第六十六話 新たな試練
第六章 海底神殿
第六十六話 新たな試練
早朝。
第三拠点の寮は、静まり返っていた。
ほとんどの隊員が眠りについている中、一つの部屋では、ある男がすでに活動を始めていた。
ネイビーだ。
ネイビーは毎朝、誰よりも早く起きて訓練に明け暮れる日々を送っている。
今日も、いつも通りの時間に目を覚ました。
着替えを済ませ、訓練場へ向かうために部屋の扉へ手をかける。
ノブを捻り、ドアを引いた。
その瞬間――。
「……?」
ネイビーは、おかしなことに気づいた。
廊下が左右とも、水の壁で塞がれている。
「囲まれたか……」
しかも、水の壁との間に残されたスペースは、ドアの幅と同じくらいしかない。
「ドアから出て、壁を破壊するか……」
そう考えながら敷居を跨いだ、その瞬間だった。
ものすごいスピードでベランダから何かが侵入し、部屋側からドアを閉めて鍵をかけた。
「ちっ、何なんだよ!」
ネイビーが吐き捨てる。
その間にも、左右の水の壁がネイビーへ向かって迫ってくる。
そして、水の壁に挟まれた瞬間――。
水が球体へと変貌し、ネイビーを内部へ閉じ込めた。
「……」
水の球の中から、ネイビーは周囲を見渡す。
すると――。
二人の人影が、左右から一直線にこちらへ走ってくる。
「今だ! 行けるぞ!」
そう叫びながら突っ込んできたのは、水の爪を携えたノース。
反対側からは、拳に水を纏わせたカイが走ってくる。
「けっ!」
ネイビーは不敵な笑みを浮かべた。
そして――。
ザンッ!
手を振ると、水の球体が切り裂かれた。
見事に割れた球体は元の水へ戻り、ネイビーの足元へと流れていく。
「なっ!」
ノースは一瞬、驚いた表情を浮かべる。
しかし、そのまま突っ込んで水の爪を振りかざした。
三連撃。
水の爪がネイビーを捉える――はずだった。
しかし、ネイビーは最小限の動きだけで、それらをすべてかわしてしまう。
カイも水流拳を放つ。
だが――。
「……」
ネイビーは片手で受け止めた。
「この程度で、拘束したつもりか?」
次の瞬間。
片手でノースの顔面を、もう片方の手でカイの顔面を鷲掴みにする。
「なっ――!」
そのまま二人を地面へと叩きつけた。
「ぐっ!」
身動きが取れないノースは、必死に足を動かす。
しかし、ネイビーの手はびくともしない。
「くそっ……!」
カイは手に込めていたフレイムエネルギーをネイビーへ向けて放つ。
だが――。
ネイビーの周囲に水の膜が張られ、炎を防いだ。
しかし、水の膜は衝撃に耐えきれず破裂する。
少量の火の粉が、ネイビーの顔をかすめた。
だが、そんな程度でネイビーは止まらない。
「お遊びはもう終わりだ! しばらくねんねしてな!」
ネイビーの手に、さらに力がこもる。
その時だった。
「氷海の術」
声と同時に、辺りに飛び散っていた水が凍り始めた。
氷は瞬く間に広がっていく。
先ほどまで水の球体だった水にも氷がまとわりつき、ネイビーの体まで凍り始めた。
「なっ!」
「この術は……!」
体が凍りついていく中、ネイビーが叫ぶ。
「ティア! てめぇ!」
「ごめんなさい、ネイビー隊長」
そう言って姿を現したのは、ティアだった。
「ちっ……面倒な女だぜ。テメェはよ!」
悪態をつくネイビー。
しかし、氷はすでに顔の近くまで迫っている。
カイやノースも同時に凍りついていた。
「くっ……!」
カイは自分のフレイムエネルギーを使い、氷を溶かして脱出する。
ノースも続いて抜け出した。
服についた水を払いながら、カイはネイビーへ向き直る。
「話を聞いてください。ネイビーさん」
「……」
「海獣の出現は、すべて地底人が仕組んでいることです」
カイは必死に言葉を続ける。
「俺たちも道中、イグニス族の集落で暴れている海獣を沈めました。おそらく奴らは、俺たちの行く手を阻もうとして、あの海獣を放った」
「……」
「おそらく、俺たちが海底神殿へ行くことで、奴らにとって何か都合の悪いことが起こるんです」
カイは拳を握る。
「奴らの尻尾を掴みたいんです。お願いします。協力してください」
そう言って、深々と頭を下げた。
必死に懇願するカイを、ティアも黙って見つめていた。
そして――。
「地底人の殲滅は、ネイビー隊長にとっても悲願なんでしょ?」
「……」
「それに、今のフレイムエネルギーの一撃は、なかなかよかったんじゃない?」
「……」
ネイビーはしばらく黙っていた。
そして――。
グッ!
全身に力を込める。
「……?」
次の瞬間。
バリンッ!
まとわりついていた氷を、力任せに砕いて脱出した。
「え?」
「この程度の氷結で、勝ったと思っているのか?」
やはり……圧倒的に格上なんだな。
改めて、自分たちの弱さを痛感する。
「このままテメェらをぶっ飛ばしてもいいんだが……」
そう言って、ネイビーは両手にナイフを作り出す。
「だが、もっとぶっ飛ばさなきゃならねー奴らがいることが分かった」
そう言うと、ナイフを消した。
「行ってやろうじゃねーか」
そして――。
「地底人討伐にな」
三人は胸を撫で下ろした。
「だが……」
「俺が行く目的が定まったわけだが、テメェらが雑魚なことに変わりはねぇ」
「ヴッ……」
確かにそうだ。
今回の作戦の根本的なところは、ティアのおかげでもある。
「まずはテメェだ」
ネイビーがノースを指差す。
「攻撃が水の爪でワンパターンすぎる。二分も戦えば相手に適応されて終わりだ」
「……」
ノースは何も言い返せない。
「次にテメェだ」
そう言って、ネイビーは後ろの扉を開ける。
すると――。
「……?」
中からボアが出てきた。
「スピードはあるようだが、そのスピードにエネルギーが乗り切れていない。宝の持ち腐れだな」
「……はい」
「最後にテメェだ」
そう言って、ネイビーはカイを指差す。
「テメェは……なんだか中途半端だな」
「中途半端……ですか?」
「ああ。戦い方も多種多様で、二つのエネルギーを使えるようだが……逆に、それが仇となっている」
ネイビーはカイをじっと見つめる。
「一つ一つの技の威力が中途半端で、持ち味を生かしきれていない」
「……」
「応用よりも、所有する一つ一つの能力を、しっかりと脳と体に叩き込め」
「はい!」
カイは力強く返事をする。
「三日後だ」
三人が顔を上げる。
「三日後に海底神殿へ向けて出発する」
ネイビーは三人を見渡した。
「その間に技術の向上が見受けられなかったら――一生、第二部隊の雑用をさせる」
「三日か……」
期間は短い。
だが、そんなことはやらない理由にはならない。
「はい!」
「よろしくお願いします!」
三人は勢いよく返事をした。




