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俺が惚れた少女は、何故か親父の面影を抱いている  作者: ケイト
一幕目 君が親父の愛人か、腹違いの妹だとしても

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転生者


 壁の近くまで移動した俺は、凄いものを――いや、凄まじい"人"を見た。


 その姿は、教科書でよく見る英雄の姿であって、そうではなかった。

膝がギリギリ隠れるかどうかの、防御力が皆無に等しい青色のスカート。


 脛とふくらはぎを包む黒色の長い靴下は、俺の持っている剣でもズタズタに出来そうだ。

第二大陸で行われていた転生者選定の際、ハズレの転生者がよく着ていたとされる"セラー服"とやらで上半身を包んでいる。


 だが、パツパツに張った胸元と、動くたびにチラチラと覗くバキバキの腹筋が、明らかにサイズが合っていないことを教えてくれる。


 両手と顔に悪魔の赤い返り血を浴びながら、俺があんなにも苦戦した悪魔を、ただの殴打で一撃の元に葬り去るその姿。


 名前のわからない奇抜な女性からは、確実に親父と同じ"強者"の空気を感じとれた。


「必殺技! ライフちゃんのラブぴゅあパーンチ!」


 凛々しい顔立ちに、低く美しい声。

まとめられた腰まであるピンク色の髪は、彼女が拳をふるう度に綺麗に踊り、敵を確実に殺す死の舞踏を見せつける。

 強くて、美しくて……とても素敵な英雄が、そこにいた。


「美しい……」


 呆気に取られる俺の横で、母さんが「はぁ……」と、今日一番の深い、そして重いため息をついた。


「最悪。よりによって、あの自称魔法少女に会うなんて。今日の私の運勢、どん底だわ」


「は、母さん? 知り合いなのか? あの綺麗な人と!?」


「知り合いというか腐れ縁よ。見た目はめちゃくちゃ若いかもしれないけど、中身はただの"暴力の塊"だし、人妻で子持ち。おまけに歳も私と同じぐらいなんだから……ルー君、女は見た目だけで選ぶと後悔するわよ」


 美しいと言った俺を咎めるように、母さんの言葉には露骨なトゲがあり、俺は思わず頬をひきつらせていた。

それと同時に、やはり素敵な人には先約がいるんだなって納得感と、少しでもロス以外の女性にやましい気持ちを向けてしまった事が申し訳なくて、慌ててロスを見た。


「違うんだロス! 浮気とかじゃなくてだな……」


「まだ付き合ってもないでしょうがこのバカ! その思考は危険だからすぐに止めなさい!」


 後方にいたロスの様子が……おかしい。

俺に失望したとか、浮気者って責めてくるとかじゃなくて。

銃を握ったまま完全に固まり、顔面を蒼白にさせて、ガチガチと小刻みに震えている。


「なんでライフがここに……マズい」


 流石に……アレだよな。


「母さん、ロスがライバル出現で慌ててるとかって説は無い?」


「次そんな気持ち悪いこと言ったら、その口縫い合わせるわよ」


 そうなるとなんだろう、知り合いか?


「その程度の実力じゃ、この可愛人ぷりんちゅなライフちゃんをメロつかせることはできんぞ」


 何を言ってるかさっぱりだけど、とにかくめちゃくちゃ強い!

悪魔の死体の山に向かって、胸の前でハートを作る意味とかマジでわかんねぇけど、とにかくすげぇ!


「ライフ、ここで何して」


「あ、あー! とーっても強くて可愛い人がいるー! 怖かったから助かったなぁ!」


 ライフさんに近づこうとする俺より、腐れ縁だと言う母さんが話しかけようとするよりも早く。

ロスが弾かれたように動いて、ライフさんに飛び付いていった。

 大きな胸に飛び込むのかと思ったが、ロスの身長では少し届いておらず、固そうな腹筋にガシッと抱きつく形になってしまった。


「もう大丈夫だぞ、このマジカル☆ラブリーライフちゃんが来たからには安心して……待て、お前、どこかで」


「あ、あーっ! 向こうでサイン欲しいなぁ! 少しだけ向こうの影に来て欲しいな!」


「サインならここで書いてやる。ほら、どこに書くんだ?」


「その、ここじゃなくて……その、お願いだから一緒に来て下さい……お願いしますからッ」


 ロスの顔は見えないけれど、今にも泣き出しそうな、必死の声を絞り出しているのはわかる。

ライフさんもその尋常じゃない声色を聞いて「わかった、要点だけ聞こう」と言ってから、二人は少し離れた倒壊した家の影に隠れてしまった。


 やり取りが気になり追いかけようとしたが、母さんが放った蛇が俺の足首に巻き付き、その場に縫い止められた。


「あの女に関わるといい事ないわよ」


「だったらなおさら、ロスがそんな人と二人きりなんて危ないだろ」


「手を出してきたりはしないはずだから、それは心配しなくていいけど。……私達は、向こうのインチキ博士に挨拶しましょうか」


 母さんの視線の先を見てみると、不思議な光景が広がっていた。 

さっきのライフさんの艶のある綺麗な髪とは真逆の、ボサボサの黒髪に白衣姿の女性が、スコップを持ってそれで壁を叩いていた。


 岩にスコップをぶつけた時のような、カンカンと音を立てていること自体は不思議でもなんでもない。

問題なのは、ただ物理的に叩いているだけなのに、ゆっくりと、だが確実に神レイアの作った強固な壁が修復されているってことだ。


「あれって……どんな魔術なんだ?」


「私もそれは知らないけど……久しぶりね、悠悠博士」


 悠悠博士。

そう母さんが呼ぶと、彼女は振り返った。

スコップで壁を叩く手は止めないが……なんだあれ。

左腕が変だ。そこだけ肌の色が赤黒くゴツゴツしているというか、まるで廃棄された鉄くずを、無理矢理人間の腕の形に接着したような、ひどく歪で不気味な造りをしていた。


「あ! 毒殺女!」


「その呼び方はやめてって、何回も言ったでしょ?」


「にひひ、ごめんごめん。でもまた会えて嬉しいよ、シアコトルさん」


「私はちっとも嬉しくないわよ。博士が現れる時って、大抵ろくな事にならないんだから」


「今回は君とバルトロスを助けに来ただけなんだけどね……おっと、そこの男の子、ちょっといい?」


 え、俺?


「はい?」


「実はさ、おねーさん戦いがちょーっと苦手だから、アレの退治頼んでいい?」


 博士が指差す方向には、蜘蛛の形をした悪魔が二体、彼女目掛けて一直線に走ってきている。

いやいや、戦いが苦手だとしても逃げるとか色々できるだろ!?

何でそんな悠長に壁をカンカン叩いていられるんだよ!


「わかった、俺がやる! 母さんはサポートお願い!」


「アイツ……この私の愛しい息子をいきなり巻き込んで……殺してやろうかな」


 悪魔との戦闘中、母さんはずっと博士を睨みつけていたが、蛇を呼び出して俺のサポートはしっかりこなしてくれた。

そのおかげで俺の射撃と母さんの毒で簡単に悪魔を倒せたんだが、自分が怒られている訳ではないのに、背中から感じる圧が、凄まじい居心地の悪さを作り出していた。


「それで、私とバルトロスを助けに来たって言ってたけど。あいにくバルトロスは帰ってきてないわ」


「あれ? でもでも、アーフェナラ姫から『バルトロスの亡命の手伝いをしてこい』って言われてるんだけど……んー?」


「亡命? 少なくとも、私は知らないわよ」


「そうなるとバルトロスを探す所からかぁ……うへー、面倒すぎてやる気無くなったよぉ」


 親父が亡命……?

あの第一大陸の英雄が、逃げるってことか?

そんな話は聞いたことがないけれど……ロスなら何か知ってるだろうか。


「それにしても助けてくれてありがとー、君カッコいいねぇ」


「え、あ、はい……ッ!?」


 何だこの人。

近くに寄ったら、ツンとしためちゃくちゃ酸っぱい匂いがした。

よく見れば白衣は薄汚れ、髪にはフケのようなものが浮いていて、とにかく不潔で小汚ない。

そりゃ、遠い所から親父を助けに来たってんなら、風呂や水浴びができなかったってのは分かるけどさ。

さすがにこれは……一応女性だろ?


「おねーさんを助けてくれたお礼にぃ、私の体でよかったら腰を軽く……」


「それ以上喋ったら殺すわよ」


 博士が俺に向かって伸ばした手は、母さんが呼び出した純白の蛇によってピタリと遮られた。

てかあの蛇って……ヤバい猛毒持ちの奴だったよな?

母さん曰く、牙がカスっただけでどんな人間でも確実に即死させるとかいう。


「冗談だよ、冗談冗談!」


「私の息子をお前みたいな転生者にあげる訳ないでしょ。冗談でも、言っていい事と悪い事があるってわからないの?」


 転生者!?

この人、変なスコップを持ってるし、異質な左腕をしてるなとは思ったけど、やっぱりあれって……。

この世界の理の外から来た存在。"前の世界の装備"ってやつか。

教科書で読んだことはあるけれど、本物の転生者って……。


「シアコトル? なんだか蛇が私に近づいてくるんだけど、噛まないよね? 流石に、助けに来た友達を噛まないよね?」


「友達? 人の息子に手を出そうとするゴミを友達に持った覚えはないんだけど」


「ごめん! 本当にごめん! だから、噛まないでぇ!」


 ……想像していた『無敵の転生者』よりも、めちゃくちゃ情けない人だな。


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