再び、騎士団へ
次の日、私とケイトちゃんは騎士団の建物内にある待合室に座り、セルゲイさんが来るのを待っていた。
指定された料理を木で出来たお弁当箱のような物に詰めて、ケイトちゃんと二人で手分けして、辻馬車に乗って持ってきたのだ。
(前回は、満面に笑みを浮かべたロイさんが迎えに来てくれたんだっけ……)
そんなことを思い出しながら、私は何の緊張感もなくボーっとしていた。
騎士団内は関係者以外は立ち入り禁止なので、今日はここでセルゲイさんへ荷物を渡すだけだ。
だから、顔見知りに出会うことはない。
(そうだ、帰りにドーラさんへ美味しいお菓子でも買って帰ろう!)
せっかくここまで出かけてきたのだから、帰りに少しだけ寄り道をしていこう。
素晴らしい考えが頭に浮かび、ひとりでニマニマしていると、セルゲイさんがやってきた。
では、彼に荷物を渡して任務完了!
……のはずだったのに、なぜこうなってしまったのだろう?
◇
私はケイトちゃんたちの後ろを、非常に重い足取りで歩いていた。
セルゲイさんが可愛い妹のおねだりを聞き入れ、事前に入館の許可を取っていたらしい。
麗しき兄妹愛なのだが、私にとってはまさかの事態だった。
もちろん今日も変装をし、声も変えている。服も平民仕様だ。
背の高さを変えるため靴に上げ底までして、念には念を入れてきた。
大丈夫!絶対に私だとバレない!!と何度も自分に言い聞かせながら廊下を進んでいくと、セルゲイさんはある部屋の前で止まった。
扉の札には『聖女信奉会』の文字が見える。
私はスーッと息を吸い込むと、ゆっくりと吐き出す。そして、部屋に足を踏み入れた。
部屋の中は、数か月前と何ら変わりは……あった。
部屋の中央のかなり目立つ位置に、大きな私の肖像画がど~んと飾られていたのだ。
間違いなく、前回の訪問時の後に描かれた物だとわかる。
(あの髪型、メリルさんがしてくれたものだよね……)
ケイトちゃんは肖像画を見つけると、わあっと目を輝かせて近づいていった。
「聖女様って本当に美しい方なのね。兄さんが夢中になるのも無理はないわ……」
「そうだろう? ケイトも聖女様の素晴らしさを理解してくれて嬉しいよ」
「お父さんやお母さんにも、見せてあげたいね」
その内、ぞろぞろと会員の皆様が肖像画の前に集まってきて、大称賛大会が始まってしまった。
各々の口から飛び出す絶賛の嵐に、皆の前では耳を塞ぐこともできない私がひとり部屋の隅で悶絶したのは言うまでもない。
◇
そろそろ会が始まるというので、お暇することにした。
入り口まで送ると言ったセルゲイさんを断って、二人で来た道を戻る。さすがに二度目なので、道順は頭に入っている。
「サミーさん、聖女様って綺麗な人だったね!」
「そ、そうだね……」
「私も、一度でいいから会ってお話してみたい! きっと、優しい方なんだろうな……ねえ、サミーさんもそう思わない?」
(本人に会ったら幻滅して、ケイトちゃんの夢を壊してしまうかもしれないよ……)
興奮冷めやらぬケイトちゃんへ、心の中の声は決して口にできない。
私は曖昧に微笑んだ。
「お母さんに聖女様の話をしたら、何て言うかな? ふふふ……さあ、早く帰りましょう!」
そう言うと、ケイトちゃんは足早に歩き出す。気が急っているのか、かなりスピードが出ているようだ。
「ケイトちゃん、待って!」
追いかけた私が追い付く前に曲がり角を曲がったケイトちゃんが、ドンと尻もちをついた。
出会い頭に誰かとぶつかったようで、慌ててケイトちゃんに駆け寄る。
抱き起こすと、相手の方に顔を向けた。
「大変申し訳ございません。お怪我はありませんか?」
ここは王城の敷地内。
相手が高位の貴族なら、平民はどんな罰を受けるかわからない。
私は、恐る恐る顔を上げた。
「!?」
目の前にいたのは、私が忘れたくても忘れられない人だった。




