第四十一話 約束
第四章 深海突入
第四十一話 約束
「うっ……」
「おお、兄ちゃん。起きたかい!」
目を覚ますと、隣には全身に包帯を巻いたタコ郎が椅子に腰掛けていた。
状況を思い出したカイは、ガバッと身を起こす。
「タコ郎さん! 無事だったんですね!」
「まあ、ひどくやられてしまったが、大事には至っていない」
そう言って、タコ郎は自分の包帯を見下ろす。
「あのウツボの他にも、複数体の海獣が姿を現したもんでな……」
「そうですか……」
「それにしても、なんで俺はここに?」
カイは周囲を見回す。
自分は、どこかの岩場でタラッサと戦っていたはずだ。
「あの後、ラートルからSOS信号を受け取ったものでな。他の隊員たちを向かわせたんだ」
どうやら自分は、ずいぶん長いこと眠っていたらしい。
「タラッサは? あの女性はどうなりましたか?」
「未だに行方知れずだ」
「そう……ですか」
「兄ちゃんたちも大変だったんは重々承知してるのだが、問題の本質はそこじゃない」
「どういうことですか?」
タコ郎の表情が変わる。
「第一部隊が襲撃された」
「――⁉︎」
その報告を聞いた瞬間、カイの心臓が跳ね上がった。
ノースとポートは無事なのだろうか。
一呼吸置いて、尋ねる。
「どう……なったんですか」
「ほぼ半壊状態だ。死者十六名、怪我人多数。そして、行方不明者が一名だ」
「そんな……」
「安心しろっていうのもアレだが、死者の中に君の知人らしき人物はいない」
正直、喜んでいいのかは分からない。
それでも――ノースが無事で何よりだ。
「ただ……」
タコ郎は何かを決意したように、カイへ向き直った。
「行方不明者一名は、ポート君のことだ」
「……はっ?」
口から空気が漏れたような返事しか出てこなかった。
まるで、周囲の空気が凍りついたような感覚だった。
「行方不明とは言っちゃいるが……正直言って、あれだ」
一度は言葉を濁したタコ郎。
だが、その直後には重い口を開いた。
それは、第一部隊が奇襲された時のことだった――。
「俺は――地底国皇帝のお膝元、ナップだ」
男が名乗りを上げる。
「ポート、援護頼む」
そう言い残して、ノースはナップへ突っ込んでいく。
四方から、ひたすらに水の爪を叩き込む。
攻撃の速度は、どんどん上がっていく。
しかし――
ナップは冷静に腕を動かし、その全てを受け止めていく。
「くっ……!」
ポートの援護射撃も、ナップは軽々と避けてしまう。
このままでは、間違いなく勝つことなどできない。
ならば――少しの可能性に賭けるしかない。
ノースは体内のアクアエネルギーを絞り出す。
そして、先端の尖った水の針を大量に作り出した。
無数の針がナップを取り囲む。
「これで……!」
針が一斉にナップへ向かって飛んでいく。
いけるか――!?
その時。
ナップが地面に手をついた。
「土壁」
瞬時に土の壁がせり上がる。
水の針は次々と土壁に弾かれ、地面へ落ちていった。
「くそ……! まだだ……まだ……!」
ふらつく足で、ノースは再びナップへ立ち向かおうとする。
その瞬間――
ドンッ!
身体に衝撃が走った。
「……え?」
ナップは微塵も動いていない。
なのに――
肩を何かが突き抜けていった。
「これは……」
ノースは、ゆっくりと振り返る。
「ポー……ト?」
突き抜けたのは、水でできた銃弾だった。
ナップとの距離は、かなり離れている。
第一、ポートの射撃の腕に右に出る者はいない。
誤射などではない。
ならば――。
「どう……して……」
力なく、ノースの身体が崩れ落ちる。
その横を、ポートがゆっくりと歩いていく。
そして、ナップのもとへ向かう。
「お前がポートか」
ナップが確認する。
「はいっす。わざわざ、お出迎えしてくれて感謝っす」
「まったく……もう少し早く出てきてくれれば、ここまでせずに済んだんだが……」
ナップは頭をかく。
「まあ、何にせよ任務完了だな」
そう言って、ナップは隊員たちに背を向ける。
「行くぞ」
ポートに短く告げ、歩き出す。
「ポート……なんで? どういうことだ……!」
途切れ途切れになりながらも、ノースは必死に感情をぶつける。
「約束しただろ……。心は一つだって……」
ポートは足を止める。
そして、振り返ることなく答えた。
「甘いっすよ、ノースさん」
「そんな口だけの約束は、何の保証にもなりはしません」
「運がなかっただけっすよ」
淡々とした声だった。
「……あとは、神頼みでもしててください」
そう言って、ポートはナップの後ろへついて歩き出した。
その背中を、ノースはただ見つめることしかできなかった。




