第二十一話 小さな狂気
第三章 泥沼
第二十一話 小さな狂気
「お前は誰だ!」
ノースが強い口調で問いただす。
「くっ、くっ、くっ……」
カイは不気味に笑い出す。
「カイ?」
ポートは、心配と困惑の色を顔に浮かべる。
「まさか、愛だけじゃなく友情でも見破られるとは……。全く、隅に置けない男だよ。カイ兄ちゃんは」
「……ッ!」
ノースが攻撃態勢に入ろうとする。
「おっと、妙な真似をするなよ。攻撃するな。そして、他の奴に秘密をバラすな。この二つのことをした場合、本物を殺す」
「お前は一体⁉︎」
「僕の名前はテラ。グランドエネルギーに力を授かりし、地底人さ」
地底人という言葉に、ノースがぴくりと反応する。
「お前が⁉︎」
「まあまあ、そうカッカするなよ、ノース君。イケメンが台無しだよ」
「黙れ! 本物のカイはどこにいる!」
「それを答えると思うのかい?」
「そうだ。今後のカモフラージュのために、なんで僕が偽物だと分かったのか、ぜひとも教えてほしいものだね」
「前に先輩がマールさんのことを話していた時と、実際に再会した時の態度が全く違ったからっすよ。それに、先輩の瞳はもっと綺麗です!」
ポートは馬鹿正直に答える。
「そうか……なるほど。やはり、愛という領域は僕には理解できない。それに、あの瞳だけは完全に再現することは難しいようだね」
「お前はカイをどうするつもりなんだ」
「そうだね……。上から抹殺命令が出ているし、聞きたいことを聞いたら殺すだろうね」
「聞きたいこと?」
「後はもう一人殺せれば、僕の任務は完了。めでたく海底王国から出れるってわけ」
「このまま逃がすとでも?」
「何? このまま死にたいの?」
どうする? どうする?
戦って勝てる相手なのか?
その瞬間――
ドカンッ!
轟音とともに、水が扉を突き抜けてきた。
その水は、見事にテラの肩に命中した。
そして、開いた扉から入ってきたのは――
「アスターンさん⁉︎」
「すまない、遅れた。事情はなんとなく分かったわい」
「アスターンさん、お久しぶりです」
テラが口を開く。
「テラか……」
アスターンは唇を噛む。
「ここで決着をつけたいところですが、そろそろ戻らないと……。老後を過ごすあなたと違って、こっちは忙しいんですよ」
「待て!」
そう言った時には、もう遅かった。
テラは身軽にポートの頭上を飛び越え、ベランダから逃げた。
「まずい。カイが殺される!」
「待て。焦っても良い結果はついてこないぞ」
「儂はプロテウスに報告してくる。君たち、ここで待機していなさい」
そう言うと、アスターンは廊下へ飛び出していった。
「ノースさん、先輩を助けに行きましょう!」
「ダメだ! 俺たちは無力で、敵の素性もよく分かっていない。ここは言う通りに待機しよう」
ノースは拳を握りしめた。
「おーい、起きてますか? カイ兄ちゃーん?」
「うっ……」
「おはようございます」
カイは、どこかの物置の中で椅子に縛り付けられていた。
「くそ、外せ!」
「それで外す奴がどこにいるんですか? バカなんですか?」
テラはそう言った後、ふと首を傾げる。
「あれ、似たような会話を何処かでしたような……」
しかし、すぐに興味を失ったように、
「まあ、いっか」
と、話題を切り替える。
「なんと、すごいことに僕の精巧な変装を二人も見破ったんです。僕は非常に驚きましたよ」
「二人?」
「はい。あなたの大切なお友達。ポート君とノース君ですよ」
「ポート! ノース! おい、二人をどうした? 答えろ!」
カイは必死になって尋ねる。
「そんなに叫ばないでくださいよ。これだから、海底人は野蛮なんですから。ああ、そういえば、あなたは普通の人間でしたね」
テラはケラケラと笑っている。
「この前、俺とぶつかったのも作戦だったのか?」
テラとの出会いを思い出しながら尋ねる。
「ええ。長期的に変装したかったので、あなたの思考回路や記憶を複製してコピーさせていただきました」
「そんなことが……」
「あるんですよ」
テラがカイの言葉を引き継ぐ。
おそらく、このテラは見た目こそ少年だが、中身はもっと邪悪で醜い姿なのだろう。
「俺をここから解放して、さっさと投降しろ!」
また、テラは高らかに笑う。
「僕だって、さっさと君ともう一人を殺して、こんなところから帰りたいんですよ」
「でも、」
「あなたに聞きたいことがあるもんで、殺すに殺せないんですよ」
「聞きたいこと?」
「ええ、カイ兄ちゃん……」
「あなたは、カギという言葉をご存知ですか?」




