第四十九話 刺客
第五章 手記の記憶
第四十九話 刺客
「なんだ!」
「とにかく行ってみよう!」
そう言うなり、声のした方向へブラインは勢いよく駆け出していく。タコ郎もその後を追いかけた。
路地に入り、再び広場へ抜ける。
そこに広がっていたのは、凄惨な現場だった。
辺りには血溜まりができていて、海衛団の隊服を着た隊員が数名、血を流して倒れていた。
少し離れたところには、住民らしき女性が尻餅をつき、怯えている。
そして何より、血溜まりの中に、一つの人影がゆらゆらと揺れていた。
「おー、来たのか。俺の獲物が」
人影がこちらを向く。
二十代くらいの男だ。ニタニタと不気味な笑みを浮かべている。
「ここの連中は、良くも悪くも仲間思いだな」
「くそ、何だお前は!」
ブラインが怒鳴りつける。
「ブライン、相手は格上だ。感情に支配されるな」
タコ郎が横から耳打ちする。
「俺様は地底国皇帝のお膝元、クラックだ」
「地底国皇帝のお膝元? 何を言っているんだ」
「そうか、聞いたことがないのか。それは残念だ。君らにこの称号を見せても、まさに豚に真珠といったところかな」
「全く、ごちゃごちゃとよく喋るな。俺は口下手だから、その口少し貸して欲しいぜ」
タコ郎が会話に割って入る。
「お前らの目的は何だ」
怒りを抑えながら、ブラインが尋ねる。
「目的? そんなわかりきったことを……。海衛団の殲滅に決まっているじゃないか」
「やだ、やだ……。助けて……」
女性が声を震わせて助けを求める。
「悪いけど、無関係な奴の生死はどうでもいいんだ。でも鬱陶しいし、消えてくれ」
そう言って、先端の尖った土でできた針を女性に向かって勢いよく発射する。
瞬時にブラインが水でギザギザした円形のカッターを作り出し、土の針にぶつけた。
土の針とカッターは見事に衝突し、ハラハラと崩れていった。
このブルーカッターは、ブラインの得意技だ。
「やるね」
それでもクラックは、余裕そうな笑みを浮かべている。
「ブライン、女性を救助して安全な場所へ運んでくれ。俺が何とか持ち堪えて見せる」
「ちょ、タコ郎!」
そう言うなり、タコ郎はクラックへ向かって飛び出していく。
五本の指が伸び、巨大な触手へと変貌する。
「うおおおお!」
叫び声とともに、クラックとの近接戦になる。
触手を唸らせて攻撃を仕掛けるが、スルスルと避けられてしまう。
クラックは楽しそうに笑みを浮かべながら、触手を退けていく。
「ははっ! タコと戦うのは初めてだ!」
触手が地面を打ちつけ、地面が砕け散る。
クラックはその直前に空中へ飛び上がり、攻撃を回避する。
それと同時に、砕け散った地面の破片を蹴散らしながら、タコ郎へ向かってくる。
タコ郎はすかさず触手でガードする。
しかし――。
ガードした触手に激痛が走る。
クラックが土で作り出した土の剣が、触手に食い込んでいた。
「何だこれ⁉︎ ブニョブニョして斬りづれー!」
タコ郎は完全に断たれる前に、触手でクラックを遠くへ弾き飛ばす。
「くっ! 今度はこちらから行かせてもらう!」
その言葉とともに、クラックとの距離を一気に詰める。
すかさずクラックは土の剣をタコ郎めがけて振りかざすが、タコ郎はぬるりと回避する。
そのまま剣の連撃が繰り出されるが、それもぬるぬると避けていく。
そしてついに、隙を突いてクラックの腹に触手の一撃を喰らわせる。
「さっきのお返しだ!」
「ガハッ、そりゃご丁寧に!」
攻撃を喰らってもなお、クラックは笑い続けている。
クラックはすぐに態勢を立て直す。
だが、その瞬間――。
クラックの腕が切断される。
「これはブルーカッター!」
「お待たせ! タコ郎!」
それは、待ち望んでいた親友の声だった。




