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帰る場所は海の底  作者: cat-run
第四章 深海突入

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第三十六話 最善

第四章 深海突入

       第三十六話 最善


カイは今、目の前の男に選択を迫られていた。


 死か、裏切りか……。


 善悪なんてものは、もうわからない。


 人間は皆、それぞれの価値観や正義感を持っている。この男にも、何かしらの正義感があるのだろう。


 だけど、どんな理由があろうとも、俺は今の幸せな生活を放り出すような真似はしない。


 自分にとって大切な人たちのための最善の選択。


 それが、俺にとっての最善の選択だ。


 カイは深呼吸をすると、目の前の男――タラッサにはっきりと告げる。


「いやだ。俺はお前らの仲間にはならない」


「そうか……」


 タラッサは、意外にもあっさりと諦めた。


「ならば……前言撤回だ」


「俺はお前らの敵だ」


 その言葉と同時に、タラッサの背後から何匹もの魚が姿を現す。


 これは……小型の海獣だ!


「残念だよ……。お前はもっと賢いと思っていた」


 そう言って、タラッサは手をかざし、魚たちへ合図を送る。


 合図を受けた魚たちが、一斉に飛び出した。


 それは、俺を誘拐したカマスの群れだった。


 カマスたちは、ミサイルのような勢いでカイへ向かってくる。


 すぐさま水流拳で受け流そうとする。


 しかし、カマスのスピードと鋭い頭部を完全に防ぎきることはできない。


 身体のあちこちに切り傷ができていく。


 それでも、カイは力を振り絞り、攻撃を受け流そうと動き続ける。


 痛い。


 痛い。


 痛い。


 その瞬間――


 カマスの一匹が、カイの肩を貫いた。


「グッ……!」


 激痛が走る。


「ぐあぁぁぁ!!」


 カイは腹の底から力を振り絞り、巨大な渦潮を生み出した。


 猛烈な水流に巻き込まれ、カマスたちは散り散りになっていく。


 しかし――


 今度は、頭上に浮かんでいたクラゲが毒針を放ってきた。


「くっ!」


 カイは足に水を纏わせ、間一髪で毒針をかわす。


 しかし、そこでカイの限界が来た。


 失血と疲労で、足に力が入らない。


 カイはその場に倒れ込んだ。


 そして、後方からは再びクラゲの毒針が迫っている。


 どうすればいい。


 一体、どうすれば……。


 何だか、もう疲れた。


 何でこんなところで戦っているんだっけ。


 俺は普通の高校生だったはずだ。


 普通の……。


 普通って、何だ?


 ――


「おい、カイって最近ずっとあんな様子だよな」


 小学校の教室。


 そこには、机に伏せた少年が一人いた。


「前から変だよね」


「何かあったのかな」


「ちょっと俺、行ってくるわ」


 そう言って、一人の少年がカイのもとへ近づいていく。


「よお、カイ! どうせくだらねーことで悩んでんだろ? そんなウジウジすんなよ! キモい」


「くだらないこと……?」


 カイがぴくりと反応する。


「お前に何がわかるんだよ!」


 教室中にカイの声が響き渡る。


 沈黙が流れる。


「なんだよ! 心配してやっただけじゃんか! お前みたいなキモい奴がいると目障りなんだよ! どっか消えろよ!」


「カイ、サイテー!」


 周囲から罵倒の声が上がる。


「きもちわりー。変な色の目してるくせに!」


「カイから離れろよ! 変な菌が移るぞ!」


 ――これが、普通?


 ――いいや、違う!


「ありがとう! カイ!」


「俺はマールと一緒に地上へ戻って、やり直したい!」


 あれだけ嫌いだったファミレスで、初めて人と分かり合えた気がした。


 普通なんてものは知らない。


 でも、あの瞬間から、俺の中の何かが確実に変わった。


 幸せを感じられた。


 だから――


 靴底から水を勢いよく噴射し、カイは空中へ飛び上がる。


 そのまま、毒針をかわし、着地と同時にタラッサへ詰め寄った。


「悪いけど、欲張らせてもらう!」


 こいつに勝って、地上へ帰るための手がかりを得る。


 やってみせる!


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