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愛され聖女さまと、護衛騎士  作者: ざっきー


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舞踏会2


 舞踏会の会場に到着した。


 先日訪問した騎士団の建物より、さらに奥まった場所だというのはなんとなくわかるが、オーランドさんについてきただけなので、一人で帰れと言われたら確実に迷子になる自信がある。


 豪華な衣装を身に纏った貴族の集団は、平民の私にとんでもない威圧感を放ってきた。

 チラチラとこちらを見てくる遠慮のない視線。

 男性は主に私を見ていて、女性、特に若い人は、オーランドさんをうっとりとした表情で見つめたあと、私の顔をじろじろと値踏みしてくる。

 その目線は、皆一様に、顔→首元→頭の順番になっているのだ。


「ミサ様、周囲の人間は皆、村の畑に転がるカボチャやジャガイモだと思ってください」


 オーランドさんが前を向いたまま、私にしか聞こえないくらいの声量で囁く。

 彼の腕に添えている私の手に力が入って、緊張感が伝わったようだ。

 落ち着かせるように、その手を優しくポンとされた。


「……野菜に例えるんですか?」


「はい。いちいち気にしていたら、キリがありませんから」


 公爵家の子息ともなると、こういった場に数えきれないほど出席しているのだろう。

 あの反省している時の子犬の雰囲気とは違い、今日は大型犬のような頼もしさを感じた。





「国王陛下がいらっしゃるまでには、少し時間があります。その前に何か飲んでおきましょうか?」


 そう言って、オーランドさんは近くを歩いていた給仕からグラスを二つ手に取った。


「ミサ様、どうぞ。アルコールは入っておりませんので」


 グラスに口を近づけると、爽やかな香りが鼻に抜ける。

 一口飲むと柑橘系にも似たさっぱりとした飲み心地に、一気に飲み干してしまった。


「初めて飲みましたが、とても美味しかったです」


「ミサ様のお口に合って、良かったです」


 それから、会場の隅でオーランドさんと他愛ない話をしながら待っていたのだが、その間にも、若い女性が次々と彼へ話しかけてくる。

 知り合いなのかと思い私が少し後ろへ下がろうとしたら、オーランドさんにグッと腕を掴まれた。

 そのまま引き寄せられ、「動かないでください」と碧眼の双眸が無言の圧をかけてくる。


(ちょっと怒ってる……何で?)


 理由がわからないまま私がコクリと頷くと、オーランドさんはようやく腕を離してくれた。

 せめて会話の邪魔をしないように、おとなしく会場の置物と化する。


 隣から様子を窺っていたが、オーランドさんのキラキラ笑顔は影を潜めなんとも素っ気ない態度。

 こんな表情をすることもあるんだなあと思っているうちに、周りから人がいなくなっていた。

 細心の注意を払い、周囲を確認しながら私は口を開く。


「……オーランドさん、私のことは空気だと思って、皆さんとお話してくださいね」


「いえ、結構です。私にはミサ様をお守りするという崇高な仕事がございますから」


「でも……貴族の方にとっては、大事な出会いの場でもあるんですよね?」


 サラちゃんが言っていた。

 両親や親戚が持ち込むお見合い話の他に、茶会やこういった舞踏会などで将来のパートナーを見つけるのだと。


「私の護衛騎士をしているせいでオーランドさんの婚期が遅れたら、ご両親に顔向けができないですし……」


「全く問題はありません。その時はミサ様に責任を取っていただきますし、むしろ、その方が好都合……」


(好都合って……)


 オーランドさんはキラキラ笑顔なのに、その後ろで黒くうごめくものを感じてしまうのはなぜなのか。


「私はあと半年ほどで成人します。それまでに婚約者ができなければ……ミサ様、私の婚約者代わりになってください」


「…………」


 オーランドさんを見ていたらわかる。

 この人は、全然結婚する気がないのだ。

 私を人除けにして、持ち込まれる見合い話をのらりくらりと(かわ)すつもりなのだろう。


(さっき『好都合』と言っていたし、さすが腹黒騎士様……)


「……わかりました。何としても、それまでにお相手を探しましょう!」


 前途ある若者の未来のために、私は全力を尽くしてお見合いオバ…お姉さんになろうと思う。


「相手を探すって……誰のだ?」


 オーランドさんの結婚計画を頭の中で考えていたら、後ろから声をかけられた。


「あっ、ロイさん! 何ですか、その恰好……」


 ププッと笑いだしそうになるのを、必死でこらえる。

 今の私の顔は、とても人様にお見せできるものではないだろう。


(『馬子にも衣裳』とは、まさにこれのことかもしれない……)


 ロイさんは、濃いグレー地に紫の差し色が入ったおしゃれなタキシードを着ていた。

 ライトグレーの髪色とロイさんのちょい悪感も相まって(若干ホスト風に見えなくもないが)、彼のカッコ良さを引き出していた。


「何だ、その顔……まあ、おまえが言いたいことはわかるが」


 少し照れくさそうにしているロイさんは、ふんわりとした雰囲気を纏った小柄の女性をエスコートしていた。


(もしかして、こちらの女性は……)


「ミサには初めて紹介するな。俺の妻、マリアだ」


「初めまして、聖女様。護衛騎士様。私はマリア・クロケッタと申します。お会いできて光栄です」


 やはり、ロイさんの奥様だった。

 紫の髪にライムグリーンの瞳が印象的なマリア様は、どことなくお父上の団長さんに似ているような気がする。


「初めまして、ミサと申します。ロイさんが、いつもお世話になっております」


「オーランド・シュバルツと申します」


「聖女様のお話は、かねがね主人から聞いております。失った腕を再生していただいたそうで、わたくしからも御礼を申し上げます」


 マリア様は、貴族の奥様らしい優雅な佇まい。

 衣装だけは貴族っぽい今日の私は、彼女の所作を少しは見習わなければいけないと思う。


「ミサ、この間騎士団でも『ロイさんがお世話になっております』って団長殿に挨拶しただろう? おまえが俺の保護者みたいだから、やめろ!」


「は~い」


 私とロイさんのやり取りを、マリア様はクスクス笑いながら、オーランドさんは苦笑しながら眺めていた。


「そういえば、相手を探すとか言って騒いでいたが、何の話だ?」


「オーランドさんがあと半年以内に頑張ってお相手を見つけないと、私が婚約者になっちゃうんです。それを阻止するために相手を探そう!という話です」


「ああ、おまえが責任を取るって話だったな……」


 思い出し笑いをしているロイさんへ、オーランドさんが経緯(いきさつ)を説明している。

 「ミサ様から言質を取りました!」と嬉しそうに報告をしているけど、そこは喜ぶところじゃないと思う。


「えっ、あの……お二人は、()()婚約をされていらっしゃらないのですか?」


「えっ、どうしてそんなことを?」


 マリア様の口から驚くべき発言が飛び出したが、その理由がわからず私はポカンとしてしまう。


「その…お二人が身に着けていらっしゃる物で、一目瞭然だと……」


「あ~マリア、ミサは俺と同じで平民出身だから、その辺りのことは……全く理解していない」


「そうでしたか……」


 マリア様はチラッとオーランドさんへ視線を送ったあと、私を気遣うような表情を見せた。


「今日の衣装は、全て公爵家が用意してくれたんだろう? 二人によく似合っているよ。まあ、なんだ……オーランドは頑張れよ!」


 ロイさんはマリア様を連れていってしまった。

 最後にロイさんが何を言いたかったのか、私にはよくわからなかった。





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