第三十五話 タラッサ
第四章 深海突入
第三十五話 タラッサ
「ここは一体……?」
岩場の中に広がる巨大な空間。
そこには、住居のようなものがいくつも並んでいる。
上からその集落を眺めていると、突然、カマスが身をよじり、カイを放り投げた。
「うわっ!」
いきなり放り出されるカイ。
しかし、カイは瞬時に着地点へ水のクッションを作り、事なきを得る。
無事に降り立ったカイは、周囲を見渡した。
住居には、人の気配がない。
どうやら、出かけているらしい。
謎の空間に困惑しながらも、カイは歩きながら辺りを散策することにした。
一体ここは、誰が何の目的で作ったのだろうか?
ひょっとしたら、地底人の根城なのか?
嫌な考えが頭にこびりついて離れない。
そんな考えを振り払おうとしていた、その矢先だった。
カイの周囲を囲むように、地面から少しずつ渦が湧き上がってくる。
渦はそのまま、どんどん大きくなっていく。
やがて人ほどの大きさにまで膨れ上がると、渦は消え、その中から人が現れた。
「⁉︎」
驚くべきことに、全員が海衛団の隊服を着用している。
しかし、胸についた徽章は発光しておらず、鼠色に染まっていた。
数は五人。
囲まれた。
五人は一斉に手のひらをカイへ向け、戦闘態勢に入る。
次の瞬間、手のひらから渦潮が出現し、カイへ向かって一直線に飛んできた。
カイは咄嗟にしゃがみ、五人の攻撃を避ける。
そのまま一気に間合いを詰めた。
詰め寄られた一人は慌てて手を構え直す。
しかし、その前に――
カイの水流拳が、相手の腹へ炸裂した。
仲間がやられたのも束の間、残った四人が水を勢いよく噴射して応戦しようとする。
しかし、カイは身軽にかわしていく。
そして、攻撃をかわした反動を利用し、水を纏わせた足で蹴りを放つ。
水流脚と名付けられたその技が、相手の顎へクリーンヒットした。
残るは三人!
しかし、カイが次の攻撃へ移ろうとした、その時だった。
どこからともなく、小魚の群れが押し寄せてくる。
カイは一瞬にして魚の群れに取り囲まれた。
縦横無尽に交差する魚たちが、次々とカイの身体へぶつかってくる。
「くっ……!」
カイは咄嗟に地面へ手をついた。
その瞬間――
ドォォォォン!
大規模な渦潮が発生する。
渦潮に巻き込まれまいと、魚たちは一斉に散り散りになっていく。
どうにか魚の群れを追い払うことに成功した。
散り散りになった魚たちは、頭上で再び一塊となる。
そして、そのままどこかへ逃げていった。
魚たちが逃げていった先。
そこには、先ほどの隊服を着た五人とは別の男が立っていた。
顔には、右眉から右頬にかけて、縦に一本の傷がついている。
男が口を開いた。
「この世界に来て一年ほどのガキだっていうから、あまり警戒していなかったが……想像以上につえーじゃねーか」
「お前は一体?」
「俺の名はタラッサ。元海衛団第五部隊隊長だ」
「第五部隊……隊長?」
どうして、こんなところに?
一体、何のために?
「そう警戒すんなって。つまらないやつなら、そのまま殺そうと思ったが……お前は見込みがある。どうだ、俺たちの仲間にならないか?」
この男は、何を言っているんだ?
「悪いけど、何を言っているのかわからない。お前の目的は何だ?」
「おいおい、そんなに敵意を出すなって。俺たちは、ただ平和を望んでいるだけなんだから」
「こんな強引なことをして、殺そうともして、何が平和だ!」
「そんなカッカすんなって。別に俺はお前らの敵じゃない。ただ、今の海衛団とは馬が合わない。それだけだ」
平和を望む?
わけがわからない。
「もし、断るというのなら……。お前にも想像はつくはずだ……。さあ、どうする?」




