第二十話 重なる感情
第三章 泥沼
第二十話 重なる感情
「おはようございます! 今日もパトロールっすね!」
寮の部屋で、いつも通り明るく振る舞うポート。
しかし、カイはいつもより遅く起きてきた。
「珍しいっすね。俺より遅く起きてくるなんて……」
「ちょっと調べ物してて……」
頭を抱えながら、カイは疲れた様子で答える。
「大丈夫っすか? 夜更かしは体に毒ですよ」
「悪い。でも、大丈夫だ」
いつもとは違うカイの様子に、ポートは浮かない顔をする。
「おっはようございます! ノースさん!」
「おはよう、ノース」
「おはよう」
「あれ、ノースさんもテンション低い?」
「俺はいつもこのテンションだよ」
そんなやり取りをしながら、三人は朝食を取るため、食堂へ向かった。
「今日、ノースの方はどの辺を周るんだ?」
「今日は東広場周辺を回る予定だ」
「へー」
「俺たちはアドリア横丁辺りっすね」
「そうだな。今日も頑張ろう!」
*
カイとポートは街を歩いていた。
ポートは周りの店に興味津々で、いつも以上に落ち着きがない。
「いやー、今日はいい天気っすね!」
「見てください! サンゴラーメンの店っすよ!」
今日のポートは、やけにテンションが高い。
「なあ、ポート。お前も今日はテンションおかしくね?」
「えっ⁉︎」
図星を突かれたように、ポートが声を上げる。
「なんというか、その……」
昨日、ノースに言われたことを思い出す。
――カイを少し気遣ってやってくれ。
「先輩こそ大丈夫ですか? なんか最近様子がおかしくて、俺、心配なんすよ」
「俺のことを気遣ってくれてるのか?」
「そりゃ、心配しますよ」
「ありがとう、ポート。俺のことはいいから、お前はいつも通りでいてくれ」
「そうっすか?」
「ああ」
「カイ?」
突然、背後から声が聞こえた。
二人は驚いて、声のした方へ振り返る。
そこにいたのは――淡い黄色の髪と、エメラルドグリーンの瞳を持つ少女。
「マール……」
カイが呟く。
「カイ、連絡がなかったから心配していたの。元気そうで良かった」
「マールも元気そうで」
「そちらの方は?」
「ああ、彼はポート。一応、俺の後輩に当たるのかな……」
「ポートっす。あなたが噂のマールさんっすね。先輩から話は聞いてます」
ポートは自慢のコミュ力を活かし、マールと会話を続ける。
「いい友達ができたみたいで良かった。色々話したいことあるんだけど、これからうち来る?」
「いいんすか?」
「ごめん、マール。今はパトロール中だから」
「あっ、そうよね。邪魔しちゃってごめんね。またお話聞かせて。あと、ウミネコ郵便でも使って連絡もよこしてね」
「わかったよ」
「じゃあね。ポートさんも、カイのことよろしくお願いします」
「任せてくださいっす!」
マールと別れたあと、ポートはカイに尋ねた。
「いいんすか? 随分とあっさり別れちゃいましたけど」
「いいんだ。もう会えないってわけじゃないし」
*
「今日も一日、お疲れ様!」
夕食のテーブルを囲み、三人は乾杯する。
「今日は先輩の彼女に会えたんすよ」
グラスの中の海藻ジュースを飲んでいたカイは、ポートの言葉に咳き込んだ。
「彼女じゃねーよ」
「彼女っていうと、例のマールって人のことか?」
「はい、偶然会えたんすよ」
「そうか。そりゃ、すごい偶然だな」
「ああ、本当にびっくりしたよ」
その後は他愛のない話をしていたが、カイは「用事があるから」と言って、夕食の席を去っていった。
カイの背中を見送ったあと、ポートが真剣な面持ちでノースに向き合う。
「ノースさん。お話があるっす」
*
ひとり、廊下を歩くカイ。
「一体全体、どういうつもりじゃ?」
背後から、アスターンの声が響いた。
「しばらく稽古を無断欠席とは、いい度胸じゃな。この前までの威勢はどうしたんじゃ」
「すいません、アスターンさん。少々、やるべきことに追われていまして」
「やるべきこと?」
「ええ。話しますよ。そのうちね」
そう言って、カイは歩き出す。
「まさか、お主……」
アスターンの眉間に皺が寄る。
しかし、カイは足を止めなかった。
*
日付が変わる頃。
カイは寮の部屋へ戻った。
「待ってましたよ、先輩」
扉を開けた、そのすぐ先。
そこには、ポートが待ち構えていた。
「珍しいな。ポートがこんな時間まで起きているとは」
「先輩こそ、随分と遅いご帰還で」
「一体どうしたんだ、ポート?」
その瞬間――。
ドンッ!
背中を押され、カイは部屋の中へ押し込まれた。
振り返る。
そこには、ノースが立っていた。
「少し話そう。カイ」
ノースはそう言うと、後ろ手でドアに鍵をかける。
「どうしたんだよ、二人して。イタズラのつもりか?」
「それはこっちのセリフだよ、カイ」
「いや、違うな」
ノースの声から、冗談めいた響きが消える。
「単刀直入に聞く」
一歩、カイへ近づく。
「お前は――誰だ?」
ノースが水の爪を構える。
同時に、ポートも水のライフルを構えた。
逃げ道はない。
その状況を見たカイは――不敵な笑みを浮かべた。




