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黒幕の存在

088




 フェヘールの言うとおり、避難してきた領民のための炊き出しは今日も通常通りやっている。


 しばらく列に並ばなければならないが、待っていればちゃんと1食もらえる――もう一度、列に並べば2食だってもらえるのだ。


 メニューが気に入らなければ別の炊き出し場にいけばいいし、いくつもの炊き出し場をまわって食べ歩きすることも別に禁止されているわけではない。


 籠城中だし、無料の炊き出しだから豪華なメニューというわけではないが、飢えるどころか、空腹を我慢する必要さえなかったりする――生活レベルが中級以下の住人なら、むしろ普段よりたっぷり食べられるほどじゃないかな?


 それに街の発展速度や移民の数と城壁の建築スピードが噛合ってないから避難という話になっているけど、古い時代からある市街地は普通に城壁内だ。


 旧市街地にはレストランや宿屋や居酒屋などもあり、いまでも営業しているから、お金があるならワインつきでフルコースを楽しむことさえできるのだ。


 それなのに処刑されかねないようなことをするか?


 いま尾行中の男は口先で煽っただけでなく、軽い洗脳のような魔法でも使ったのではないかと僕たちは疑っていた。


 ほんの軽いものだから大量の人間に即座に一度で効果をおよぼすことができるが、反面ちょっとしたことで簡単に解けてしまうレベルの魔法だ。


 いま僕たちが尾行しているのは40歳くらいのオッサンで帽子にジャケットにズボンという、この街にいっぱいいる行商人みたいな風体で、ローブも着てないし杖も持ってなくて、まったく魔法士には見えないけど。


 その男は北門を目指しているようだった。


 現在の最前線だ。


 門の外に出なければ基本的に安全とはいえ、わざわざ近寄る領民はいない。


「もしかして食料庫に放火して、みんなを煽った? で、今度は北門に火を放って、パニックでも引き起こす気かな?」


「クリート、それは北門に配備されている騎士をナメすぎてる。不審者がいたら問答無用で斬り捨てるような連中ばかりだから」


「誰何すらしないのか?」


「門に火を放とうとしている人影があったとして、どこの誰か質問するの? すごい家名を名乗ったとしても、どうせ死刑だけど?」


「そりゃそうか……やったら絶対に首がなくなのだから、その場で斬り捨てても、結果は同じなんだ」


「なんなら、火つけの道具を持っていただけで斬り捨てるまである」


「乱暴な !」


「スタンピードみたいな緊張感がMAXのときに疑わしい振る舞いをすると、とても危険だということを理解できないほど脳みそが軽いと、その命も軽く扱われてしまうということね」


「怖いところだ」


「いま気づいたの ?」


「だいたい知ってたかな?」


「あいつも知ってるよね?」


「誰々?」


 尾行してきた男が老婆と会っている。


 城門から降りてきたし、ローブ姿でもあるので、防衛戦に参加している魔法士だろう――いや、僕の知っている人だ。


「どこかで見たぞ。あんな真っ赤で派手なローブを着た魔法士はそんなにいない……んだけど、ええっと……名前はなんだったかな?」


「一緒に戦ったのに!」


「このところ戦ってばかりだから! 一緒に戦った魔法士だって、たぶん100人を超えるから!」


「うちの魔法士団の団長だけど」


「ああ、そうだ。ランゲ団長……ランゲ団長でいいよね?」


「正解!」


「で、どうするの? これも斬り捨て御免でOK?」


「とりあえず声をかけてみる」


 そう言ってフェヘールはどんどん近づいていって、まずはポンと尾行してきた男の肩に手を置いた。


「暴動を扇動した罪で拘束します。逮捕に協力ありがとうございました」


 後半の言葉はランゲ団長に向けたものだったが、そのランゲ団長はろくに聞きもせず慌てて逃げ出した。


 これはもう自白したようなものだろう。


「ランゲ団長が反乱! ただちに鎮圧!」


 剣を抜いて追いかけようとしたけど、その前にフェヘールの一言で城門に配備されていた騎士たちが180度くるりとまわって、こっちを見た。


 魔獣と戦うための弓を手にして。


 東西南北の門のうち、別格にサイズが大きい北門の上には数百人の騎士たちがいる。


 その北門につながる城壁にも何百人も配備されていた。


 フェヘールのほうに矢が飛ぶことを憚って前方にいた騎士たちは弓を下ろしたが、城壁の上に配備されていた騎士たちは矢を撃ち下ろす。


 一斉に無数の矢が飛んだ。


 1本1本は直径何センチもない細い矢なんだけど、それがまとまって塊のように、あるいは壁のように左右からランゲに降ってくる。


 するとランゲも炎の壁のようなものを魔法で生成して盾にした。


 出力の大きい魔法を連発するのは難しいはずなのに、苦もなくランゲは2発目の魔法で北門を撃った。


 どどどぉぉぉぉぉーーーーーーーん、と鼓膜が抜けそうな破裂音だけでなく地震みたいに地面がうねる。


 爆裂魔法の一種なのだろうが、一般的な規模とは桁が違う。


 太い丸太と、分厚い鉄のプレートでできた頑丈な門なのに、その丸太が弾け、鉄のプレートが吹き飛んでいった。


 直径でいえば5メートルはありそうな大穴が開き、そこを通ってランゲは外に出る。


 だが、その背を狙って2の矢、3の矢が100本単位で飛んでいった。


 何本も矢がランゲに刺さる。


 よろけて、転びそうになりながらもランゲは走った。


 しかし、前からは魔獣の群れ。


 すぐに飲み込まれてしまった。


 とてもじゃないけど生き残るのは不可能。





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