第三十八話 最強の矛と盾
第四章 深海突入
第三十八話 最強の矛と盾
名乗りを上げたラートル。
「副隊長……。厄介なのが来たな」
眉間に皺を寄せたタラッサは、ぶつぶつと独り言を呟く。
その間に、ラートルがカイへ耳打ちする。
「カイくん。僕は攻撃面ではからっきしなんだ。動けるなら、サポートをお願いするよ」
「はい」
カイは頷く。
気合いで動け!
「今だ!」
二人は同時に、タラッサへ向かって駆け出した。
普段のラートルは想像通り、これでもかというほど動きが遅い。
しかし、ここは水中。
泳ぎであれば、カイと同じ速度で動くことも可能だ。
それを見て、タラッサが叫ぶ。
「第三部隊の盾と言ったか! これも受けられるのか、試してみようじゃないか!」
タラッサが召喚したのは――鯨だった。
大きさは普通の個体とそれほど変わらない。
しかし、その目の間には巨大な砲台が取り付けられている。
砲台へ、アクアエネルギーがみるみるうちに集まっていく。
「ラートルさん!」
「やってやりますよ!」
その言葉とともに、ラートルは目の前へ巨大な水の膜を張る。
それと同時に、鯨の砲台から、とてつもない量のアクアエネルギーが放出された。
凄まじいエネルギーが、水の膜へ激突する。
水の膜は衝撃を受けて大きく形を変え、今にも破れそうになっていた。
ラートルは、さらに膜の後ろへ巨大な水の壁を張る。
そして――
水の膜が破れた。
凄まじいエネルギーが、そのまま水の壁へ激突する。
周囲に衝撃が走った。
「ぐっ……!」
ラートルの身体が吹き飛ばされそうになる。
それでも、必死に耐え続ける。
そんな状況がしばらく続いた。
やがて、鯨の動きに少しずつ疲れが見え始める。
そのときだった。
水の壁が崩壊する。
それだけではない。
鯨が放ったエネルギーも周囲へ飛散し、やがて消えていく。
――相殺に成功した。
「はぁ……はぁ……」
ラートルは疲労のあまり、その場へ倒れ込む。
それを確認したカイは、タラッサへ向かって再び走り出した。
タラッサもアクアエネルギーを使いすぎたのか、足元がおぼつかない。
これで終わらせる!
決意とともに拳を固め、カイはタラッサへ向かって放つ。
拳が、見事にタラッサの顔面へ直撃した。
「ガハッ……!」
タラッサの身体が、後方へ吹き飛んでいく。
「はぁ……はぁ……」
勝った。
そう思った、その瞬間――
どこからともなく、拳ほどの大きさの石がカイ目掛けて飛んできた。
「!」
カイは紙一重でかわす。
「何だ?」
石が飛んできた方向――頭上を見上げる。
そこには、パラソルを持った女性の姿があった。
かなり高価そうなドレスを身に纏っている。
パラソルを片手に、ひらりひらりと降りてくるその姿は、まるでメリー・ポピンズを彷彿とさせた。
しかし、不思議なことに、パラソルの下には水が存在していない。
まるでパラソルを境界線にして、水が侵入することを拒んでいるかのようだった。
「失敗してしまったのね、タラッサ」
女性はタラッサのそばへ降り立ち、優しく声をかける。
「俺は……まだやれる」
そう言って、タラッサはよろよろと立ち上がる。
「あまり、無理をなさらないでください。それに、今のあなたがいても、戦況はあまり変わらなくってよ」
「まだだ……。まだ……」
「聞き分けがない人は、嫌われてしまいますよ? そういうことは、タービダイト様に聞いてもらってくださいな」
一体、何なんだ?
敵なんだよな?
二人の会話を聞きながら、カイは必死に頭を働かせる。
タービダイトって誰だ?
「失礼いたしました。私は、地底国皇帝のお膝元――リップルと申します」
「地底国皇帝のお膝元だと?」
地底という言葉に、カイは眉をひそめる。
しかし、不思議なことに、憎悪や敵対心が湧いてこない。
気づけば、目の前の女性の顔を見つめていた。
とても整った顔立ちをしている。
地上世界で俳優などをやっていたら、相当売れていただろう。
「何だ……俺は一体、何を……」
何を考えているんだ?
目の前にいるのは、おそらく地底人だ。
戦わなくては……。
「ふふふ。随分とお困りのようですね。無理もありません。しかし、安心してください。本日は引かせていただきます」
そう言って、リップルは手から土の玉らしきものを地面へ落とす。
玉が地面へ触れた瞬間――
ドォン!
土の玉が弾け、周囲が土煙に包まれる。
やがて土煙が晴れたときには――
二人の姿は、どこにもなかった。
周囲にいた海衛団の隊員たちも、同様に消えている。
「……」
カイは、しばらく呆然とその場に立ち尽くしていた。
そして――
突然、限界が訪れた。
カイはその場に倒れ込んだ。




