第四十七話 なんてことない日常
第五章 手記の記憶
第四十七話 なんてことない日常
「タラッサです……。よろしくお願いします」
少年は無愛想な様子で自己紹介をすると、軽く一礼した。
「俺はブライン! よろしくね!」
さすがと言ったところか……。
初対面の相手にでも、容赦なく距離を詰めていく。
「俺はタコ郎だ」
タラッサは不思議そうな顔で、こちらを見つめている。
「それじゃ、行こっか」
ブラインはタラッサの手を引いて、王室を後にした。
タコ郎も王室を出る前にプロテウスへ一礼し、二人の後を追う。
王城を巡りながらコミュニケーションを取っていくうちに、タラッサという人物が少しずつ分かってきた。
「タラッサは、なんで海衛団に?」
「昔から憧れだったんだ。この国を守るために戦う、かっこいい姿が」
「へ~、立派な理由だね。俺よりも年下なのに、すごいな」
「ブラインさんは、何で海衛団に?」
「ブラインでいいよ。ん~、私利私欲になっちゃうんだけど、地上へ帰りたいんだ」
「地上へ……帰る? ブラインは地上から来たの?」
「うん。ここの世界も楽しいし大好きなんだけど、やっぱり人間というのは故郷を求めちゃうんだよね」
「そうなんだ……。タコ郎さんは?」
「よしなよ。タコ郎は無職を切り抜けたかっただけなんだから」
「おい、言い方に悪意を感じるんだが……」
「それは……なんか、すいません」
真に受けたタラッサが、軽く頭を下げる。
「な~んてね、冗談だよ。タコ郎は僕を助けるために入団してくれたんだ。まあ、さっきの話も半分本当だけど……」
「お前は一言余計なんだよ」
ブラインは、軽く笑っている。
それから数日が経った。
ある日の昼休み。
タラッサが一人、中庭にうずくまっていた。
「タラッサじゃないか。何をしているんだ?」
「ああ、タコ郎さん。これは、その……」
タラッサの視線の先。
茂みの中には、三匹のアジがいた。
――なんと、そのアジたちは宙を浮いている。
「何だ、これは⁉︎」
「どうやら、僕のアクアエネルギーは魚たちと通じることができるみたいなんです」
「ほー、アクアエネルギーはすごいな」
アクアエネルギーの存在を知ったのはつい最近だが、その可能性には驚かされる日々だ。
「それ、大きな武器になるんじゃないか?」
「えっ?」
「自分の強みを活かして、磨いていけば、それは自分の大きな武器となる。これは、亜人差別を受けていて、アクアエネルギーも扱えない俺に、『触手で戦えばいい』と教えてくれたときのアスターン師匠の言葉だ」
タラッサは最初こそ戸惑った様子を見せていた。
しかし、すぐに笑顔になった。
「ありがとうございます。少し、自分に自信が持てました」
そう言って、タラッサはアジを連れて城内へと戻っていった。
我ながら、いいことを言った。
タコ郎は内心誇らしげに胸を張る。
こうして、自分の言葉が誰かの助けになる。
それが、なんだかとても感慨深かった。
そんなことを思っていた、そのとき――。
「なに、にやけてんの?」
そう言って、背中を肘でつつかれた。
「ブライン!」
「ぷぷ、珍しいもん見れたよ」
焦りと恥ずかしさから、タコ郎はブラインの後を必死に追いかけていった。




