13話 三人デート
セイラム村に戻ったリュウたちは、宿で盗難品の確認を行うことにした。
宿の中には話を聞きつけた村人たちが、テーブルの上いっぱいに広げられた盗難品を眺めている。
すると、その列を割って一人の熟年の男性がリュウたちのもとへやってきた。
「私はこの村の長を務めているものでございます。まさか一年前に盗まれたものが返ってくるとは……。お三方には何とお礼を言ってよいのやら」
その男性はこの村の村長のようだ。白髪の混じった髪にしわが走る顔は、年季を感じさせる。
村長の言葉に対して、ジュードは一礼した。
「騎士として当然のことをしたまでです」
「なんと、その若さで騎士を務めておられるとは。ということは洞窟に住み着いていた盗賊も騎士殿が……?」
村長は驚いたようにジュードを見つめた。それは村長だけではなく、まわりを取り囲む村人たちも同様だ。
おそらく若い騎士が珍しいのだろう。
そんな好奇の視線にも動じず、ジュードは答える。
「いえ、あなた方の村を襲ったと思われる盗賊はいませんでした。代わりに別の者がいましたが……、それは既にこちらで拘束しましたのでご安心ください」
「そうでしたか……。何はともあれ我々の財産を取り戻していただいたお三方には感謝しております。ぜひ今晩は我が村自慢の御馳走をふるまわせてください」
村長の提案にありがたく頷くリュウたち。
話も一区切りついたところで、村長は宿を去ろうとする。
「それでは私はこれで失礼します。娘も待っておりますので」
「娘さんがいらっしゃったんですね」
去り際の村長に返したジュードの何気ない一言。
だが、その瞬間確かにその場の空気がひりつくのをリュウは感じた。
それは殺気に近いものだったかもしれない。
リュウはその正体を探すため、あたりを見回そうとするがその前に村長が柔和な笑みを浮かべて言った。
「えぇ、まだ小さいもので手がかかってしまって。それではまた夜に」
穏やかな声色とともに宿を去る村長。
気がつけばさっきまでリュウが感じていた緊迫した空気は感じられなかった。
何だったんだ、と疑問に思ったが考えても答えは出ない。
そうして村長に引き続き、晩餐の準備で一人、また一人と宿を出て、最後に残ったのはリュウたちだけだ。
リュウとジュードはお互いに顔を見合わせる。
「さてと、これからどうするか」
リュウがそうつぶやくと、ふと左手を引っ張られる感触があった。
リーナだろうかと左手の方を見ると、その先にいたのはリーナではなく、一人の幼い少女だった。
あどけなさを残した、まだ十歳にも満たないであろうその少女は手元に何かを握っていた。
よく見ると、それはリュウが洞窟で回収した赤花のブローチだ。
リュウが少女と視線を合わせるため、床に膝をつくと少女は不思議そうに尋ねた。
「おにぃちゃんがこのブローチをとりかえしてくれたの?」
「そうだな。そのブローチは君のものだったのか?」
よく無愛想だと言われがちなリュウも、小さな少女相手には言葉を柔らかくした。
リュウがそう答えると、少女はぱっと花が咲いたように笑顔を見せる。
「うん! これはパパからのおくり物だったの! でも一年前にぬすまれちゃって……」
「そうか、それは良かった」
リュウは洞窟でこの古びたブローチを持ち帰るか悩んだが、持って返ってきて良かったと思った。
「だからお礼にわたしがおにぃちゃんたちにこの村を案内してあげる! わたしはリリス! おにぃちゃんたちは?」
「俺はリュウ。こっちの子はリーナ。で、あっちの爽やかそうなやつがジュードだ」
リーナは両膝を曲げてちょこんと笑顔を見せ、ジュードは軽く手を挙げた。
それにしても村の案内か、困ったなとリュウは内心考える。
盗賊団の洞窟に潜入し、村から奪われた財産は取り返すことができたものの、リュウたちの当初の目的である神隠しの調査はいまだ進展がない。
そんな状況で暢気に村をぶらついていいのだろうか、という思いから普通なら断るところであるが、目の前の瞳を輝かせた少女の厚意を無下にしてしまうのも気が引けた。
そんな様子を見たジュードが、リュウに助け舟を出す。
「君たちは村を回ってくるといい。どうせ今は手がかりもないしね。調査の方は僕がやっておこう」
その言葉を聞いた少女、リリスは「やった!」と声を上げ、ぐいぐいとリュウの袖を引っ張った。
さすがにこれは断れないな、とリュウはそれについていくことにする。その後をリーナも追うのだった。
* * * * * * * * * *
宿を出たリュウとリーナは、リリスの案内で村のあちこちを見て回った。
「みて! あそこは服屋さん。この村の人はみぃーんなあそこで服をかうんだよ!」
先頭を走りながらリリスは村の紹介をする。
「あそこは牛さんたちが住んでるところだよ! でも近づいたらかまれちゃうから気をつけてね」
リリスは案内するのが楽しいのか「あっちはねー! こっちはねー!」と忙しなく指をさして、その度にそこであったことなどを話していく。
その無邪気にはしゃぐ姿はまさに年相応の子どもといった様子で、自然とリュウとリーナは笑っていた。
そんな風に村を歩いていると、リリスは突然リュウとリーナのことを見て言った。
「ふたりは、『こいびとさん』なの?」
その無邪気な質問に、リュウは表情を変えずに「いや……」と否定しようとしたが、なぜか慌てた様子のリーナが先にリリスの方へと声をかけた。
「リ、リリスちゃん!? どこでそんな言葉覚えたの?」
「ゆうべわたしがふたりの部屋にあそびに行こうとしたら、ママが『こいびとどうしの大事な時間をジャマしちゃダメ』って」
口元に指を当てて、リリスは思い出すように言った。
その言葉にかぁーっとリーナは顔を赤くした。
昨晩と言えば、ジュードと今日の洞窟の探索の手筈を整えた後、眠るリーナを寝室に連れて寝かして、リュウもすぐに隣のベッドで眠りについた。
そこでリュウは一つ疑問を口にする。
「リリス、大事な時間とは何だ?」
「こ、こんな小さな子に何言わせようとしてるんですかマスター!」
リリスに質問したはずなのに、なぜかリーナがそれを阻む。
不思議そうな顔でリュウがリーナを見つめていると、その様子を見たリリスはくすくすと笑った。
「やっぱりふたりは仲良しさんなんだね」
毒気のない無邪気なその言葉で、その場での話は落ち着いた。




