第五十三話 家族
第五章 手記の記憶
第五十三話 家族
「はあ、はあ、はあ……」
タラッサは、ブラインに化けたテラの跡を追っていた。
路地の角をいくつも曲がりながら、必死にテラの姿を探す。
周囲からは、誰かが戦っているような音が聞こえてくる。
もしかして、テラが別の誰かを襲っているのだろうか。
あいつを放っておいたら、何が起こるかわからない。
そう思い、必死になって走る。
走る。
走る。
やがて、視界の先に荒廃した街並みが見えてきた。
「何だ、これ……」
周囲を見渡す。
そして、ようやく見つけた。
「いた!」
タラッサは水の輪っかを作り出し、不意打ちを仕掛ける。
「これで終わりだ!」
ブラインの胸を、カマスが突き抜ける。
貫かれた胸から血が溢れ出す。
「ガハッ……」
「ブライン!」
今まで気づかなかった。
すぐそばには、タコ郎もいた。
そして、悲痛な叫び声が上がる。
ドクンッ。
心臓が跳ね上がる。
まさか。
そんなはずは……。
「やるね、テラ君……」
一部始終を眺めていたクラックが、ぽつりと呟く。
「クックック……。騙された!」
瓦礫の隙間から土が溢れ出し、人型をなしていく。
そう。
ブラインの姿に……。
「お前、まさか……」
眩暈がする。
今、目の前で起こっていることを、脳が処理できない。
いや。
したくないのだ。
「ブライン!」
そう叫ぶと、タコ郎はブラインのそばへ駆け寄る。
「タ……タコろ……」
ブラインの呼吸は荒い。
このままでは……。
「あり……がとう……」
「ブライン……ダメだ。帰るんだろ? 俺と……」
「お……れの……かぞくに……なっ……てくれて……」
涙で、ブラインの顔がよく見えなかった。
だが、間違いなくブラインは微笑んでいた。
「ブライン……」
名前を呼ぶことしかできなかった。
「いいね。死に際を見届ける親友と、その手で殺めてしまった親友。この芸術的で美しい風景。大好物だ!」
高らかにクラックが笑う。
その顔面が、触手によって消し飛ばされる。
しかし、すぐに頭が再生する。
「さて、海底に置いていかれた哀れなタコは、何を選択するんだろうね」
クラックは、なおも続ける。
タラッサは、その場に崩れ落ちた。
「そんな……。バカな!」
ご満悦な表情を浮かべ、クラックは上機嫌にテラへ語りかける。
「ありがとう、テラ君。おかげでまた面白いものが見れたよ」
「お気に召して何より。僕はもう引くよ」
「もう帰るのかい?」
「いや、本体と合流したい」
「なるほど」
「それに……」
「どうやら、ゲームセットのようだ」
カツ、カツ、カツ……。
足音が、静まり返った戦場に響き渡る。
「⁉︎」
「随分と派手にやってくれたな」
肩に長いバッグをかけた男だった。
胸の徽章は、緑色に輝いている。
「お前、まさか……」
クラックの表情が、少しずつ曇っていく。
「団長か?」
「海衛団団長、グラウコス。いざ参る!」
そう言って、フッとグラウコスの姿が消える。
次の瞬間。
テラの腹を、グラウコスの手が貫通していた。
貫いた手に、凄まじいエネルギーが集まる。
「あーあ、まったく面倒だな」
そう言って、テラの体は弾け飛ぶ。
散った土塊は再生せず、ボロボロと崩れていく。
「ちっ、クソが!」
悪態をついたクラックは、地面に土の球を投げつける。
周囲に土煙が撒き散らされる。
煙が晴れる。
そこには、もうクラックの姿はなかった。
「逃げられたか……」
グラウコスは短くそう呟くと、タラッサ、タコ郎、ブラインを順番に見る。
タコ郎は、ブラインを腕に抱いている。
グラウコスは周囲を見渡した。
辺りには、崩壊した街と、何人もの海衛団員の遺体が残されていた。




