第三十二話 海獣
第四章 深海突入
第三十二話 海獣
「タ、タコオヤジ?」
しばらく沈黙が続く。
その沈黙を破ったのは、タコオヤジだった。
「誰がタコオヤジだ! って、このやり取りもなんだか懐かしいな! 元気だったかい!」
「なんで、ここに?」
「そりゃ、俺が海衛団第三部隊隊長、タコ郎だからよ」
「タ、タコ郎?」
「どこに引っかかってんだよ」
「いや〜、王城へ行くことを勧めちまったこと、少し後悔してたんだが、こうして元気そうな姿を見ると、結果オーライな気がするわ!」
「ちょっと、脳が情報を処理しきれない……です」
「えーっと、今の会話を聞いている感じ、そこの彼とタコ郎さんはお知り合いなのかな? それに二人の反応を見るに、偶然の出会いという感じなのかな。まさに奇跡だね。こうして人と人が意図せず再会で――」
「すまない、ラートル。武器庫から新しい深海用スーツを取ってきてくれぬか?」
ラートルは水を差されたからか、不服そうに武器庫へ向かっていった。
「さて、にいちゃん。まさか入団して、ここまで来るとは思わなかったわ。一年も経たずしてここにいるのは、本当にすごいぞ」
「本当に隊長なんですね」
「ああ。あそこの病院にいたのも、地底人との戦いで危機的状況に陥っていたからなんだ。まあ、にいちゃんが運ばれてくる頃には、もう完治していたがな」
「とりあえず、元気そうで何よりです」
「にいちゃんも、なんだかたくましくなったみたいだな」
ふと時計に目をやったタコ郎は、慌てた様子で口を開く。
「ああ、もうこんな時間だ。詳しい話はまた後で、説明に移らせてもらおう」
「もう知っていることもあるとは思うが、しっかり聞くように」
「はい」
タコ郎は軽く咳払いをして、話し始める。
「まず、我々第三部隊の主な業務は二つ。一つ目は、地底人の捜索・戦闘だ。捜索といっても、パトロールみたいなものだ。また、地底人と遭遇した場合は戦闘となる」
「二つ目は、海獣の討伐だ。海獣が何かは、もう知っているな?」
「はい。何らかの原因でアクアエネルギーを吸収した海洋生物が、姿を変貌させたものですよね」
「その通りだ。奴らはアクアエネルギーを使った攻撃をしてくる。十分警戒するように」
「基本的にはパトロール形式で進めていくが、戦闘数は海底王国内とは桁違いだ。気を緩めないよう心がけてくれ」
説明が終わると、扉が開き、他の隊員たちがゾロゾロと入ってきた。
「これより、深海用スーツを着用して深海エリアに入る」
「はい、これをどうぞ」
背後からラートルが深海用スーツを渡してくれる。
「これは深海用スーツといって、深海で過ごすための最低限の保護機能がついた優れものでして。ここのチューブから――」
重要そうなので、着替えながら一応聞いておく。
スーツを着用し、さらに奥の部屋へ進む。
その部屋の奥には壁がなく、黒い海が広がっている。
しかし、不思議なことに水は入ってこない。
これがオーシャンドームの力なのだろう。
「これより、第三部隊、北東エリアのパトロールを始める。隊員は俺についてこい」
そう言うなり、タコ郎が深海へ飛び込む。
それに続き、他の隊員たちも次々と飛び込んでいく。
俺も訓練で会得した水圧軽減と暗視の術、そして海聴の術――水中で音を聞こえるようにする術――を発動し、ラートルと共に深海へ飛び込んだ。
深海の中どころか、この世界に来てから泳ぐのは初めてだ。
しかし、地上でも水泳を習っていて、自慢じゃないが大会に出て優勝した経験だってある。
それに、水中呼吸の術は何度もアスターンに叩き込まれたため、何も考えなくても使えるようになっていた。
ただただ快適である。
しかし、そんな快適な遊泳も束の間――
「海獣だ! 周囲警戒!」
タコ郎が声を張り上げる。
確かに、何かが近づいてくる気配がする。
そして前方から、赤い三つの光がこちらへ向かって迫ってくる。
「あれは!」
それは、チョウチンアンコウのような見た目をしていた。
しかし、至る所に鋭いトゲが生えている。
体長は五メートルはある。
まごうことなき――海獣だった。




