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俺が惚れた少女は、何故か親父の面影を抱いている  作者: ケイト
一幕目 君が親父の愛人か、腹違いの妹だとしても

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子持ち人妻魔法少女 ライフ

 

 悪魔の掃討にはかなりの時間を要した。

俺も途中から参加して街中の悪魔を倒して回り、二日間にわたる激戦の末、なんとか街の完全な崩壊だけは無事に回避することができた。


「お疲れ様、ルイサ君」


「ライフさんもお疲れ様でした……あ、怪我とかないですか? 俺は集団からはぐれた悪魔を倒してただけですけど、ライフさんは敵のど真ん中に挑んでました……よね?」


 おそるおそる尋ねるが、ライフさんの拳には傷一つ見られない。

それどころか、体の何処を見ても汚れすらついていない。

少し離れていてもわかるほどの轟音と振動を感じていたのに。

あれだけ激しい戦闘をしていたはずなのに……すげえ。


 やっぱりこの人も、英雄に並ぶ規格外の人なんだ。


「君は優しいな」


「一応、回復用の薬とか貰ってきてたんですけど……どうやら必要なさそうですね」


「ああ。貴重な物資だ、ライフちゃんではなく、他の怪我人に回してやるといい」


 本当に……見た目以外は、絵に描いたような人だ。

物語や教科書から出てきた『英雄』そのものだよな。


 ライフさんに言われてから、俺は手持ちの物資を近くにいた兵士に渡し、彼女と二人で最後の街中の警戒をして回る。


 この二日間、何度も見た光景だが……やはり街は半壊してしまっていて、家族を失ったと瓦礫の前で涙する一般人の姿は、何度見ても慣れるもんじゃない。


 俺がもっと、親父のように強ければ……救えたのかな。


 今、あの瓦礫の下から伸びた腕に向かって泣き叫ぶ少女のような不幸を、止められていたかもしれない。

蘇生の魔術なんていう、特別で難しい高等魔術が使える訳じゃない。だから、戦いが終わってしまえば俺は何もできない、役に立たない。


 戦闘だって、まだまだライフさんや親父に比べたら、生まれたての小鳥みたいなもんだろう。

俺がギリッと唇を噛み締めて俯いていると、不意に頭上から声が降ってきた。


「ルイサ君」


「……はい」


「君は、『タリラ』に会った事があるか?」


「タリラ……さん?」


 えーっと、タリラさんって……。

 親父の仲間だった、英雄"タリラ·ルリラ"様のことか?


「会ったことはありませんけど、親父の仲間だった最強の魔術師だということは知ってます」


「会ったことがない……ふむ。なら、その銀色の銃から感じるタリラの魔力はなんだ? 金の銃からは……誰のものかわからないが、君やバルトロスではない魔力を感じるのも気になるな」


 銃に魔力が!?

驚きのあまり聞き返してみるが、頷くライフさんの顔を見ても、冗談や嘘を言っているとは思えない。


 なら……よし。

目を閉じて集中し、銃を魔力で包んで、細部まで自分の感覚を染み渡らせるんだ。

魔力について探ってやる。


 ゆっくりと、視界の裏で感覚が広がっていく。

手足の延長線上にあるように、自分の体の一部のように感じ取れるまで魔力を広げていくと……。

そこには確かに、二つの異なる魔力が存在していた。


 銀の銃には、荒々しく、怒りと熱意のこもった魔力がある。

凄まじい量の魔力なのに、ここまで集中しないと感じ取れないって、よっぽど隠匿の技法が強い物なのだろうか。

 

 金の銃には……これは、なんだろう?

確かに魔力はある。でも、銀の銃よりもずっと弱々しい。

魔力が小さすぎて、ここから持ち主の感情や性格までは認知できない。


「ルイサ君、大丈夫か?」


 だけど、不思議な魔力だ。

これに触れているだけで、何故か心の奥底から、じんわりと力が湧いてくるような気がする。


「大丈夫です。確かに魔力がありましたね。荒々しい魔力と、とても静かで小さな魔力でしたけど……」


「その荒々しいのがタリラだ。アイツはライフちゃんと違って魔力が可愛くないし、使う魔術もド派手で……すまない、話が逸れたな。とにかく、その銀の銃にはタリラの魔力が込められていて、緊急時に銃の所持者を守るように術式が組まれているようだ」


 守る……あ!


『――プロテクション!』


 俺が悪魔との戦いで、死を覚悟したあの時!

防御魔術のプロテクションが勝手に発動して、頭の中に誰かの声が聞こえた気がしたけど。

あれは……この銃に込められたタリラさんの魔力のおかげだったんだ。


「俺、さっそくタリラ様に借りを作っちゃったみたいです」


「ふふっ。だがあまりその力を頼るなよ? タリラ本人の魔力は桁外れに多いが、その銃に込められているのは、あくまで込められた時点の魔力だ。無限に守ってくれると信じていると、いざという時に命を落としかねん」


 タリラ様……ありがとうございました!

俺が銀の銃に向けて軽く頭を下げると、隣からクスクスと笑い声が聞こえた。

……確かに、銃にむかって頭を下げるなんて端から見たらおかしいよな。


「さてと。少しは気が晴れたか?」


「え……ライフさん……」


「私……いや、この『マジカル☆ライフちゃん』でも、全てを救うなんて不可能だ。神であろうと英雄であろうと、それは変わらない。だから、あまり一人で抱え込んで気に病むな、ルイサ君」


 ……この人、俺の事を考えてわざと銃の話をしたのか。

ったく、強いだけでも反則なのにさ、気遣いまで出来るとか。

英雄ってのは、俺が思ってるよりもずっと大きく、遠い存在なんだな。


「……はい、ありがとうございました。俺……もっと、もっと強くなって皆を守りたいです」


「フフッ、そうかそうか」


 俺の頭にライフさんの手が置かれ、優しく撫でられる。

不思議と、子供扱いされていることへの不快感や疎外感は湧かず、むしろ安心できる温かみを感じた。


「毒と『カタストロフ』を混ぜて使いこなすなんて離れ業ができる君だが、やはり、それ以上を望むのか?」


「親父はカタストロフを基本にして、様々な形に派生させていったと聞いてます。だから、少なくとも親父の背中には追いつきたいし、越えたいです」


「ふむ……」


 そうだ、街の事後処理が終わったら、ロスに銃の修行をつけてもらわないとな。

確か親父は二挺の銃を両手に持って、左右で別の弾丸を打ち込むって化物みたいなことしてたし、次はアレにチャレンジしてみるか? 

いや、その前に使える弾の種類を増やさないといけないよな。そのためには……。


 俺が今後の特訓メニューを脳内で組み立てていると、ライフさんが口を開く。


「私は銃はもちろん、武器を使わない主義だから、技術的なアドバイスはしてやれない。だが……『戦い方』の基本を二つだけ教えておこう」


 俺に、何か教えてくれるのか!?

なんだろう。銃無しでも戦えるようになる身体強化の魔術かな?

もしかしたら、ライフさんの特訓方法とか教えて貰えたり!?


「ルイサ君。今から、私が君を殴る」


「はい! ……って、え? 殴るんですか?」 


「ああ」


 彼女は俺の前に立ち、ゆっくりと拳を握り込んだ。


「このまま拳を君にむけて放つから、それを回避するか、防御してみるんだ。……では、行くぞ」


 ライフさんは肩幅に足を開き、無造作に構える。

いくらライフさんとはいえ、ただの素振りのような拳を躱すだけなら、少し後ろに下がってしまえばいい。


 そう思って、彼女の肩が微かに動いた一瞬を見て、俺は後ろに軽く飛んだ。

おそらく、腕三つ分の距離はあるだろう。

これならどうやっても、深く踏み込まれたとしても当たらない。


「それぐらいなら、流石に躱せますよ!」


「やはりな。圧倒的に実戦経験が足りていない」


 ――声は、俺の後ろからした。

今、目の前にライフさんはいたはずだ。

だが、瞬きをした次の瞬間には、そこに彼女の姿はない。

背後に振り返っても……いない。まさか、上空か!?


「ハズレだ、ルイサ君」


「え……な、何で後ろにいるんですか!?」

 

 一秒前に後ろを見たんだぞ?

なのに、何故もう一度振り返った時には、ライフさんが俺の背後に立っているんだ!?

どうなってやがる……。


「常に魔力の流れを追い続けるんだ。目に見える物だけを信じて動けば、いつか君はこんな風に背後を取られて、簡単に殺されるだろう」


 魔力の流れ……あ!

少し目を閉じて集中してみると、確かに小さく揺れる魔力が感じ取れる。


 それは目の前に移動したり、俺の上にいたり、後ろに回ったりと目まぐるしく移動しているが、目を開けると目の前にライフさんがいるように見える。

 しかし、俺が魔力で捉えた気配は、真後ろにいるぞと告げていて……。


 ポン、と。

俺の後頭部が、軽く叩かれた。

衝撃すらない、優しく触れるような拳。

だが、これがもし悪魔の爪や牙だったとしたら……俺は今、間違いなく死んでいた。


「目を過信するな。使える物は何でも使って、常に警戒を続けろ」


「……はい!」


「次に防御魔術についてだが、躱すと決めていても、最低限の防御魔術は常に発動させておけ。実戦じゃ自分の予想外なんて当たり前のようにおきる。薄くでも防御魔術を展開していれば、少なくとも『一撃で即死』するような最悪の事態は防げるだろう?」


 魔力による探知と、常時展開の防御……なるほど。

知識としては知っているものばかりだ。

だがそれを、実戦で俺は何一つできていなかった。


 これまでは母さんやロスが近くにいて、最悪守ってもらえると心のどこかで甘えていたのかもしれない。

これは俺のミスだ。

知っていたのにやらなかった、俺自身の落ち度。


「……よく、俺は今まで死ななかったですね」


「ま、これは慣れだからな。……相手を壊滅させる圧倒的な火力も大切かもしれないが、まずは自分の身を守れるようにするんだ。自分も守れない男に、大切な人を守れる訳がないからな」


「……っ! はい、ありがとうございました!」


 言われた通り、皮膚の表面を覆うように薄く防御魔術を展開する。

そして、目だけでなく、周囲の魔力の気配に意識を向ける。

なるほど……よし、これからは常に気を付けよう。


「焦る必要はない、いつか自分の命をかけて戦う時が必ずくるだろうし、そこできっと君は伸びる」


「命かけなきゃ伸びないんですかね、あはは」


「フフッ、経験者の言葉は素直に受け止めておけ」


 


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