思わぬ再会
(オーランドさん……)
碧眼の双眸が私を見ていた。
最後に会ったときは青白い顔をしていたけど、今はすっかり元気そうだ。
ほんの数か月前までいつも隣にあった優しいまなざしに、思わず目が潤む。
自分から一方的に突き放しておいて今さら懐かしさを感じるなんて、本当に私は自分勝手だと思う。
「すまない……こちらも考え事をしていた。私は大丈夫だが、そちらのお嬢さんがケガをされたのではないか?」
オーランドさんの言葉に、ハッと我に返る。
ケイトちゃんを見ると、足を痛そうに引きずっていた。
「足を挫いちゃったみたい……」
「家まで歩けそう?」
「ごめんなさい。ちょっと無理かも……」
オーランドさんの前で、治癒魔法は使用できない。
それに、私の体格では、女の子とはいえ十歳の子をおんぶして帰るのは至難の業だ。
「……我が家の馬車で家まで送ろう。私がケガをさせてしまったのだからな」
「い、いえ、私たちは平民ですので、そのようなお気遣いは……」
(今から、あなたが主役の会が始まるのに……)
「ああ、まだ名乗っていなかったな。私はオーランド・シュバルツ。第二騎士団に所属している騎士だ。決して怪しい者ではない」
(はい、よく存じ上げております)
「騎士様、私は第三騎士団におりますセルゲイの妹、ケイトと申します」
ケイトちゃんは臆することなく、しっかり、はきはきと挨拶をした。
「そうか、セルゲイ殿の妹君だったか。それならば話は早い。直接セルゲイ殿に許可をもらってくるとしよう。しばらくここで待っていてくれ」
私たちの返事も聞かず、オーランドさんは行ってしまった。
彼の背中を見送っていたケイトちゃんが、こそっと私に耳打ちをしてくる。
「ねえ……サミーさん、今の騎士様、すっごくカッコいい人だったね。まるで、物語に登場する王子様みたい」
(うん、初対面のときに私もそう思ったよ。でも、ちょっぴり腹黒王子様だけどね……)
オーランドさんが私たちを送ることにセルゲイさんはとても恐縮していたが、彼はかなり強引に事を進めた。
歩けないケイトちゃんをお姫様抱っこしてオーランドさんが歩き出したので、私は黙って後をついていくしかない。
大丈夫だと、自分に何度も言い聞かせた。
◇
公爵家の馬車は、相変わらず乗り心地が良かった。
ケイトちゃんは初めて馬車に乗ったのか、室内をキョロキョロして落ち着きがない。
その様子が孤児院の子供たちと全く同じで、私は笑いを堪えていた。
「……君の名を教えてくれないか?」
ふいにオーランドさんから問いかけられた。
そういえば、ケイトちゃんは名乗ったが、私はまだ名乗っていなかったことに気づく。
「名乗るのが遅れて申し訳ありません。私はサミーと申します」
「サミー嬢も、セルゲイ殿のご兄弟なのか?」
「いいえ、私はセルゲイさんのご両親がやっている食堂で働く、ただの従業員です」
ここぞとばかりに、従業員であることを目一杯強調しておいた。
オーランドさんがじっと私を見ているが、何か探られているようでひどく落ち着かない。
(私とは気づかれていない……よね?)
馬車が食堂前に停まると、ドーラさんが何事かと外へ出てきた。
貴族が乗るような立派な馬車はこの辺りではほとんど見かけないため、かなり驚いているようだ。
オーランドさんはケイトちゃんを先に降ろすと、自分で降りようとしていた私の前に立った。
「サミー嬢、お手をどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
さすが、キラキラ王子様は平民の女性にも優しい。
にこやかな笑顔で手を差し出されたら私が断れるわけもなく、久しぶりのエスコートで馬車から降りる。
ドーラさんへ挨拶をしたオーランドさんは、すぐに騎士団へ戻っていった。
何とかごまかせた私は、ホッと息を吐く。
ケガの影響はなさそうで、騎士団で元気に働いている姿を確認することができて安心した。
彼には、これから騎士団で頑張ってほしい。
◇
次の日、いつものように食堂で開店の準備をしていた私の前に現れたのは、オーランドさんだった。
「昨日はありがとうございました。それで、今日はどうされたんですか?」
「仕事で近くまで来たから、ついでに寄ってみたんだ」
第二騎士団の仕事は、王都の警備だと以前聞いたことがあった。
もしかして、オーランドさんはこの辺りの担当なのだろうか。
「ケイト嬢の足の具合はどうだ?」
「おかげさまで、すっかり良くなりました。今日は元気に学校へ行っています」
昨夜、私がこっそり治療しておいたのだ。
「そうか、それは良かった」
ニコニコ顔のオーランドさんは、とても楽しそう。
きっと何か良いことでもあったのだろう。
「これは、見舞いのお菓子だ。良かったら、皆で食べてくれ」
綺麗に包装された箱には見覚えがあった。
以前キーファー様に教えてもらい、オーランドさんと一緒にケーキを食べたあの菓子店のものだ。
「中には、マドレーヌとフィナンシェが入っている。気に入ってもらえると良いのだが……」
「!?」
なんと、箱の中身は私が一度食べてみたいと思っていたお菓子だという。
(前に買いに行ったときはすでに売り切れで、泣く泣く諦めたものだ~!)
私は興奮を抑えつつ、有り難く受け取る。
「ありがとうございます。一度食べてみたかったので、嬉しいです!」
「そこまで喜んでもらえたら、買ってきた甲斐があったというものだな……」
若干苦笑気味のオーランドさんを見て、自分が興奮しすぎたと気づいたが、もう遅い。
ホホホ……と笑ってごまかしておいた。




