第六十一話 連帯責任
第六章 海底神殿
第六十一話 連帯責任
あたりに重い空気が漂う。
「まあ、そこに座りなさい」
族長はそう言って、目の前の敷物を手で指し示す。
三人は言われるがまま、そこへ腰を下ろした。
族長は木のコップに入った、何やら怪しげな液体を飲みながら、ゆっくりと口を開く。
「最近、ここいらで面倒ごとが起きているんじゃよ」
「面倒ごと……ですか?」
「ああ。つい最近のことなんじゃが、火山帯を妙な生き物が徘徊しているんじゃ」
「ほう?」
「巨大なイカじゃ」
巨大なイカ?
ダイオウイカとか?
「いわゆる、海獣というやつじゃな」
「⁉︎」
そんなバカな!
オーシャンドーム内に海獣がいるはずない。
「何かの間違いでは? ダイオウイカとか……」
「あれは普通のイカなどではない。水を操るイカじゃ」
「……」
「現に、うちの兵が数人やられておる。全く、いい迷惑じゃ」
「それで、俺たちは何を?」
ノースが尋ねる。
「あの化け物は、貴様ら海底人が生み出した代物じゃ。よって、奴の討伐を命ずる」
「これに背いた場合は……」
ノースが後ろを振り返る。
そこには、先ほどの二人の男が立っていた。
二人とも、こちらを睨みつけている。
くそ……。
タラッサの奴が、俺たちの足止めをしようとしているのか?
だったら、ここに留まるほど奴らの思う壺だ。
どうする?
「やります」
口を開いたのは、ボアだった。
「え?」
カイとノースは目を丸くし、真ん中に座るボアを見る。
「ちょ、ちょっと……」
「さっさと倒せばいいでしょう?」
「そうだけど……」
「先のことを考えれば、受けたほうがいいですよ。それに、迷っている時間が一番無駄です」
正論を真正面からぶつけられ、二人は黙り込む。
「それでいいんじゃ」
族長は満足そうに頷いた。
「どれ、背中を出しなさい」
「背中?」
言われた通り、三人は族長に背を向ける。
すると――。
「えいっ!」
バシンッ!
「痛っ!」
三人の背中に、族長の平手が思いっきり叩き込まれた。
三人は同時に飛び上がる。
ただの平手打ちではない。
打たれた場所が熱く、ヒリヒリする。
「耐火の術をかけた。ついでに呪いも」
「の、呪い?」
「もし、この火山帯から逃げようものなら、お主らの体内にある儂のフレイムエネルギーが燃え上がるからの」
「なにそれ、怖い!」
ジンジンと痛む背中をさすりながら、カイは恐怖する。
「ん?」
すると族長は、カイの方を見て眉をひそめた。
「お主……」
「?」
「いや、なんでもないわ」
族長はそう言って立ち上がる。
そしてカイの背後へ回ると――。
「えいっ!」
「ギェッ!」
再び、重い一撃がカイの背中に叩き込まれた。
「は? なんで!?」
痛みと怒りに満ちたカイは、地団駄を踏む。
その様子を見て、族長は高らかに笑った。
「今日はもう寝ることじゃな」
「……」
宿へ案内されると、一応、食事などのもてなしを受けた。
だが、カイの機嫌は直らない。
そのまま敷物へ倒れ込む。
「あのクソジジイ……覚えてろよ」
まだ背中が痛む。
しかし、怒りはやがて眠気へと変わっていった。
* * *
翌日。
俺たちは、迷惑なイカを討伐するべく火山帯へと出かけた。
「こんな近距離にマグマがあっても暑さを感じないだなんて、耐火の術ってすごいな」
辺りにはイカどころか、生き物の姿すらない。
そもそも、こんなところで生活するイカなんているのかよ……。
心の中で愚痴をこぼしながら、ノース、ボアと共に火山帯の奥へと進んでいく。
そのとき――。
ゴゴゴゴゴ……。
地鳴りが響いた。
「ん?」
次の瞬間、目の前のマグマが勢いよく噴き出す。
「おわっ! あぶな!」
「何だ⁉︎」
「下です!」
ボアが叫ぶ。
カイの足元の地面が大きく割れた。
その隙間から、巨大な触手が勢いよく飛び出してくる。
「うわっ!」
カイは咄嗟にジャンプしてかわす。
すかさずノースが水の爪を作り出し、触手へ攻撃を加えた。
「こいつ、火山帯の地中に潜むってどういう神経してんだよ⁉︎」
ズズズズ……。
地面が大きく崩れ、その中から巨大なイカが姿を現す。
その姿は、これまで遭遇してきた海獣とはどこか違っていた。
「こいつ……炎を纏ってやがる!」
ノースの焦ったような叫びが、辺りに響き渡った。




