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帰る場所は海の底  作者: cat-run
第六章 海底神殿

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第六十三話 討伐

 第六章 海底神殿

       第六十三話 討伐


カイは、自分の手の中で揺れる炎を見つめながら考える。


 族長は、俺たちの体内に耐火の術と呪いとしてフレイムエネルギーを取り入れた。


 そして、デニズさんが言っていた。


 ――海子は、すべてのエネルギーを扱うことのできる器。


 だったら……。


 体内に偶然入り込んだフレイムエネルギーも、もしかしたら扱えるんじゃないか?


 カイの直感は正しかった。


 少量でも体内にフレイムエネルギーがあるのなら――こちらのものだ。


「イカ焼きにしてやるよ!」


 そう叫んで、カイはイカへと突っ込んでいく。


「カイ! 一体、何がどうなってるんだよ!」


「ノース、ボアくん! 動き回って、イカにフレイムエネルギーを使わせて!」


「ただし、水はかけるな!」


「了解です!」


「あー、分かった!」


 状況を完全には理解できていない二人だったが、カイの指示に従ってイカの周囲を駆け回る。


 イカは二人を追いかけるように、何本もの触手を地面へ叩きつけていく。


 カイもその周囲をぐるぐると走り回る。


 激しく触手を動かし続けたせいか、イカの体から放たれる熱が徐々に強くなっていく。


「今だ!」


 カイはそう叫ぶと、熱を帯びたイカへ一直線に突っ込んだ。


 そして、目の前で急停止する。


「思いつきの――豪炎拳!」


 咄嗟に思いついた技名を叫びながら、イカの体へ拳を叩き込む。


「ドォン!」


 しかし――。


 イカは、びくともしない。


「まだだ!」


 二発目。


 三発目。


 カイは休むことなく拳を叩き込んでいく。


 殴れば殴るほど、拳を振る速度が上がっていく。


 そして、拳から放たれる炎の温度も増していく。


「だあぁぁぁぁ!」


 カイは一心不乱に殴り続ける。


 イカがわずかに怯んだ。


「効いてる!」


 イカはすかさず反撃しようとする。


 しかし――。


「……あれ?」


 カイのもとへ、触手が一本も届かない。


 八本の触手は、ボアのヤスによって地面へ固定されている。


 残る二本の触腕も、ノースとボアへの攻撃に使っているため、カイへ向ける余裕がない。


 さらに、カイの猛攻によってイカは押し込まれ、体勢を変えることすらできなくなっていた。


「これなら!」


 まさに――。


 タコ殴りならぬ、イカ殴りである。


 イカは触腕を必死に振り回している。


 しかし、体内へ次々と送り込まれる熱によって、その動きは徐々に鈍っていく。


「触腕の速度が落ちている!」


 ボアが叫ぶ。


 そして、しばらくの攻防の末――。


 力と熱に押し切られ、ついにイカは動きを止めた。


 ズズン……。


 巨大な体が地面へ倒れ込む。


「っしゃあ! やったー!」


 カイはイカがもう起き上がらないことを確認すると、勢いよく飛び上がった。


「はー……疲れた」


 ノースはその場に座り込む。


「カイ、その力……一体どういうことなんだよ?」


「あはは……俺も、あんまりよく分かってないんだけど」


「まあ、今はとりあえず無事に倒せたことを祝いましょう」


 ボアがノースをなだめる。


「ほっほっほ。見事な拳じゃった」


「!」


 高笑いしながら現れたのは、族長と二人の護衛だった。


「あの……俺にも説明が欲しいんすけど……」


 カイだって、まだ分からないことだらけだ。


「その瞳じゃ」


 族長はそう言って、カイのエメラルドグリーンに輝く瞳を指差す。


「それを見て、お前さんがもしかしたら海子なんじゃないかと思っての。だから、余分にフレイムエネルギーを渡した。それだけの話じゃ」


「じゃあ、族長さんは知っているんですね? 海子のことを……」


 族長は、ゆっくりと頷いた。


「まあな。実物を見るのは初めてじゃったが……」


「そうだったんですか……」


「何にせよ、よくやったわ。集落に戻って治療を受けるといい」


 族長はそこで一度言葉を切る。


「海子の兄ちゃんは、儂のところへ来い」


「はい……」


     * * *


 一人、古民家へ連れてこられたカイは、族長と向かい合って敷物の上に座っていた。


「海子が二人もいると聞いてはいたが、まさかこんなところへ来るとはのう」


「あはははは……」


 とりあえず愛想笑いを浮かべておく。


 海子は、その能力ゆえにさまざまなところから狙われている。


 もちろん、イグニス族も例外ではない。


 もし武力を行使されでもしたら、たまったものではない。


「して、お主……」


 族長が口を開く。


「儂らの仲間にならぬか?」


 ――そら来た。


 言わんこっちゃない。


「申し訳ないのですが、俺には帰る場所もありますし、やらないといけないこともあるので……。今回は、ご縁がなかったということで……」


 しばらくの沈黙が流れる。


 そして――。


「まあ、仕方がないの」


「え?」


 やけにあっさりと引き下がった。


「別に気にせんでいい。儲けもんくらいの感覚で誘っただけじゃ」


「……」


 なんだ、この親しみやすくて温かい人は?


 さっきまで背中を叩かれた怒りは、どこへやら。


「お主はもう、フレイムエネルギーを使いこなせるのか?」


「まあ、はい。出したり消したりはできます」


 そう言って、カイは手のひらに炎を灯す。


 そして、それを消す。


 もう一度、灯す。


「ほう……」


 族長は感心したように頷く。


「大したものだな。どれ、仲間を連れてきなさい。呪いだけ引き剥がしてやろう」


「本当ですか?」


「うむ。耐火の術は昨日、四日分かけておいたから大丈夫なはずじゃ」


「四日分……」


 思ったより短い。


 まあ、火山帯を抜けるには十分か。


 こうして、無事にイグニス族の集落を後にした一行は、第三拠点へ向けて旅立った。


     * * *


「ったく、カイは本当に無茶をする」


「ははは、ごめん」


 二輪トビウオを走らせながら、ノースが呆れたように言う。


「あのときの背中の痛み、入団試験で結晶に触れたときと同じ感覚だったんだ」


「入団試験? 痛みなんてあったか?」


「その……俺は特殊だったから……」


「ふーん?」


 ノースは納得していないようだった。


「まあ、次の宿が見つかったら、ゆっくり話しましょう」


 ボアがそう言う。


 三人は二輪トビウオを走らせ、火山地帯を抜けていく。


 こうして一行は、次なる目的地――第三拠点へ向けて旅を続けるのだった。


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