第六十話 イグニス族
第六章 海底神殿
第六十話 イグニス族
翌日――。
セレベスを出て、再び第三拠点へ向けて旅立つ。
昨日の話では、大きな山を越えて火山帯を通る、少々危険な道のりらしい。
確かに、進むにつれて少しずつ草が減ってきた。
やがて辺りはゴツゴツとした岩場へと変わり、道の傾斜も徐々に増していく。
少し高台まで登ったところで、それまで見えなかった遠くの景色が一気に開けた。
「わぁ……」
そこには、先端が二股に分かれた巨大な山が聳え立っていた。
「ん、え? あれ越えるの?」
「そうだな」
「マジで?」
「はあ、はあ、はあ……。まだっすか?」
かれこれ二時間ほど、山道を進み続けていた。
道はしっかりと整備されていることが、せめてもの救いだ。
しかし、木が一本も生えていない山道というのは、なんだか不思議な感じがする。
「もうすぐ山頂だ」
ノースの言葉通り、しばらくすると山頂へたどり着いた。
片道二時間。
これから下り道もあるというのに、山頂からの景色は圧巻だった。
山を挟んだ反対側には、黒い地面がどこまでも広がっている。
そのところどころが、赤く光っていた。
「これが火山地帯ってやつか……」
「この火山地帯側の麓に、イグニス族の集落の一つがあるんだ」
「そこで耐火の術をかけてもらうんですね」
「耐火の術?」
「ああ。海底火山周辺は高温だから、フレイムエネルギーを持つイグニス族に耐火の術をかけてもらうんだ」
「なるほど」
「夜になる前に集落へ到着したいですね」
そう言って、ボアとノースが二輪トビウオに跨る。
カイも二輪トビウオに跨り、二人の後を追うように走り出した。
下山すること二時間弱。
道はやがて、山の中へと続くトンネルに入っていった。
しばらくしてトンネルを抜けると――。
「あ、集落が……」
麓の方に、いくつもの灯りが点々と見える。
もう日没が近い。
三人は道に沿って進み、集落へとたどり着いた。
木でできた門の前には、二人の門番が立っている。
半裸の上半身には鍛え上げられた筋肉が浮かび、顔には独特な赤色の紋様が描かれていた。
どうやら、この人たちがイグニス族らしい。
三人は門の前に二輪トビウオを停める。
そしてノースが門番に話しかけた。
「どうも。マリネアから来た海衛団のノースと申します。こちらは同じくカイとボアです。今晩、こちらで泊めていただきたいのですが」
門番たちは顔を見合わせ、何やら話し合う。
そしてしばらくすると、一人がこちらへ向き直った。
「入れ。族長のところへ案内する」
種族が違うから、てっきり知らない言語で話すのかと思っていた。
だが、普通に言葉が通じた。
「イグニス族は、イグニス語と共通語を話します」
ポカンとしているカイに、ボアが耳打ちする。
「ん? 共通語?」
「はい。人間に通じる言葉です」
「そういえば、普通に日本語で通じるんだよな」
「ニホンゴ?」
「いや、なんでもない」
海底世界に来てから、言語で不便を感じたことは一度もない。
「共通語は、人間ならば自然と意味がわかる言葉ですよ」
「へえ……」
原理はよくわからない。
だが、とりあえず普通にコミュニケーションが取れるなら、万々歳だ。
「おい、行くぞ」
「はい!」
三人は門番に連れられ、一軒の古民家へと案内された。
中へ入る。
そこには、屈強な男が二人。
そして、族長らしき老人が一人、敷物の上に腰掛けていた。
「よくぞおいでなすった」
老人がそう言った瞬間だった。
バタンッ!
古民家の扉が勢いよく閉められる。
そして、出入り口には二人の男が立ち塞がった。
「……」
あれ?
なんか、嫌な予感がする。
元現代の地上人としての勘が、そう告げていた。




