近況
今日はお兄さんたちが騎士団の寮から帰ってくるとのことで、ケイトちゃんが朝から楽しみにしていた。
夕食時、家に戻った彼らにご挨拶をした。
上の兄、セルゲイさんは十九歳。下のモルトさんは、私と同じ十七歳。
それぞれ、第三・第四騎士団に所属されているそうだ。
「セルゲイ兄さんは聖女様の護衛騎士に立候補したんだけど、選抜試験で落とされてしまったの……結構いい所まではいったんだけどね」
残念そうな表情のケイトちゃんの話に、スープを飲んでいたスプーンを落としてしまった。
「サミーさん、兄さんは『聖女信奉会』の会員なんだよ。あっ『聖女信奉会』というのはね……」
モルトさんが丁寧に教えてくれたが、もちろん私は嫌と言うほど知っている。
さすがに会員全員の顔は覚えていないが、初めて騎士団を訪問した際に間違いなく会ったことがあるはずなのだ。
(まさか、こんな所で会員と出会うなんて……)
幻影魔法を頑張って練習し、見た目だけでなく声色まで変えることができるようになっていて良かったと心から思う。
聖女繋がりで、私の誘拐事件の話題になった。
私が王都に出て来たとき、街中でゴシップ紙が売られているのを見かけた。
『聖女様に魅了された公爵家兄弟』という見出しで、事件のあらましが面白おかしく書かれているようだった。
セルゲイさんは、ロイさんが引き連れてきた騎士団の一員だったようで、事件のことをよく知っていた。
まず、ラムザート様が誘拐事件を起こし、リムバート様がそれに便乗したこと。
聖女救出時に護衛騎士が瀕死の重傷を負ったが、聖女の治癒魔法で命が助かったこと。
その後の取り調べで、父親を含む家人全員が、リムバート様の魅了魔法で操られていたことが発覚したこと。
今後、国王陛下がどのような処分を下すのか、騎士団の中でも注目しているとのことで話は終わった。
「ねえ……セルゲイ兄さん、聖女様ってそんなに大勢の人を魅了するくらい綺麗な女性なの?」
「ああ、そうだぞ。初めて騎士団でお会いしたときは、心が震えたんだ。空のように澄みきった淡い水色の髪に、満月のように美しい金色の瞳を持つ神々しいお姿。慈愛に満ちた表情で見つめられた者は、感激の涙を流していたんだ。それで……」
セルゲイさんの話は続いているが、褒め言葉のオンパレードで、どこか別人の誰かの話のように聞こえる。
私は、心の中で悲鳴を上げた。
「先日、護衛騎士だったオーランド殿が第二騎士団に復帰されたから、明日『聖女信奉会』でお祝いの会を開くんだ」
(オーランドさん、騎士団に復帰したんだ。良かった……)
ずっと気になっていた彼の動向が知れて、私はホッと安堵の息を吐く。
今後の騎士団での活躍と、これからの彼の幸せをそっと祈った。
「兄さん、『護衛騎士だった』って、どういうこと?」
「聖女様が、ご自身を庇って負傷されたことを気に病んでらして、オーランド殿を静養させるために一度任務を解かれたと聞いている」
「聖女様の護衛騎士って、やっぱり危険な任務なんだな。セルゲイが選ばれなくて、良かったかもしれんな……」
ご主人の何気ない言葉が、私の胸に突き刺さる。
オーランドさんが倒れこむ場面が思い浮かび、慌てて振り払う。
「それで、昼食を兼ねて会を開くんだけど、皆が食べ物を持ち寄るんだ。うちからも食堂の宣伝を兼ねてぜひ提供したいから、食事を運んでもらえると有難いんだけど……母さん、お願いできる?」
「食事を出すのは構わないけど、明日は商店街の会合が入っていて、お父さんが出かけてしまうんだよ。昼に食堂を閉めるわけにはいかないから、困ったね……」
「じゃあ、母さんの代わりに私が届けるわ! 兄さんたちの仕事場も一度見てみたいし……」
ケイトちゃんは目を輝かせるが、ドーラさん夫婦は渋い顔だ。
彼女はまだ十歳の女の子。一人で騎士団までお使いに行かせるのは心配なのだろう。
「明日は学校が休みだし、ねえ……ダメ?」
彼女が期待に胸を膨らませている様子が、見てとれる。
私は、おずおずと口を開いた。
「私がケイトちゃんに同行しますので、お許しいただけないですか?」
「……サミーさん、いいのかい?」
ご主人は申し訳なさそうにドーラさんと顔を見合わせていたが、結局はケイトちゃんの勢いに折れた。
こうして、私は二度目の騎士団訪問をすることになったのだった。




