12話 愉快な事情聴取
ジュードとギーブ兄弟との戦いを見たリーナは、決着がついた今も呆然としていた。
その力の差はもう子どもと大人とかそういうレベルではなく、存在そのものが根本から違うように見えた。
「ジュードさん、あんな強力な加護を二つも持ってるなんて……こんな戦い方、はじめてみました」
ぼんやりとつぶやくリーナにリュウは笑いかける。
「あいつにしかできない戦い方ではあるな。ちなみにあいつの加護は二つだけじゃないぞ」
「え!?」
「俺が知っているだけでも五つはある。その数は十とも言われてるし、百とも言われている。正確な数を知ってるのは、本人だけだろうな」
「あんな加護がまだ三つも……」
リュウが語る内容に驚きを隠せないリーナ。
リーナは思わず、その二つ名をつぶやいていた。
『神に愛されし子』。
この世界でたった一人、複数の加護を与えられた人間。それはもはや人という領分にすらとらわれないのではないかというそんな戦慄。
リーナはふと自分の手の掴む先の人物を見る。
そこではじめて、リーナはあることに気付いた。
リュウとジュードをあらわす『国の双璧』とは、加護を複数与えられた『神に愛されし子』と加護をただの一つも与えられなかった『神に捨てられし子』のことを指すのだと。
人の理から外れた正反対な二人が並び立つことに、リーナは不思議な感覚を覚えたのだった。
そんな神妙な気持ちをよそに、リュウとジュードは捕らえたギーブ兄弟から事情聴取を行おうとしていた。
兄の方は打ちどころが悪かったのか気絶していたので、捕まえた弟の方を二人は囲む。
まだ岩に動きを拘束されたままのギーブ弟を見下ろして、リュウは言った。
「さてと、お前にはいろいろ聞きたいことがあるが、正直に全部答えろ。さもないとこの神に愛された奴が死ぬより辛い拷問をするぞ」
「は、はいぃぃ! な、何でも答えますから、それだけは……っ!」
ジュードはため息をついて「人を勝手に悪魔扱いしないでくれるかな……」と小さく抗議していたが、リュウはそれを無視する。
「まずはじめに聞くが、お前たちは『屍漁り』のメンバーか?」
「い、いや。俺たちは違います……」
てっきりこの二人組が件の盗賊団の一員かと思っていたリュウは、ジュードと視線を合わせる。
「ならお前たちは何者だ? どうしてこの洞窟に来た?」
「お、俺たちは元々傭兵ギルドに所属していたんです。ただそこで受けた依頼で派手に失敗しちまって……クソ! あのサソリの化け物のせいでッ!」
悪態をつくギーブ弟に対して、リュウは続きを促す。
「要人見捨てて逃げた俺たちはギルドから追放されて……しかもその評判が広まっちまったせいで、誰も俺たちのことを雇ってくれなくなったんです。それで食うに困った俺たちのところに、ある噂が流れてきたんです」
「噂?」
「は、はい。セイラム村を襲った『屍漁り』の連中がなぜか失踪したって噂です。それからアイツらが村から奪った財宝がまだアジトに残されてるって聞きました。それで俺たちはここに来て財宝を奪ってやろうって……」
ジュードが洞窟内に落ちていた布地を手に取り、それを確かめる。
「この光沢、柔らかな肌触り。確かにこれはセイラム村で生産される高級布地の一種だろうね」
「ということは、ここにあるのはセイラム村から奪われたもので間違いないってことか」
リュウは考えを整理する。
これまでのギーブ弟の話が正しければ、一年前、確かに『屍漁り』はセイラム村を襲い、この洞窟をアジトにしていた。
しかし、『屍漁り』の連中はどういうわけか失踪している。実際、この洞窟に入ってからも自分たちとこの兄弟以外に人の気配は感じていない。
「奪った金品をわざわざ置いて別の場所に移動するはずがない。つまり……」
思考を整理するため、リュウは考えを口にする。
――『屍漁り』の連中は既にこの世にいない……? もしそうなら、旅人の神隠しは連中の仕業ではないということになる。
同じ考えに至ったのであろうジュードが話を切り替えるため、軽く手を叩いた。
「とりあえず、この場にいてもこれ以上の情報は得られなさそうだね。一旦、街に帰ろうか」
リュウとリーナはそれに同意する。
リーナはまだ岩に縛られたままのギーブ兄弟を見て、疑問を口にした。
「この人たちはどうしますか……?」
まさか彼らを拘束する岩ごと持ち帰るわけにもいくまい。
それに答えたのはジュードだ。
「本来なら村の騎士団員に引き渡すところなんだけど、生憎セイラム村には今団員が不在でね。僕が『契約』の魔法で、彼らが自分で近くの街に出頭するよう命じよう」
「『契約』って破られたりしないんですか?」
リーナはちょこんと首を傾げて心配そうに尋ねた。
話を引き継ぐようにリュウがそれに答える。
「その心配はない。『契約』の魔法は、すべての生命の始祖が、はじめに神々と交わした魔法だからな。始祖から生まれた存在は例外なく『契約』が使える。そしてそれを破ることは、神との契約を違えることになるから、絶対に破ることはできないんだ」
始祖が神とどんな契約を交わしたかは知られていない。
だが、契約とは絶対の楔であり、「破ったらどうなるか」など考えることは無意味である。なぜなら誰にも破ることはできないのだから。
それは、人に限った話ではない。
例えば魔獣ですらも一度『契約』を結んでしまえば、それには逆らえないのである。これは、魔獣も始祖から生まれた一種だからだと言われている。もっとも『契約』には、双方の意思の疎通が必要不可欠であるため、そもそも普通の人間には魔獣と『契約』などできないのだが。
「それじゃ僕はこっちを片付けるから、君たちは盗難品の方を頼むよ」
「おっと、そうだな。こっちもこのままにしておく訳にはいかないからな」
ジュードの一言で散らばった金品たちのことを思い出し、リュウとリーナはそれを集め始める。
繊維にあまり詳しくないリュウでも、落ちている布製品の柔らかさを感じて、高級品なんだろうなと内心思った。
盗難品を回収していく中で、リュウはあるものを見つけた。
それは赤い花をかたどった古びたブローチだ。
宝石や装飾品に疎いリュウにはそれが価値のあるものなのかわからない。
――とりあえず全部持って帰ればいいか。
そう考えたリュウは、数多く金品を詰め込んだ袋の中にそのブローチも追加した。




