第二十八話 出陣
第四章 深海突入
第二十八話 出陣
寮にて、必要なものをバッグに詰めていく。
「先輩! これも持って行ったほうがいいっすかね?」
そう言って、ポートは手に持っていたアヒルのおもちゃを差し出す。
「そういうの持ってくと、荷物がかさむぞ」
無事に訓練を終えた俺たちは、オーシャンドームの出入り口付近にある海衛団第二拠点へ移動するべく、荷物をまとめていた。
こちらの寮には、月に一度、二日間しか帰ってこられないとのことだ。
拠点への出発は明日。
今日のうちに荷物を整理し、朝イチで出発する。
正直、向こうの環境が分からないので、何を持っていくべきか考えるのに手間取っていた。
「そういえば、先輩。マールさんに挨拶しに行かないんすか?」
「荷造りが落ち着いたら行くつもり」
マールとの再会。
内心、ワクワクが止まらない。
「どうしたんすか? ニヤけちゃって」
慌てて顔を隠した。
時刻は夕方。
コンコンコン。
アパートの扉をノックしてみる。
「はーい」
そう言って、扉が開く。
淡い黄色の髪と、エメラルドグリーンの瞳が覗く。
カイの姿を見た途端、マールは目を輝かせた。
「カイ!」
「や、やあ、マール。元気に……」
そう言いかけたとき、マールの腕がカイの体を包む。
「マ、マ、マールさん? い、いったい何を?」
生まれて初めてのシチュエーションに、カイの脳はショートしかける。
「ごめん。ただ、嬉しくて……」
「無事に私の前に立ってくれていることに」
「お帰りなさい」
その言葉に、カイもマールを優しく抱き返す。
「ただいま」
そのやり取りができることに、幸せを感じずにはいられなかった。
その日の夜は、マールと食卓を囲んだ。
「それで、明日から深海での任務に参加するんだ」
「そうなのね……。それは本当におめでとうなんだけど、やっぱり私は心配だわ」
「殉職する海衛団のほとんどは、深海任務に参加する隊員だもの」
「大丈夫だ。俺はマールを残して死んだりしない」
「カイったら……」
決して深海任務を侮っているわけではない。
だけど、死ぬ気なんてさらさらない。
「深海任務に入ると、月に二日しか王城の方へ帰れなくなるんだけど、その二日は丸々休養が取れるんだ」
「だから、その二日のうち一日は必ずマールに会いにくるよ」
「うん、分かった。カイの好きな鯛を焼いて待ってるから」
「ありがとう、マール」
「お帰りなさいっす! 先輩」
部屋に戻ると、珍しくノースがいた。
「おお、ノース! 悪かったな、夕食のこと」
「別に気にしてはない。カイがこの日を楽しみにしていたことは知ってるし」
「一言余計だよ!」
「カイ、俺たちとは離れ離れになってしまうが、もし何かあったらラートルさんを頼るといい」
「ラートル……」
カイの頭に、亀の頭が浮かぶ。
「ああ! あの話が長いラートルさん!」
「ああ、あの話すのが遅いラートルさん」
そういえば、あの人は第三部隊の盾と呼ばれるほどの実力者だったな……。
「らーとるさん?」
ポートが不思議そうな顔を浮かべる。
「ああ、分かった。ありがとう! ノース」
早朝。
ボストンバッグを肩にかけ、王城を後にする。
ここから、エビぐるまと呼ばれている乗り物に乗って、海底王国北端、ペルシアへ向かう。
ちなみに、エビぐるまとは馬車のエビバージョンだ。
軽く一呼吸する。
「行こうか、ペルシアへ!」




