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帰る場所は海の底  作者: cat-run
第三章 泥沼

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第二十三話 急襲そして

第三章 泥沼

       第二十三話 急襲そして


 夜も更けた、とある一軒のアパート。その一室。


 明かりは消えており、アクアエネルギーで作られたと思われるベッドの上で、マールは眠っていた。


 ――ガタン。


 物音とともに、マールは目を覚ます。


「?」


 眠い目を擦りながら、音のした玄関の方を見る。


 しかし、何もない。


 そう思ったとき、異変に気づいた。


 扉の下の隙間から、何かが垂れている。


 茶色い。


 それは液体のようで、少しずつ量を増していく。


 恐怖と気味の悪さに、マールは跳ね起きた。


「一体、何なの……」


 土間に溜まった茶色い液体は、どんどん高さを増していく。


 やがて、それは人の形になった。


 目がつき、鼻がつき、口がつく。


 そして、髪が生えていく。


 その姿が完成した瞬間、マールは驚きの声を上げた。


「カイ?」


 そこにいたのは、カイだった。


「やあ、マール。ずっと俺は君のことを考えていたんだよ。大好きなんだよ。お願いだから、こっちにおいで」


 マールは、目の前にいる明らかにおかしなカイを拒絶する。


「チッ……」


「やっぱり何年経っても、恋っていうのは分からないものですね」


 カイの口調が変化する。


 カイは、マールへ少しずつ近づいてくる。


「やめて、来ないで」


「おいおい、悲しいな。俺と君の仲じゃないか。約束しただろ、地上に帰ろうって」


「やめて……」


 二人の距離が、一メートルまで縮まる。


 そのとき――


 バリンッ!


 窓ガラスが割れ、男が部屋へ飛び込んできた。


 男は腰から剣を抜くと、カイの胴体を両断した。


「ぐあっ!」


「カイ……いや、テラはうめき声を上げ、そのまま床へ崩れ落ちる。


「お怪我はございませんか」


 男はマールの方へ向き直る。


 黒髪のマッシュルームヘア。


 デニズだ。


「その、助けていただいたようで……」


「疑わないんですね。彼が偽物だって」


「えっ」


「だって、カイがあんなことするはずないもの」


「そうですか……」


「まったく、今日はよく邪魔が入るな。これだから海衛団の連中は気に食わないんだ」


「お下がりください」


 デニズはマールの前に立ち、剣を構え直す。


 テラは断たれた胴体をくっつけると、立ち上がった。


「あなた、カイの姿でこんな気色の悪いことしないで」


 正直者のマールは、率直に伝える。


「悪いけど、僕は今、機嫌が悪いんだよ。話しかけるな」


 そう言うと、テラはデニズに飛びかかる。


 デニズも剣で応戦する。


 激しい攻防が続く。


 隙を見て、デニズがテラの腹を蹴る。


 その衝撃で、テラはアパートの外まで吹き飛んだ。


「お前、地底人だな」


 デニズが冷たく言い放つ。


「これ以上、危害を加えるなら、ただでは済まさん」


「胴体両断しておいて、よく言うよ」


 再び、剣と土の塊がぶつかり合う。


「君みたいな若い衛兵のことはよく知らないけど、その徽章は隊長だね」


「だったら何だ?」


「隊長と入れ替われば、もう少し楽に任務を遂行できたのかなと思って……」


「今、僕はすごいピンチでさ。ターゲットを二人も逃してるんだ。戻ったら絶対にどやされちゃうね」


 同時に、テラが地面に拳を叩きつける。


 地面に亀裂が走り、ひび割れが広がっていく。


 やがて、デニズの足元まで到達すると――


 ドンッ!


 地面が爆発した。


 デニズは、すかさずジャンプしてかわす。


 着地したデニズは、剣に水を纏わせると、そのままテラへ斬り込んでいく。


 対するテラは、先端の尖った土の柱をぐんぐんと伸ばし、デニズへ襲いかからせる。


 デニズは土の柱を次々と切り裂きながら、テラとの間合いを詰めていく。


 そして――


 すかさず、デニズがテラの首を切り落とした。


 しかし、切り落とされた首はチリとなって消え、その切断面から新たな頭が生えてくる。


「化け物が」


 そう吐き捨て、デニズは後退する。


 そのとき――


 テラの頭上から、これまでにないほど大量の水が降ってきた。


「またお前か」


 テラが睨んだ先には、駆けつけてきたアスターンがいた。


「君は随分としつこいね。何でこうも居場所が簡単に破られるのか、分からなくて大変不快だよ」


「ジジイには、こうして醜くしがみつくことしかできないんじゃ」


 そう言って、アスターンは渦潮をぶつける。


 それに続けて、デニズが斬りかかる。


「何度やろうと結果は同じだよ。早く降参した方が身のためだよ」


 テラはひらりとかわし、二人を煽る。


 その間も、土の柱と渦潮の攻防は続いている。


「くそ、埒があかん」


「アスターンさん、何か良策は?」


「悪いが、何も……」


「いや――」


 そう言いかけて、アスターンは何かを思いつく。


「すまない。三十秒外す」


 そう言って一時的に戦線を離脱し、マールのところへ駆け寄る。


「嬢ちゃん、協力してくれ」


「え、は、はい」


「そろそろ一人じゃキツイんじゃないかな? ……そうだ、思い出した。僕がカイ兄ちゃんから記憶を借りたとき、お前の名前も見た気がする」


「……そうか、思い出した。デニズだ」


「名前がどうした?」


「いや、名前は大事だからさ。ちょっと油断すると、僕みたいなのに盗まれちゃうからね」


「お前がさっきから何を言っているのか、さっぱり分からん」


 土の柱と剣が交錯する。


「すまない、遅れた」


 アスターンが戦場へ復帰する。


「あのマールって娘にもらってきたこれで、通用するかどうか……」


「デニズ、連撃を加えてバラバラにしろ!」


 その言葉を受け、デニズはテラの懐へ潜り込む。


「なっ」


 テラも反応できないほどの、驚異的なスピードだった。


 水を纏った剣が、テラの体を切り刻む。


「ぐはっ」


 テラのうめき声とともに、土塊が飛び散る。


「今じゃ!」


 アスターンも飛び出し、飛び散ったテラの土塊を、手に持っていたジャムの瓶へ詰め込んでいく。


 全てを取りきることはできなかったが、かなりの量を回収することに成功した。


 残った土塊が一つに集まり、人型へと再生する。


 しかし――


「小さい!」


 明らかに、先ほどより小さくなっていた。


「これならいけるぞ!」


 アスターンが叫ぶ。


 テラの顔は、怒りで歪んでいた。



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