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俺が惚れた少女は、何故か親父の面影を抱いている  作者: ケイト
一幕目 君が親父の愛人か、腹違いの妹だとしても

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転生者曰く君はツンデーレというらしい




 俺と母さんは壁を修復する博士を悪魔から守る為、しばらくの間戦い続けていた。

博士は一定間隔でスコップを壁に叩きつけ、壁は少しづつ、確実に修復されていく。

最後の方なんて、アグアタの兵士が他の悪魔の殲滅が終わったのか助けに来てくれて、壁を修復する博士なんてめちゃくちゃ感謝されている。


「し、シアコトル様!」


 そんな感謝をする兵士の中から、母さんの近くに来て跪く男がいた。


「様なんて付けないで大丈夫ですよ、今の私はただの人妻でこの子の母親でしかありません」


「その方がシアコトル様のご子息……いえ、それよりも今は緊急のお話がございます!」


 男の顔色は最悪だった。

腕には包帯が巻かれていて、悪魔との戦闘で血を流しすぎたとか……?

傷を治してあげたいけれど、俺はそんな高等魔術を習得していない。

ガタガタと震えていて、可哀想だ。


「一応聞きましょう、話して下さい」


「レイア様が、その……行方不明です」


「……貴方達は何をしているのですか? 何故のうのうと生きていられるのですか?」


 母さんが、めちゃくちゃ怒ってる。

周囲の人々も怖がっているし、博士なんて俺の後ろに隠れちゃうし。


「ね、君のお母さんって家でもやっぱり怖いの?」


「怖い、かどうかわからないですけど、ここまで怒ってる母さんを見るのは初めてです」


 怒りの影響なのか、俺でも感じ取れる程の魔力が母さんから漏れ出ている。

そこには、本当に心からの怒りが込められている。

そう確信させる程の、触れたら火傷しそうな魔力を纏う母の姿があった。


 あの兵士は傷が原因で震えていたんじゃない、顔色だって出血が原因じゃない。

母さんに、報告するのが怖かったんだ。

それもレイア様、神様が行方不明とは……母さんはめちゃくちゃレイア様を尊敬してるし、昔お世話になった恩があるとか言ってた記憶もあるし。


「レイア様が、いなくなった……? 神であるあの方が、自らこの地を捨てるはずがありません。一体何があったのですか! 隠さず全て話しなさい!」


「ひ、ひぃぃ……ッ! そ、それが、アグアタ上空に"白銀"の明らかに他とは違う悪魔が現れまして。我々は住民を守れと言われ、その悪魔と戦闘になり……気がついた時には、レイア様もその悪魔も姿を消しておられたのです。そこからいくら呼びかけてもご返答がなく……」


 地面に額を擦りつける勢いで、兵士が悲鳴のように報告する。

母さんの足元から、黒い影のようなオーラが立ち上っていた。

今まで俺をサポートしてくれていた美しい白い蛇とは違う、もっと禍々しくて、毒々しい色の魔力だ。


 しかし、これはマズいぞ。

神様が行方不明。これはつまり、俺たちを悪魔から守ってくれているこの巨大な壁を維持する者がいなくなったという、第一大陸の人類の全滅が示唆されているようなもんだ。


「ちょっとちょっと、落ち着きなよシアコトル。神様が迷子ってのは一大事だけどさ、お姫様からそんな話は聞いてないよ?」


 俺の背中に完全に隠れていた博士が、ひょっこりと顔を出して口を挟む。


「……お黙りなさい。第一大陸の現状も知らず、のこのこやって来ただけの転生者に何がわかるというのですか」


「ひっ」


 母さんが睨みつけると、博士は素早く俺の背中の後ろに引っ込んだ。

ダメだ、このままじゃ母さんが暴走しかねない。

俺は咄嗟に、母さんの前に両手を広げて割って入った。


「落ち着いてよ母さん! レイア様が負けるとは思えないし、戦ってるならそのうち帰ってくるって」


「ルー君……」


「それに、今ここで怪我をしてる兵士の人たちを責めても、レイア様は見つからない。俺たちも探すのを手伝うから、一旦魔力をしまってくれ!」


 俺の言葉に、母さんはハッと息を呑み、纏っていた触れれば火傷しそうな魔力をゆっくりと霧散させた。


「……ええ、そうね。ルー君の言う通りだわ。ごめんなさい、取り乱してしまって」


 ふう、と深い深呼吸をして、母さんはいつもの落ち着きを取り戻す。

だが、その瞳の奥には冷たい炎が燻っている。

そのことに博士も気付いているのか、俺の背中に引っ付いている彼女の震えが直に伝わってきて……あーもー!

この人、本当に酸っぱい匂いがして臭いんだけど!


「ひとまず、街の中に入った悪魔の掃討をしましょう。博士と私は右回りで壁の近くを巡回しますから、貴方達は散って悪魔を探して下さい」


「ハッ! 皆聞こえたか! シアコトル様に従い、そのようにせよ!」


「さあ、私達も行くわよ、博士」


 ……あれ?

さっきまで俺の後ろでガタガタ震えていたはずなのに、何で母さんの隣に博士がいるんだ?

首には純白の蛇が巻きつき、腰にも命綱のように長い蛇が巻きついている。

話している一瞬で捕縛して引っ張ったってのか? 魔力の動きなんてこれっぽっちも見えなかったぞ。


「嫌だーっ! 私は戦闘が苦手だって知ってるでしょうがーっ!」


「ええ。だから連れていくのよ。街中にいるかもしれないレイア様を探すためのセンサーとしてね」


「このドS女! 人の嫌がる事はするなって学ばなかったのか!」


「あら、私は嫌がってないわ。だから大丈夫ね」


「もう少し人の心を持ってよシアコトル! え、本当に行くの? 待って、わかったからせめてこの蛇の締め付けを緩めてよぉ!」


 母さんと博士は……そのまま瓦礫の山へと歩き出してしまった。

笑顔でナイフを取り出しながら歩く母さんと、涙目になりながらズルズル引きずられていく博士の姿は、なんとも……可哀想だ。


「あ、ルー君はそこで"いい子にして"待っててね?」


 俺の視線に気づいたのか、母さんは振り返って優しく手を振った。

だが、その瞳の奥には"もし勝手に行動したらどうなるかわかってるわね?"という、有無を言わさぬ絶対的な圧が込められていた。


「それではルイサ様、我々も失礼します」


「あ、えっと、お願いします」


「行くぞ、お前ら!」


 ……兵士達がなんか変な事言ってたよな。

ルイサ様、だって?

いやいや、俺なんかにそんな敬称つけなくてもいいってのに。

 

 ……本当に、やめて欲しいんだけどな。

親父の息子だからそう言われているのか、それとも母さんの息子だからか。

何にせよ、ここでも俺は"俺個人"として見られていない。

期待される力を持ち合わせていないのに、理想だけぶつけられるのは、ハッキリ言って不快そのものだ。


「ルイサ……シアコトルさんと博士はどこ行ったの?」


 俺がやり場のない不快感と少しの怒りを覚えていると、家の陰からロスが戻ってきた。

なんだかさっきより、顔がゲッソリと疲れているように見えるのは気のせいか?

ま、そんな姿も可愛いけど。


「壁の内側にいる悪魔の殲滅をするって言って、博士と一緒に巡回に行ったよ」


「そっか。まぁシアコトルさんなら普通の悪魔なんかには負けないだろうし、私達は少し休もっか……」


「みんな戦ってんのに、俺達だけ休んでいられねぇよ。……あ、ロスは休んでてくれよ? 女の子に無理はさせられねぇからな」


 俺なりの強がりと、精一杯の決め台詞をくらえ!


「あはは……あー、うん。ありがと」


 反応薄い!

流されてんじゃん!

結構カッコいい事言ったと思ったのに!


「よく言ったな! えらいぞバルトロスの息子よ!」


 ライフさんだ。

彼女が俺の隣にきて、パチパチと拍手をしている。


「女の子を守るのが男の仕事だからな。その態度と心意気は素直に評価しよう」


「あ、ありがとうございます!」


「先ほどロスが、君を"無限の可能性を持つ未完成"と言っていたが……成る程。どうりでロスが君に惚れるはずだ」


 ほ、惚れる!?


「かっ、勝手なこと言わないで下さい! 私はただ、ルイサが普段は流されてるくせにいきなり覚悟を決めたりして、貴女が昔のバルトロスにそっくりだと言うから同意しただけで……ッ!」


「しかし君は"バルトロスに憧れている仲間"だったんだろう? "バルトロスはカッコいいし、尊敬する英雄だ"とも、ついさっき裏で熱く語っていたな?」


「そ、それはそうですけど……!」


「ならば、そんな尊敬する男にそっくりな、バルトロスの息子に惚れてしまってもおかしくはないだろう」


「どんな理屈ですか! 言っておきますけど、私がルイサを好きになるとか、絶対あり得ませんからね!」


 絶対に。

好きになるとか。

あり得ない。


 ……へ? 今、俺フラれたの?

まだ好きだとも言ってないのに、告白する前にフラれたの?

これは夢? それとも……まさか悪魔の魔術で幻覚を見せられてる?

ロスを見ると、何故かプイと顔を反らして、真っ赤になって目をあわせてくれない。


 いったい、ライフさんとロスでどんな話し合いをしてたってんだよ!

うぅ、でもロス……怒って顔を背けてるその表情も可愛い。


「なら、私が貰ってもいいか?」


 へ?


「ゲホッ、ゴホッ……ら、ライフさん!? その人と貴女はかなり歳が離れてますし、その、知り合いの息子ですから……冗談でも止めた方がいいです!」


「それを決めるのはルイサ君であり、彼の恋人でもなんでもないロスが決めることではないだろう」


 ギュッ、と。

ライフさんは、俺の手を握った。

悪魔を殴り殺す力を持つのだから、ゴツゴツとして固いのかと思ったが、とても柔らかくて……この感覚だけ考えれば、ただの女の子だと言われてもおかしくないだろう。


 しかし、相手は人妻で子持ち!

母さんも気を付けろと言っていたし……!


「ライフさん、俺は――」


『ここは私に合わせろ。ライフちゃんは、まっすぐで男らしい君の味方だゾ☆』


 不意に、脳内にライフさんの声が直接響いた。

隣を見ると、ウインクをする彼女がいて、これは念話のような魔術の一種なんだなとすぐに理解できた。


「ロスがいらないと言うんだ。私がルイサ君を狙っても文句はないだろう?」


「ちょっと、何考えて……ッ!」


『ほら、ロスのあの表情を見てみろ。「好きになるとか絶対にあり得ない」といいながらも、私がルイサ君を狙うと言うと、あんなに焦っているではないか』


 焦ってるって……まさか、つまり!


『私は転生者ではないが、よく知る転生者がああいう態度の女性をこう表現していたな』


「ルイサがライフの恋人なんて……クソッ! せ、背に腹は代えられない……ッ! あの、言っておきますけどべつに、私は今のルイサを好きになることはないって意味で言ったんです! 嫌いとか……あ、諦めて欲しいなんて思ってないんだからねっ!」


『ツンデーレ、とな』


 ライフさんの脳内音声と同時に、ロスの顔が限界まで真っ赤に染まった。


「ロス! 俺、頑張るよ!」


「俺の尊厳が……うぅ……殺してくれ……」


 恥ずかしがる君の為にも、俺はもっと強くなるって心に誓ったんだ。

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