第四十八話 警笛
第五章 手記の記憶
第四十八話 警笛
「ねえねえ、タコ郎。しりとりしよ」
「なんだ、パトロール中だぞ。それに、何だ? しりとりって」
「言葉の頭とお尻の文字を繋げていくゲームだよ。例えば、タコ、コバンザメみたいな感じで」
「ふむ。何とも難しいな」
「って、遊んでる暇はないぞ。パトロール中なんだから」
「も~、タコ郎は軟体動物なのに、頭は硬いんだから」
今日もいつも通り、ブラインと共に海底王国のパトロールをしていた。
パトロールは二人一組で行われているため、元からのパートナーであるブラインが一緒で、タラッサは別行動だ。
街の住人に挨拶をしながら、何か問題があれば対処する。
しかしながら、ここマリネアの治安は良く、問題という問題も起こらない。
「なあ、ブライン……」
「どしたん?」
「地上の世界って、どんなところだ?」
「地上?」
ブラインは「んー」としばらく考え込む。
どうやら、難しい質問だったらしい。
当然だ。
世界を簡単に語れるほど、地上も単純にはできていないのだろう。
「むむむ。難しいこと聞くね」
「悪い。もういい、忘れてくれ」
「地上はね……緑が多いし、夜もピカピカ光って明るいんだ。あとは、アニメとか映画とかゲームとかもあるし、家電もたくさんあるよ。海鮮以外の料理もあるんだ」
「よく分からんが……なるほど。そうか」
「海鮮以外の料理と言ったが、何がうまいんだ?」
「ん~、そうだね……。お米かな」
「オコメ?」
「そう。白いつぶつぶがたくさんあって、それ自体の味は地味かもしれないけれど、ほとんどのおかずに合う究極の飯だよ」
「料理ではないけどね」
そう言って、ブラインはいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「そうか」
パトロール中、ブラインは毎日、面白い話をしてくれた。
中でも面白かったのは、未来から来た猫型ロボットの話だ。
猫というものがよく分からなかったし、アニメや漫画という言葉もよく分からない。
けれど、ブラインの話を聞くことは、気がつけば日々の楽しみとなっていた。
「ねえ、タコ郎は地上に行きたいの?」
「……」
そんなこと、自分にだって分からない。
だけど、ブラインのしてくれる地上の話に、ものすごく好奇心を掻き立てられていた。
それだけは、揺るぎようのない事実だった。
もし、ブラインが地上へ帰れることになったら……。
「共に行ってみるのも、悪くはないな」
その言葉に、ブラインは満面の笑みを浮かべる。
「やった! 約束だよ!」
「ああ……」
「お父さんやお母さんに、タコの友達ができたって自慢できるよね、きっと」
「そういえば……」
タコ郎は、これまで疑問に思っていたことを口にする。
「どうしてお前は、海底世界へ落ちてきたんだ?」
「ああ、それ聞いちゃう?」
何かまずいことを聞いてしまったのだろうか……。
「家族と旅行に行っていたんだ」
「……」
「そのとき、島を観光しようってことになって、遊覧船に乗っていたんだ……」
ブラインは少しだけ俯く。
「でも、急に船が揺れ出して、俺は気を失ったんだ。それで、気がついたらここに迷い込んでいたんだ」
「……っ、それってつまり、転覆したのか?」
「多分ね」
「それじゃ、お前の家族は……」
「いや、違う」
ブラインは、すぐに否定した。
「俺はこうして助かったんだ。きっと……」
なぜ、ブラインは地上へ戻ろうとしているのだろうか。
もし、ブラインの考えている通りの奇跡が起こっているのなら、家族は海底世界にいる可能性が高い。
一体、なぜ……。
――いや、分かる。
きっとブラインは、心のどこかでは諦めていたのだろう。
せめて故郷に帰りたい。
きっと、そう思ったのだろう。
今度こそ、俺が助けてやらなくてはいけない。
手を差し伸べてあげなければならない。
「ブライ……」
「キャーー!!」
言葉を発しかけた、そのとき。
街中に、何者かの悲鳴が轟いた。




