第五十八話 四大神
第六章 海底神殿
第五十八話 四大神
デート(?)の日から数日後――。
午前はマールと治癒能力の特訓。
午後はデニズやノース、ボアとの特訓。
そんな特訓づくしの日々を送っていた。
なんだか、海衛団に入団したばかりの頃を思い出す。
「こう、もっとアクアエネルギーを圧縮するの」
「こう……?」
「そうそう。もう少しだけ集中してみて」
いまだに、マールがアクアエネルギーを使える理由を俺は知らない。
一度デニズに相談してみたこともある。
『前例を見たことがないから、よくわからないが……。海子の持つ力は計り知れない。生まれつき体内にエネルギーを所有していても、おかしくはない』
返ってきたのは、なんとも曖昧な答えだった。
だが、おそらくそれが事実なのだろう。
マールがアンカーの地下にある結晶に触れたとは考えづらい。
ただ、そうなると新たな疑問が浮かんでくる。
だったら、なぜ俺は生まれつきエネルギーを持っていなかったのだろう?
わからないことは、まだまだ多い。
時間があるときには、図書館にも通った。
目的はもちろん、海底神殿に関する資料を探すためだ。
「あん? 海底神殿に関する本を探しとるんか? それなら、百八十三の棚にあるで」
「ありがとう。司書さん」
何度もここへ通うことになるのだが、いつまで経っても司書さんのサメ頭には慣れることができなかった。
言われた棚へ向かい、適当に本を何冊か取り出す。
そして机に並べ、一冊ずつ開いていく。
「え〜っと……」
海底神殿は、海底王国の建国者であるポセイドンを祀っている神殿である。
約二千年前、地上神ゼウスが海底神殿にポセイドンを封印した。
「地上神……ゼウス……」
ゼウスという名は、地上で聞いたことがある。
たしか、ギリシャ神話に登場する全知全能の神だったはずだ。
ただ、俺が知っているゼウスは、地上神なんてものではなかった。
それに――。
地上神は、四大神とは別物なのか?
わけがわからない。
気になったカイは、急いでカウンターへ向かった。
「司書さん! この世界の神話についての本とかない?」
「だから、数ヶ月前に何者かに水かけられて台無しにさせられたんや!」
カイの勢いに負けず劣らず、司書さんの勢いも激しい。
「替えはないの?」
「まだ、手に入っとらん! この国で物を……特に本を手に入れるのは至難の業なんや!」
「じゃあ、司書さんは何か知らない? 神のこと」
「神について? 何が知りたいんや?」
「その……地上神ゼウスのこととか……」
「ゼウス? ……ああ」
「なんか知ってる?」
「そうやな……。ゼウスは四大神の生みの親っていうことぐらいしか知らないわ」
「生みの親?」
「ああ。こんなことは常識やろが」
俺は別に、地上で歴史について専門的に勉強していたわけじゃない。
伝記を読むのは好きだったが、ギリシャ神話についてはあまり詳しくない。
ただ、ゼウスが神々の生みの親という話は、聞いたことがあるような、ないような……。
「おーい、大丈夫か?」
「ねえ、神って他にどんなのがいるの?」
この際だ。
聞けることは、全部聞いておこう。
「そうやな……」
司書さんは少し考え込むと、ゆっくりと話し始めた。
「まず、四大神と呼ばれている者からや。一人目はポセイドン様。これはあんちゃんも知っとるやろ。アクアエネルギーを司る神で、海底王国の建国者や」
「はい」
「二人目は、グランドエネルギーを司るクロノス」
「グランドエネルギーってことは……」
「ああ。信者の九割九分は地底人や」
「なるほど……」
「三人目は、ライトエネルギーを司るウラノス。そして四人目は、フレイムエネルギーを司る女神、ヘスティアや」
やはり、四大神と四大エネルギーには共通点があるのか。
「さっきあんちゃんが言ったゼウスは、これとは別物や」
「別物って……?」
「……わからん」
「えっ」
思わず肩の力が抜ける。
「なぜ除外されているのかは、ワイにも分からん。おそらく、同じ地位にいないからだと思うが……」
「じゃあ、やっぱりゼウスが一番強いの?」
「ああ、ちょい待ち……」
そう言って司書さんはカウンターから出ると、棚へ向かって一直線に歩いていった。
そして、そこから一冊の本を取り出す。
「これは絵画の本や」
「絵画?」
「美術館系の本は無事だったんでな……。確かここにゼウスの絵画が……。あ、これや!」
そう言って、司書さんは本を開き、一枚の絵を見せてきた。
「こ、これって……!」
そこには、いかにもギリシャ神話に出てきそうな、やや年配の男が描かれていた。
堂々とした風格。
神々しさすら感じさせる、その姿。
そして――。
その男の瞳は、エメラルドグリーンに輝いていた。




