第五十一話 揺らぐ世界
第五章 手記の記憶
第五十一話 揺らぐ世界
ドゴーン!
どこかで轟音が鳴り響く。
「タラッサ君! 一度アンカーに戻ろう!」
「……」
「そうですね。一旦戻って、タコ郎さん達と合流しましょう」
カニの頭をした先輩の隊員とともにパトロールに出ていたタラッサは、街に漂う違和感を感じ取っていた。
「今は私たちの出る幕じゃないな。嫌な予感がするし、警戒しつつ戻ろう」
先輩はそう言って、タラッサとともにアンカーへの道を急ごうとした。
「タラッサ!」
突然、名前を呼ばれて振り返る。
「ブライン!」
別の道からブラインがやってきた。
何やら焦った様子だ。
「どうしたんだ? 何があった?」
「そこで、地底人の幹部らしき奴と遭遇して、今タコ郎が戦っているんだ。俺も急いで行かないと」
「そうか。微力だが、俺も戦おう。タラバ先輩は?」
「ならば私は救援要請をしてこよう」
「わかりました! よろし――」
その途端、タラバの腹を何かが突き抜けた。
これは……土の剣?
「ガッ……」
その背後には、いつの間にかブラインの姿があった。
「タラバ先輩!」
その様子を見て、ブラインの口角が上がる。
「ぷっ、あはははは」
「ブライン……なのか?」
「はは、はー……。面白い。こんなコロっと騙されるとは……」
「答えろ、お前は誰だ!」
「俺は地底国皇帝のお膝元、テラ」
「てめぇ、地底人か……」
「正解! よくでき――」
その瞬間、タラッサの隣に水の輪っかが現れる。
「やれ!」
輪っかの中からサメが飛び出し、テラに襲いかかる。
「ははっ、何だこれ!」
サメがテラを噛みちぎる。
辺りに泥の破片が飛び散る。
しかし、すぐさま泥の破片が集まり、再び人型に形成されていく。
「すご……」
テラが次の言葉を発する前に、ハリセンボンの針がその体を貫く。
それでも、また人型に形成される。
「お前、不死身なのか……」
「さあ、どうだろうね」
テラが刺股のような武器を片手に、一気に距離を詰めてくる。
瞬時にタラッサは、柄の長い斧を水で作り出す。
二人は激しく攻防を繰り広げる。
近接戦においては、テラの方が一枚上手だ。
テラはものすごい速度で突きを繰り出していく。
その死角から、カマスがテラの体へ向かって突進し、体を貫く。
一度テラが後ろへ下がろうとするが、今度はウツボの群れが襲いかかる。
さらにサバも突進して追撃する。
テラはウツボを弾き飛ばし、サバたちに向かって泥の球を放つ。
泥の球がサバに命中し、サバは散り散りとなる。
そのままテラは、タラッサに向かって攻撃を仕掛けようとした。
だが――。
足にはタコが巻きついていた。
一瞬だけ、テラの動きが鈍る。
その隙を見逃さず、タラッサはテラの脳天へ斧を振り下ろす。
テラの体が、縦に真っ二つになる。
「はっはっ、やるね」
半分に割れた顔で、テラは笑う。
しかし、そのまま胴体がくっついていく。
再び斧を振りかざすが、テラはギリギリでかわす。
そのままテラは、タラッサとは逆方向へ向かって走り去っていく。
「くそ、待て!」
そう言ったものの、タラッサはタラバの方へ向き直る。
かろうじて、まだ息がある。
「カマス、タラバ先輩をアンカーまで連れていってくれ!」
タラッサはそう頼むと、ブラインの姿形をしたまま逃げていったテラを追いかける。
「お待たせ! タコ郎!」
ブラインの言葉とともに、クラックの腕が地面に落ちる。
「ブライン!」
「よそ見とは随分と余裕だね!」
そう言って、土の剣を持った片腕でクラックがタコ郎に襲いかかる。
タコ郎の触手がうまくうねり、土の剣を弾き飛ばす。
ブラインも攻防に加わる。
クラックは、欠損した腕には警戒していなかったのだろう。
いきなり切断面から新たな腕が生えてきて、ブラインの腕をガッチリと掴んだ。
「なっ!」
身動きの取れないブラインに向かって、土の剣が振りかざされる。
しかし、タコ郎が触手を土の剣に巻きつけ、攻撃を止める。
その隙を突いて、ブラインは腕を回転させ、クラックの腕を振り払う。
さらに触手で攻撃を入れながら、後退する。
「厄介な触手だな。まったく……」
そう言って、クラックは地面に手をつく。
その瞬間――。
地面が、ぐらりと揺れた。
「なっ……!」
立っていられない。
脳が揺れる。
思考が遮られる。
周囲の建物が、ガラガラと崩れていく。
やがて揺れが収まる。
しかし、余韻は続いていた。
体がふらつく。
立つことすらできない。
タコ郎とブラインは、そのまま地面へと崩れ落ちた。
「まったく、手間をかけさせる」
そう言って、クラックは土の剣を手中に生成する。




