11話 盗賊の根城
リュウたちが洞窟の最深部へやってくると、先頭を歩いていたジュードが足を止めて振り返った。
「しっ。……この先の角を曲がった先、ひらけた空間に二人いる」
目を閉じ、ジュードは小声でそうつぶやいた。
リュウとリーナの緊張も自然と高まる。
「二人だけか? 確か『屍漁り』は二十人ぐらいいるんじゃなかったか?」
「このあたりいったいを見回してみたけど、この先にいるのは二人だけだね」
「なら、正面から行くか」
リュウの提案にジュードも首肯する。
リーナは緊張が極限にまで高まっているのか、その獣耳が忙しなく動いている。
そうしてリュウたちはごつごつした岩肌がむき出しになっている角を曲がり、洞窟最深部のひらけた空間へ踏み入った。
そこはこの洞窟内で一番大きな空間で、十人ぐらいなら軽々入れるような広さだった。
壁には松明がかけられ、あたりには無造作に金品や高級そうな布地のものが散らばっている。
その中央、まさに金品を漁っているところだった二人組が、リュウたちの足音に気づき振り返った。
「誰だ!?」
その声は警戒心に満ちており、二人組は足元にある金品からリュウたちの方へと意識を向けた。
その風貌は薄い甲冑に身を包んだ、初老の男性二人組といったところだ。
そのうちの背の低い方の一人がリュウたちのことを見回して、つぶやいた。
「子供……? どうして子供がこんなところに。兄者、どうしますか?」
兄者と声をかけられた方は、リュウたちがまだ子供であることを確認して、警戒を緩めた。
「近くの村のガキが迷い込んできたんじゃろう。身包みはいでその辺に捨てて……いや、待て。その女の方は獣人か? それもかなりの上玉じゃ! ついとるのうワシらは! 金に加えて女まで手に入るとは!」
下卑た笑いと共にリーナを見つめる男。
そんな男の視線から逃げるようにリーナはリュウの後ろに隠れた。
その様子を見て、背の高い方の男はますます興奮した様子を見せる。
「おいガキども! 身包み全部とその女を置いてここから出て行け! そうしたらお前らのことは見逃してやってもいいぞ」
二人組はリュウたちのことを完全に見下しているようで、がははと余裕を見せ笑い合う。
そんな姿にジュードはため息をこぼした。
「見るに耐えないね。ここは僕がやろう」
「やりすぎるなよ」
一歩前に出るジュードにリュウが声をかける。
その様子を見た二人組は、心底楽しそうに声をあげた。
「兄者! この子供、俺たちとやり合うつもりですよ!」
「がはは! ワシらがギーブ兄弟と知らんのじゃろうな。痛い目見せちゃるぞ」
ジュードは「知ってるかい」と視線だけでリュウに問うが、ギーブ兄弟など聞いたこともないリュウは首を横に振った。
そのまま一歩ずつ前に出るジュード。
臨戦態勢になったギーブ兄弟がそのジュードに対して先制する。
「やれ! 弟よ!」
「おうよ! 兄者! 『火炎弾』」
掛け声と共にギーブ弟は、自身の掌の上に火の玉をつくりだし、それをジュード目がけて投げつけた。
火の玉は一直線にジュードの方へと向かって行き、そのまま彼を燃やし尽くそうとする。
だが、ジュードはまるで何事もないかのように一歩ずつ前へ進んだ。
「アイツ、おかしくなってますぜ! 自分から火に焼かれに行くなんて! そのまま燃えて――」
火の玉がジュードに接触する直前。
突如、それまで勢いよく燃え盛っていた炎が消えてなくなった。
「「なっ」」
ギーブ兄弟の驚きの声が重なる。
戦いの様子を後ろから見ているリーナも困惑した表情を浮かべていた。
「おい! ガキ、何をした!?」
「何をしたと言われても、歩いてるだけなんだけどね」
「……っ! ふざけやがってッ! ならこれでも喰らいな! 『水冷弾』」
驚きに表情を歪めるギーブ兄が今度は掌の上に水をつくりだし、それをジュード目がけて投げつける。
だが、結果は先ほどと同じで、勢いよく飛ばされた水はジュードに触れる直前で消えてなくなった。
「な、何が起こってやがるッ……!」
ギーブ兄弟は余裕のある態度から一転、後退りをはじめる。
リーナもその現象を不思議そうに眺め、つぶやいた。
「マスター。ジュードさんのあれは一体……?」
「あれはジュードの持ってる『自然の加護』だな。簡単に言えば、自然に愛される加護だ。どんな火も水も風も土もあいつを傷つけることはできない」
リュウたちの会話を聞いていたギーブ兄は吐き捨てるように言う。
「ふっ、ざけるなっ……! そんなインチキ加護があってたまるか……ッ!」
「兄者ァ! 魔法が効かないなら剣で行きましょう!」
「おう、そうだな。直接ワシらの剣をお見舞いしてやるッ!」
ギーブ兄弟はそう確認しあうと剣を抜き、弟は左から、兄は右から同時に斬りかかる。
「どうだッ! これでさけられ――」
その剣筋は確実にジュードを捉えている。
ジュードは自身の剣を抜くこともなく、左右からの挟撃を眺めるだけだ。
「もらった……ッ!」とギーブ兄弟は勝利を確信する。
だが、剣がジュードに触れる直前。
突如、二人の体が後方に吹き飛ばされ、二人は壁面へと強く打ち付けられる。
「「がはっ……」」
ギーブ兄弟の呻き声が重なる。
「マスター、あれは……」
「あれは『万剣の加護』だな。どんな剣もあいつに傷をつけることはできない」
「えっ。でも、それじゃあ……」
リーナもそのことに気付いたようだ。
そして、ギーブ兄弟も同じことに気がついた。壁に打ち付けられた衝撃から、よろめきながらジュードの姿を見た。
「加護が二つだと……ッ! ありえねぇ、そんな人間、いるはずがっ……!」
「いや、まさか……。噂で聞いたことがある。この世でただ一人、加護を複数持つ人間……。王国騎士団十番隊隊長、『国の双璧』、『神に愛されし子』。ジュード・ロンド……ッ!」
ジュードはそんな驚愕の視線を受けても、いつもと変わらぬ涼しい顔をしている。
「自己紹介が必要なくて助かるよ」
そう言いながらジュードが手をかざすと、強固な岩がまるで泥のように変形し、ギーブ兄弟を拘束する。
「「うがあぁぁああっ!!」」
こうして触れることもなく、ジュードは勝利を収めたのだった。




