第四十五話 存在意義
第五章 手記の記憶
第四十五話 存在意義
「ここが、王城だ。あとは一人で頑張ることだ」
タコ郎はそう言って、王城に背を向ける。
「ちょっと、一緒に来てよ!」
必死にブラインがタコ郎にしがみつく。
「ちょ、やめろって。ひっつくな」
タコ郎はなんとかブラインを引き剥がす。
「さっきも言ったが、俺は王城に入れない」
「なんで!」
ブラインのシンプルでありながら、答えるのが難しい問いに、タコ郎は言葉を詰まらせる。
だが、すぐに口を開いた。
「俺が……嫌われ者だからだ」
ブラインは納得できないとでも言うように、タコ郎の顔をじっと見つめる。
「お前ら、王城の前で何をしている」
突如、目の前に四十代から五十代ほどの男が現れた。
「何か用があるのか?」
男は、長い黒髪を後ろで一つに結んでいる。
「あなたは……?」
「俺は第四部隊隊長のアスターンだ」
胸についた徽章が、青緑色に輝いていた。
「この人と一緒に王様に会いたいんだ!」
口を開いたのはブラインだった。
「プロテウス様に?」
アスターンはしばらく考えたのち、
「ここで待っていろ」
そう告げると、王城の中へと姿を消した。
しばらくして、王城からアスターンが戻ってくる。
「プロテウス様に確認が取れた。王室まで案内しよう」
そう言って、二人は王城の中へとあっさり招かれた。
つい先ほどまで公園のベンチに座っていたニートだったのに。
ここへ来ると、なんだか自分まで特別な人間になったような気がする。
「ここが、王室だ。くれぐれも粗相のないように」
アスターンは、豪華絢爛な扉の前まで二人を案内した。
この先に国王が……。
さすがに緊張するな。
ブラインが先陣を切ってノックをし、扉を開ける。
「私に用がある人間と亜人は、貴様らか」
「はい。本日は王様にお伺いしたいことがあり、参りました」
ブラインは緊張していないのだろうか。
肝の座り具合が違う。
「自分は数日前に地上からこの世界に落ちてきてしまいまして、地上への戻り方を教えていただきたく思います」
「ほう、地上へか……」
「はい」
プロテウスは興味深そうに、二人をまじまじと見つめる。
「地上へ戻る方法はあるにはある」
「本当ですか⁉」
「だが、厄介なことに、それを成し得るためには地底人の討伐が必要不可欠なのだ」
「地底人……ですか?」
驚いたブラインが、タコ郎の方を振り向く。
まるで「地底人なんているの?」とでも言いたげな顔だ。
だが、タコ郎も初めて聞く言葉に困惑していた。
「地底人は、水を操る力を持つ我々とは異なり、土を操る種族のことだ」
「もし、地上へ戻りたいのなら、海衛団に入り、地底人の捜索を行うといいだろう。もっとも、選択は貴様次第だ」
ブラインは、しばらく考え込む。
そして――
「わかりました。海衛団とやらに入ります」
「よかろう。明日、軽い入団試験を受けてもらう。何、ほとんどの者が突破できてしまう簡単なものだ」
「わかりました」
「それと……」
プロテウスは、タコ郎へ視線を向ける。
「そこの亜人はなんだ?」
「亜人がいてはダメなのですか?」
ブラインが反論する。
「ダメではない。だが、部外者がいると少々気分が悪い」
「部外者ではありません。彼は俺の恩人です!」
その言葉を聞いて、タコ郎は戸惑った。
正直、自分の立場がよく分からなかった。
何かを話したわけでもない。
何か役に立ったわけでもない。
それなのに、一体、自分は何のためにここにいるのだろう。
「貴様も、この者と共に行くのか?」
プロテウスが問う。
自分は救いようのない無職で、一文無しだ。
何の取り柄もない。
それでも――。
ブラインに「恩人」と言われたとき、ほんの少しだけ、自分の存在意義が強まったような気がした。
「はい」
タコ郎は、まっすぐプロテウスを見つめる。
「プロテウス様が許していただけるのなら、俺はこのブラインと共に海衛団に入ります」




