ!」


 落ち着け、俺はまだ生きている。

こういう時はまず退いて、傷口を塞ぐために回復魔術を使って……出血が酷いから、とりあえず止血……だよな。

止血の魔術……確か……。


「"転生魔術:地壁伏立チヘキフクリツ"!」


 わからない。

覚えていたはずなのに、術式は完璧にわかっているはずなのに。

 

 止血の魔術の発動のさせ方が、全く思い出せない。

嫌だ、死にたくない。

まだ俺は、何も達成していないんだ。

親父を見つけてぶん殴ってないし、母さんとロスを守るって決めたのに、それすらできていない。


 こんな中途半端で、俺は死ぬのか?


「転生者か……。うぬはどこの世界から来た? その魔術は聞いたことが無いが、土で壁を作る……どこかで見たことのある魔術だ」


「そうだね、故郷はこことは違って素敵な所だよっ! "転生魔術:地壁伏立"! そんでもって……"転生魔術:隕星万雷インセイバンライ"!」


「また同じ壁か。このような柔な壁で止められる訳がなかろうて」


「私の壁を壊せても、お前に降ってくる岩の豪雨は躱せないでしょ!」


 視界が霞む。

博士が片手をレイア様に当てながら、義手の左手を"赤鬼"に向けて……俺の知らない魔術を使っている。


 周囲の地面がごそっと凹み、それを利用したであろう土の壁が数枚、博士を守るように立ち上がり……その内の一枚は、俺の隣にあった。

この絶望的な状況で、彼女は俺のことまで守ろうとしているんだ。


「ァ……カセ……」


 声が出ない。


 意識が急速に朦朧としてきた。


 寒い。寒い寒い寒い。


 嫌だ。


 このまま終わるなんて……まだ、俺は……。

ロスに、大好きだって伝えてないのに。


「ルイサ君っ! ルイサ君!」


 クソが……。



 「起きろ、バルトロスの息子」


「うぉぉおお! お?」


 なんだここ。

宙に浮いてる?

なんか体が半透明だし……あっ!

下で博士と"赤鬼"が戦っている。

そしてその近くには、体から血を流して倒れる、俺がいる。


 これって、つまり。


「俺、死んだのか!?」


「死んではいない。ただ、お前から生への執念と、底なしの欲望が見えたもんだからな。話を聞きたくて呼んだだけだ」


 声のする方向を見ると、そこにはレイア様がいた。

下にもレイア様がいて、ここにもいる。

何がなんだかわからない。

けれど、死んだ訳ではないってことがわかれば、それでいい。


「早く博士を助けて、あの"赤鬼"をぶっ倒さないと……ロスやみんなが魔王の影と戦い続けることになるんです! 俺をあそこに戻して下さい!」


「だから、少し話を聞きたくて呼んでいるのだと」


「俺はここで死ねないんです! 生きてロスを俺の女にして、クソ親父をぶん殴らないといけないんですよ!」


「話をだな」


「だいたい、ここで死んだら母さんも悲しむだろうし、あの人ならあの世とやらに追いかけてきて説教するに決まってる! レイア様は知らないだろうけど、マジでキレた母さんはヤバいんです、本当に殺されます!」


 詰め寄る俺の頭に、レイア様の杖が飛んできた。

金属でガツンと殴られたような音が響き、視界が一瞬白黒に変わって、立っていられずその場に倒れこんでしまった。


「バルトロスと同じく話を聞かないヤツだな……。ハァ、言っておくがお前の母の怖さは知っているし、ここでお前をこのまま死なせたら、この俺様とて何されるかわからん」


 レイア様が俺の隣に座る。

話に聞いていた神様。母さんの話す神様。

物語の中の、噂の中の存在。

様々なレイア様を聞いて育ってきたけれど。


「バルトロスのような無鉄砲さを持ちつつ、シアコトルのような気迫を持つ……あの二人は随分な息子を育てたもんだ。初対面の俺様にここまで詰め寄ってきた人間は、お前が三人目だぞ」


 そのどれよりも、本物の彼はまるで人間らしさがあって。

親しみやすかった。

一番目と二番目の順番はわからないけれど、きっと親父と母さんのことを言っているのだろう、レイア様の疲れた顔から伝わってくる。


 人間の俺には理解なんてできないだろうけど、神様の大変やんだろうな。


「さてと。いいか、お前はこのままなら死ぬ」


「……ああ、やっぱり死ぬんですね」


「ここはもっと驚くところだと思うんだが、随分あっさり受け止めるんだな」


 そりゃ……こんなおとぎ話の中の死後みたいな状況になってて、『死にますよ』と言われたら納得するしかないでしょうが。

もちろん嫌だし、俺にはこの神様がただ嫌がらせとしてそれを言っているとは思えない。

ただ死にゆくだけなら、わざわざこの状況を作り出す必要はないからな。


「さて、ここからは慎重に答えろよ? お前の答えによっては……俺様が力を貸してやってもいい」


「はい」


「お前は死を拒絶し、死にゆく寸前でもなお力を求めていたな? それは何故だ。力を求める理由を述べよ」


 やはり、俺にチャンスをくれている。

そして、あの鋭い目付きからして、おべっかを求めているって感じでもない。


 ……ここで答えを間違えれば、この人は本当に俺を見捨てるって、イヤにリアルな光景が想像できて最悪な気分になるね。


「俺は……」


 母さんを守りたい。


 ロスを守りたい。


 まだ死ねない理由があるから、今を生き抜くために力が欲しい。

けれど、こんな理由でいいのだろうか。

相手は神様なんだ、もっと高尚な目的や望みを答える方がいいのだろうか。


「嘘偽りはいらん。何も考えず、お前の思う力を欲する理由を答えればいい。もともとこの質問に正解などないのだからな」


 それなら、簡単だ。


 俺の気持ちはずっと変わってないんだから。


「ロスを俺の女にするためです」


「……ロス、ああ、アイツか」


「ロスもバルトロス関係でレイア様と知り合いと言っていましたが……本当にお知り合いなんですね」


「クックック、まあな。にしてもバルトロスの奴め……これまでのツケが回ってきたと見える」


 レイア様はよくわからないことを言いながら、笑っていた。

俺の答えが気に入られたのか、不正解だったのか。

そこが気になる俺の前で、知らない独り言を続けていく。


「よし、バルトロスの息子……いや、ルイサだったか」


「はい!」


「お前に俺の魔術を教えてやる。正確には使えるようにしてやるだけだが……これさえあればお前の戦いの幅は確実に増えるだろう」


 レイア様の……魔術!?

神様の使う魔術を教えられたとしても……俺なんかに使えるものなんだろうか。

そもそも、すぐに使えるのか?

そしてその魔術はいったいどんな……。


「聖剣の剣撃にしろ、お前の銃の射撃、高等な魔術も同様だが物事は当たらなければ意味がない。これは分かるな?」


「それはもちろんです。でも当てるのが難しいんです」


「ああ。だがその困難の一切を無視し、確実に当てることができたらどうだ? お前は威力と毒に、よりいっそう集中できるとは思わないか?」


 レイア様は俺の頭に手を置いた。


「原初たるレイアの名において、ルイサにレイアの魔術を授けよう。俺様の魔術はどのような攻撃も必中となる、神の魔術の中でも一番使える魔術だ」


 その瞬間、頭の中に巨大で複雑な魔術式が流れてくるのを感じると共に。

普通の魔術を習得しただけでは得られないはずの、全身に力を漲ってくる感覚がした。


 

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